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第2話 能力の効果と調整

「おぉ〜私の愛する娘達よ、今日も大成功だったと聞いておるぞ!さすがは私の娘達!」


 我が家につくと父親であるシード公爵が、両手を広げ満面の笑みで出迎えた。


「本当、私も鼻が高いですわ」


 シード公爵の妻であるイザベラも、扇を開いてニコニコしながら公爵の隣に立っている。


「お父様、お母様、今日の結婚式も大成功でしたわよ。それに演奏も喜んでいただけたし。また呼んでくださると嬉しいわ!ね?フリージア!」


 ダリアが振り返り、フリージアを見る。


「まぁあ、ダリア、あなたはいつもそうやって人の幸せを喜んで、本当に優しい子ね」


「そうだな、きっと父である私に似たんだな」


 ははははっ、ふふふっ、と笑い合いながら父であるシード公爵と母イザベラはダリアの背中に手を当て、3人で階段を登っていく。


 フリージアは、その背中を1人で見つめていた。


「お疲れではないですか」


 執事のセバスチャンが、そっとフリージアに声をかける。

 セバスチャンはこのシード家に仕えて長い。


「大丈夫よ、ありがとう」


 フリージアは微笑みそう答え踵きびすを返すと、2階からは3人の楽しそうな笑い声が漏れ聞こえてくる。


(仕方がないわ、私は本当の娘ではないんだし)


 フリージアは数年前に実の父と母を事故で亡くし、父の弟であるシード公爵家に養女として引き取られた。

 シード公爵家からは決していじめられたり、意地の悪いことをされてはいないが、家族として喜んで受け入れられているような感じもなかった。


「フリージアお嬢様の好きなストロベリーティーを、隣のお部屋にご用意しております。それからチョコのクッキーも」


 優しく微笑む執事のセバスチャンに促され、隣の部屋に移動する。セバスチャンの優しさに平静を装うフリージアも何か込み上げてくるものがあったが、なんとか堪えて椅子に座ると紅茶を手に取り口に含む。


「いい匂い。それにとっても美味しいわ!」


 一生懸命つくった笑顔で、ニコッとセバスチャンに笑いかける。


「私が口に出すことではございませんが、演奏での成功は、フリージアお嬢様がいらっしゃってこそでございます。ダリアお嬢様は、ピアノを弾いているフリをしているだけです。ダリアお嬢様だけでは、成せないことなのです。なので、フリージアお嬢様は、もっとご自分のお気持ちや要望を、シード公爵におっしゃられても良いのですよ」


 セバスチャンはシード公爵家に仕えて長い分、公爵家に忠誠もあるはずだ。だが、そんなセバスチャンですら、フリージアの待遇を危惧してしまうほどに、フリージアは家族として溶け込んでいなかった。というよりは、溶け込ませてもらえてない、が正しいのだが。


「私を引き取っていただけただけでも、感謝しているのよ。ありがとう、セバスチャン」


 気遣うセバスチャンを安心させようと、フリージアは精一杯微笑んで見せる。


(お父様もお母様も、この演奏を続ければ、いつかは私を娘として受け入れてくれるかもしれない・・。まだ時間が足らないだけ、きっとそうよ)


 フリージアは自分に言い聞かせる。

 紅茶とクッキーを広い部屋で1人で食べるその音だけが、シンと静まり返った部屋で虚しく響く。



 翌日、演奏をした結婚式の花嫁であるソフィアがシード公爵家を訪ねてきた。


「昨日は本当にありがとうございました!お2人のおかげで、私の父も結婚に不満を言うこともなくなりまして、父と私の夫もとても上手くいっておりますわ!本当にお噂の通り、願いを叶える演奏でございますのね!」


 ソフィアは顔の前で手を組み、顔を紅潮させキラキラした瞳でフリージアとダリアを見つめる。


 実は、今回、結婚式で2人の演奏を求めたのは、公爵ではなく娘であるソフィアだったのだ。父親がどうしてもソフィアの結婚に納得できず、毎日のようにグチグチと言われるのが我慢ならなかったソフィアは、フリージアとダリアの演奏の噂を聞き2人の元を訪れ、演奏を頼み込んできたのだ。


 理由を聞いたフリージアとダリアは引き受ける旨をソフィアに伝え、ソフィアは父である公爵に絶対に結婚式に2人を呼ぶと、自ら企画したのだ。


「皆様が幸せになる演奏を、とお2人にお願いしておりましたが、本当にその願いが叶って父は変わったのですもの!驚きと感謝で、今も胸がドキドキしてしまいますわ」


 ソフィアはまるでオペラの主人公のように、部屋の中をクルクルとまわり、トロンとした瞳で2人を見つめる。


「ちょっとフリージア・・、彼女にも演奏の願いが強くかかり過ぎちゃったんじゃないかしら・・」


「そうかもしれないわね…。でも、この効果はずっと続くわけではないから」


 そう、フリージアの演奏の効果は、聴いた後一生あるわけではなく、途中で消えるようなのだ。

 ただ、どこで消えるのかは、まだフリージアもよく分かっていない。


「とりあえずっ、私あなた方2人に、ありがとうと早くお礼を伝えたかったの!もしまた何かあったら、お願いするわっ、絶対に!」


 ソフィアは、フリージアとダリアの手を掴むとブンブンと上下に激しく握手し、最後には2人まとめてギューっとハグまでしてくれた。


「そんなに気に入っていただけて、ありがとうございます、ソフィア様。でも、ソフィア様、新婚ですし、今も旦那様があなたのお帰りを待っていらっしゃるのではなくて?」


「はっ!そうよね!」


 ダリアの言葉に、ソフィアは両手を自分の頬に当て、急いで帰り支度を始める。


「失礼いたしますわ。それでは、また、ダリア様、フリージア様」


「お気をつけて」


 フリージアとダリアは笑顔でソフィアを見送る。

 ソフィアの乗った馬車が見えなくなると、ダリアはふう〜と大きく息を吐く。


「ねぇソフィア、演奏が終わった後、毎回あんな興奮状態で来られるのも考えものね。もう少し調整できないかしら」


「そうね、まだその辺のバランスがよく分からなくて。今度は気をつけてみるわ」


「うん、そうしてもらえる?ふわぁあ〜。昨日の疲れがまだ残ってるわ、眠くなってきちゃった。私少し眠るわ」


 ソフィアは眠そうな顔のダリアが部屋を出て2階へと階段を上っていくのを見送った後、執事のセバスチャンを探す。


「セバスチャン、私これから少しだけ外に出てくるわ」


「承知しました。誰かお供の者をお付けします」


「ううん、要らないわ。1人で行きたいの」


「ですが、お嬢様お2人は、演奏で有名になってきております。お1人では危険です」


「大丈夫よ。…いつもステージに立つのはダリアだし。私のことなんて、覚えている人はいないわ」


 苦笑いするフリージア。


「…ですが…」


「それなら、これを被れば問題ないでしょ?」


 すぐそばのポールに掛けてあったウィッグを手に取り、自分の頭にのせ鏡を見るフリージア。

 地毛は長い黒髪だが、金髪のウィッグを被れば、あっという間に違う人物に大変身だ。

 ウィッグの上から、さらに白い大きなつばの帽子を被るフリージア。


「それじゃあ、行ってきます!」


「お嬢様…!」


 呼び止めるセバスチャンを振り切り、屋敷を出るフリージアは、馬車も乗らずに自分の足で街へと歩き出す。


(ん〜!1人で歩く外って、気持ちいい!)


 フリージアは帽子に手をやり、青い綺麗な空を見上げる。

 久しぶりの1人での外出に、フリージアはウキウキする。


「さぁ、今日はどこに行こうかしら」


 街には輝く宝石の店、美味しそうなスイーツの店、煌びやかなドレスの店、可愛らしい靴の店など、女性が好みそうな店が幾つも軒のきを連ねていた。


 女性達であれば足を止め店内を覗きそうなものだが、フリージアはそのような店には目もくれず、素通りしていく。


(う〜ん、ここじゃないのよね。そうね…あ、ここ!いいわね)


 フリージアが足を止めた先にある店は、古びた小さい店だった。外からでは、なんのお店かはパッと見わからない。


 フリージアは、ドアをそーっと開ける。外はこんなに明るいというのに中は薄暗く、やっているのかどうなのかすら分からない。


「すみませ〜ん…」


 おそるおそるフリージアは声をかけると、中から1人の初老の男性が出てきた。

 店の雰囲気とは反し、人の良さそうな優しそうな顔をしている。


「おやおや、ここにお客さんとは珍しい。入るかね、どうぞ」


 通されたその先の部屋には、小さい円卓と椅子が幾つか置かれ、その前の中央にはグランドピアノが1台置かれていた。

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