第24話 国王からの手紙
「ずいぶんと、2人は親しくなったようね」
母イザベラが、冷たい目つきでフリージアを見る。
2人の間に不穏な空気が漂っていることを感じたクラウスは、スッとフリージアの一歩前に出てイザベラに対面する。
「私がフリージア嬢と話したことは、先日に私の父が行った非礼についてです。2人で、世間話をして談笑していたわけではありません。許していただけるとは思っておりませんが、フリージア嬢に深く謝罪しました。真に、申し訳ありませんでした」
クラウスは、母イザベラに使っても頭を下げるも、イザベラは動じず冷たい表情のままクラウスを見下ろす。
「…ふん。きっと、フリージアにも、ウィン公爵様をそうさせる、何か落ち度があったのよ」
(私に、落ち度…?ウィン公爵の態度は、私のせいって言いたいの——!?)
フリージアは母イザベラの言葉に、深く傷つき怒りが沸いたが、表情には出さず、ただイザベラを冷めた目で見るだけに留めた。
クラウスは下げていた頭を元に戻すと、フリージアを心配そうに見つめ、その後に、凛とした表情でイザベラに向き直る。
「—いえ、彼女は何も悪くありません。全ての責任と問題は父にあります」
「まぁ〜あ、クラウス卿…そんなにお気遣いなさらなくても、宜しいのですよ…。あら、そういえば、もうお帰りのお時間でございましたわよね、さっ、ダリア、クラウス卿はお帰りになられるのよ、外までお見送り差し上げて」
「…はい、お母様…」
ダリアは笑顔なく、誰の顔も見ずに視線を落としたまま答える。
顔は笑ってはいるが、目だけは笑っていないイザベラに肩を掴まれ押し出されたダリアは、クラウスの前へよろけて飛び出る。
「大丈夫ですか」
「—大丈夫です。私のことはお構いなく」
ダリアは顔を下に向け淡々と話すと、1人歩き出す。クラウスは、フリージアと母イザベラに頭を下げ、ダリアに続いていった。
去っていく2人の後ろ姿を見つめていたフリージアに、母イザベラが、ひややかな声をかける。
「彼は、ダリアにお似合いだと思うの」
まさか、話しかけられるとは思っていなかったフリージアは、パッと後ろを振り向き母イザベラを怯えた顔で見る。
イザベラは、能面のような表情に黒目だけをフリージアに向け、じっと見つめていて、フリージアはなんと答えたらいいか分からず、母イザベラを見ながら目が泳ぐ。
戸惑うフリージアをよそに、イザベラは無表情のまま、ゆっくりと口を開く。
「ねえ、そろそろ気付いているでしょう?自分の存在が、ダリアや私達家族の邪魔をしているってこと…」
イザベラが、一歩フリージアに近付く。
「フリージア、あなたがいるせいで、主人は私やダリアを一番に愛せないのよ」
蛇のような目つきで睨む母イザベラの態度と言葉に、言葉を失うフリージア。
すると、そこに父のシード公爵が大きな声をあげて走って現れた。
「おい!大変なことになったぞ!!ダリアは、ダリアは、ここにいないのか?!」
目は大きく見開かれ、焦った顔のシード公爵は、手に何か紙を握っている。
「あなた、一体どうしたというのですか、落ち着いたください。ダリアなら、今クラウス卿をお見送りに…あっ、戻ってきましたわ」
「—おぉ!ダリア!!急いでこっちに来なさい!」
父のシード公爵は、興奮した様子でダリアを呼ぶ。
「なんですの、お父様」
ダリアは走りにくいはずのドレスを掴み、一生懸命走り駆け寄ってきた。
「なんとな、たった今、急ぎで届いたのだが、我が国王から城内で、私達の娘に演奏の依頼があったのだ!」
「まぁっ!!それは本当ですの!?娘が国王の目の前で!?信じられませんわ…!!夢ではないですの…!?」
「夢ではない、まさか、こんな日がシード家に来るとは…!ダリア、フリージア、でかしたぞ!!」
父のシード公爵と母のイザベラは、2人して興奮し、目を輝かせて互いの体を手でしっかり掴むと、うっとりした表情で見つめ合っていた。
ダリアは、最初こそ何を言っているのか信じられないという様子だったが、段々と実感が湧いてきたのだろう、顔がにやけていった。
フリージアはというと、喜ぶ3人の様子を白けた気持ちで見つめていた。
母イザベラは年甲斐もなく、小さくピョンピョン跳ねながら、ウキウキした様子でシード公爵の腕につかまる。
「それで、いつなんですの?その演奏する日は」
「それがな、なんと明日なのだよ」
「明日!?」
ダリアとフリージアは、思わず同時に叫んでしまう。
明日、急に演奏することなんて、今までしたことない。
「お父様、いくらなんでも明日は急すぎるわ。国王の御前というのに、私達、何も準備できていないのよ」
「分かっている。しかし、そう手紙に記されている限り、私たちは従うしかない。仕方がないだろう」
「そうだけど…」
ダリアは嬉しい反面、不安気な表情になる。
「それにだ。よく考えなさい。今回のこの依頼は私たちにとってこの上ないチャンスなのだよ」
「チャンス?」
父のシード公爵が、母イザベラとダリアの顔を交互に見ると、にたっと笑う。
「そうだ。いいか、都合のいいことに、王族は誰1人として、フリージアの能力を知らない。ただの演奏者だと思っているところに、フリージアの能力で効果をかければ…」
「まぁ……!あなた、そんな恐ろしいこと…よく考えつきますわね、あなた」
母イザベラは言葉とは裏腹に、ニンマリとしシード公爵を見つめる。
「お父様、それで、どんな効果をかけようとお考えなの?」
ダリアも目を爛々とさせ、父シード公爵の方へ身を乗り出す。
「そうだな、私たち全員を王族の仲間入りに——がいいと思ったんだが、効果の時間は人それぞれだしな、長期的な計画にはあまり適さないだろう。下手すれば、効果のミスにより私達の立場が危うくなる。それでだ、まずは外堀から埋めていけばいいと思ったのだよ」
シード公爵は、じっと見つめる妻イザベラと娘のダリアの顔を見回し、最後にフリージアを冷めた目つきで見つめる。
「私の可愛く聡明な娘、ダリアをセレス王子の妃にと願うのだよ、フリージア」




