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ゴースト令嬢の願いを叶えるピアノ〜プライベートで能力を使ったら王子にかかっちゃいました〜  作者: めんだCoda


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13/30

第13話 告白

「フリージアさん…」


「…今日はね、色々と嫌なことが重なって辛かったんだけど、ファビウスさんに会う予定があって良かったなって…本当に心からそう思ったの…。ファビウスさんと話すと楽しいし、それに、こうやって抱きしめられると、落ち着くの…」


「それは私も同じです。フリージアさんに出会ったあの日から、毎日あなたに会いたいと思っているのですから。この店に毎日のように通うのは、フリージアさんあなたがいるからです」


 フリージアはその言葉を聞き、ファビウスの抱かれる腕の中で、ふっと真顔に戻り、ゆっくりとファビウスの胸元を手で押し体を離す。


「フリージアさん…?」


「そうなの、それが私の演奏による願いの効果だから…」


「願いの効果?」


 フリージアは小さく笑うと、視線を落とし膝の上に置いた自分の手を見る。


(彼が私に会いたくなるのは、私がかけた願いの効果のせい。私が彼に抱いているこの気持ちと彼の私への気持ちは、きっと違う…)


 ファビウスに初めて会った日、それから次の日共に、店ファビアスへの集客を願いピアノを演奏し、ファビウス含め観客全員に願いの効果をかけた。


 なので、彼がここに来たいと思うのは、効果を考えればごく当たり前のことだ。

 人によって効果のかかっている時間は異なるのだが、独自で行った過去の統計によると、まだ効果中である可能性は高い。


(彼がここに来たいのも、効果がまだ持続しているから…ここに来たい気持ちを、私への気持ちと勘違いしてしまってるんだわ…。最悪ね…自分でかけた効果が、自分を苦しめることになるなんて…)


「フリージアさん、演奏の効果とはなんですか…?」


「ただの独り言よ…気にしないで…。それより、午後予定があるのでしょう…?そろそろ行った方がいいんじゃないかしら…?」


 フリージアは顔を上げて、お得意のつくり笑顔をファビウスに向ける。


(…もう彼に願いの効果をかけなければ、ここに毎日来たいとも…私に会いたいとも思わなくなるわ…)


 また涙が込み上げてきたが、目をわざと細くし笑っている顔をつくることで、なんとか誤魔化そうとする。


「…そうですね。そうします」


 ファビウスの言葉に、胸がズキンと痛むフリージア。涙が溢れそうだったが、頑張ってつくった作り笑顔は崩さないように耐える。


 立ち上がるファビウスを見て、フリージアは自分も立ち上がろうと椅子から腰を上げる。


(もう、これで彼とも終わりだわ…)


「と、でも言うと思いましたか?」


「えっ?」


 立ち上がったフリージアをグイと引き寄せ、ファビウスにまたも抱きしめられる。今度は少し強引で、抱きしめる力も先ほどよりは強い。


「ファビウスさん、痛い…離して…」


「嫌です。今離したら、あなたはどこかへ消えてしまい、もう二度と会えない気がします…」


「……そんなこと…ないわ…」


「うそだ。それなら、どうして、急に私を帰らせようとしたんですか」


「だって、午後用事があるようだから、私のせいで遅れてはいけないって…そう思っただけです…」


「……。それを承知で、私は今日ここに来ています。午後予定がありますが、午前中だけでもと、マスターに貸し切りにしてもらってまで、今日ここであなたに会いたかったんです。…フリージアさんは知らないでしょう、私が…毎日、あなたのことが頭から離れず、あなたのことを考え、あなたに会いたいと思っていることを」


 フリージアを真っ直ぐに見つめるファビウスの目に、フリージアは自分の気持ちがぐらつく。


(でも、これはきっと効果のせいだから…まともに受け取ってはだめよ、私…)


 ファビウスの目を見つめ返しながらも、動揺と困惑で視線が泳ぐフリージアは、黙ったまま言葉を何も返せずにいた。


「…フリージアさんは、私のことが嫌いですか」


「そんなっ…!嫌いなわけないじゃないですか…っ!」


(それどころか、私は今ファビウスさんのことが、好きになりかけてる…)


 言いたい言葉を、呑み込むフリージア。


「それなら、私にまた会ってくれますよね」


「それは……」


「会ってくれませんか…?」


 フリージアは、ファビウスに抱きしめられたまま考える。

 できることなら、またファビウスに会いたい。でも、もし次に会う日までの間に、かけた効果が切れてしまったら?会う約束をしていても、そのせいで彼が来なかったら?


(そうなったら、傷つくのはまた私…)


 この能力があっても、どんなに周囲から演奏を褒められても、フリージアはいつも孤独を感じていた。

 結局は、皆んな願いの効果にやられているだけなのだから。


 でも、今はファビウスの存在が、フリージアにとって大きな心の拠り所なのだ。

 相手から切られるより、自ら突き放して失うことの方が、よっぽど傷つかない気がしていた。


「…フリージアさん、私はあなたにまた会いたいです。心から、本当に…その…つまり、あなたのことを…」


 ファビウスは緊張した顔つきで、フリージアを見つめる。


「フリージアさん、私はあなたのことが好きです」


 ファビウスはそう言うと、フリージアの頭の上に優しくキスをする。


(…ふわぁっ!?)


 突然のキスに、驚きと動揺でファビウスの腕の中で、ぎごちなく動くフリージア。


「フリージアさんは、私のことをどう思っていますか…?」


 ファビウスが照れた顔で、フリージアの顔を見つめる。だんだんと、ファビウスの耳が赤くなっていくのが分かる。


「私…は…、その…えっと…」


 フリージアが言い淀むのを、黙ったまま真剣にフリージアを見つめ聞こうとするファビウスの態度に、フリージアは心を動かさせる。


「…好き……です…」


「本当ですか!?」


 目をキラキラさせて喜び笑顔になるファビウスを見て、フリージアは驚く。


「良かった!好きではない、と言われたらどうしようかと不安でした」


 ファビウスが、はぁ〜っと深く息を吐くと、片手でフリージアの片方の頬を包み込む。


「嬉しいです。本当に。夢みたいです…」


 潤んだ瞳で愛しいものを見るような、優しい眼差しをフリージアに向けるファビウス。


「そうなると、もっとお互いのことを知る必要がありますね」


「あっ、それは私も同感です。私たち、お互いのことを、あまりにも知らなさすぎですもの。私なんて、ファビウスさんのことはお名前しか分かっていないですわ」


「そうですね…。確かに、私はフリージアさんに話さなければいけないことがあります…。他にもたくさん…いや、まぁたくさんと言っても、一般的な人と同じくらいか…?」


「えぇっ、なに、まさか…スパイとかじゃないですよね?」


「それはどうでしょう。でも、名前しか知らないなか、私のことを好きになったんでしょう?私がどんな人物でも、受け入れてくれますよね?」


「ええっ…でも、さすがにスパイは…ちょっと…」


 2人は、あははっと楽しそうに笑うと、またお互いに体を密着させ抱き合う。


「時間が足らないですね。ここで会うだけでは、私は満足できそうにないです。私の馬にフリージアさんを乗せたいですし、この前のように一緒に食事もしたい、それからフリージアさんのピアノをもっと聞きたい」


「ありがとうございます…。ピアノのことなんですが、私も、ファビウスさんに話さなければならないことがあります…。それを話したら、嫌われてしまうかもしれないけれど…」


「それは私も同じです。こうなる前に話すべきことを、私たちは後回しにし過ぎましたね…。そうですね、そうしたらこれから仲を深めるためにも、まずは第一歩として、私のことをファビウスと呼んでもらえませんか」


「それでしたら、私のことは、フリージア、と」


「…フリージア…」


「なぁに、ファビウス…」


 2人は溶ろけるような顔で、互いをじっと見つめる。

 徐々にファビウスが身を屈め、フリージアの顔へ近付いてくる。


 お互いの浅い呼吸から繰り出される静かな吐息が、互いの唇にかかる。


「お取り込み中、申し訳ありません…」


 マスターの声に、ファビウスとフリージアは慌てて離れる。


 店奥に引っ込んだとはいえ、マスターが一応同じ店内にいたことをすっかり忘れていた。


「ファビウス様、そろそろお時間のようでございます…」


「…そうか、分かった。ありがとう」


 ファビウスは恥ずかしそうに軽く咳払いをすると、目の前に立つフリージアを見つめる。


「明日、また会いたいのはやまやまなのですが、明日は一日中やらなければならないことがありまして…。その翌日の明後日に会うのはどうでしょうか?フリージアの予定は、どうですか?」


「ごめんなさい、明後日は、演奏活動がありまして、少しここから離れた場所から依頼を受けたものなので、おそらく一日かかってしまうと思います。会うのは難しいかもしれません…」


「それは、先日話していた隣領地のウィン公爵からの依頼ですか?」


「そうです。よく覚えていますね」


「フリージアの話したことなら、ほとんど覚えていますよ。例えば…」


「ファビウス様」


 マスターとは違う声に、ファビウスとフリージアはバッと振り返る。


 マスターの隣には、立派な制服を着た男性が立っていた。


「ファビウス様、お時間でございます。お話はつきぬようでございますが、約束の時間に遅れてはなりませぬ」


「いつからそこにいた?」


「今、店内に入ったばかりでございます」


「わかった。もう行くから、先に行っててくれ」


「承知いたしました」


 制服を着た男性はファビウスに頭を下げ、規律の整った身のこなしで店内から外へ出て行った。


「今の方は…?」


「私のところの…使用人です。フリージア、馬車で帰り道がてら家まで送りましょう。明るい時間帯とはいえ、フリージアのような綺麗で可愛い女性が、1人で歩くのは危ないですから」


「ふふっ、そう言っていただけて嬉しいです。でも、私はそんなに遠くはないので大丈夫です。それより、使用人の方がお急ぎのようでしたわ、ファビウスはもう行って」


「次に会う日を決めましょう。3日後に、ここで会うのはどうですか?午前中に。その後、互いに予定が空いていれば、昼食を一緒にとりませんか」


「えぇ、3日後なら大丈夫です。昼食もご一緒したいです、嬉しいです!」


 フリージアの笑顔を見て、ファビウスは嬉しそうな顔でフリージアの体に触れる。


「次は明後日ですか…。2日も会えないのは、私は気が狂いそうですが」


「ファビウス様!」


 外から店内へ再度入ってきた制服の男性が、痺れを切らしたように声をかける。


「それじゃあ、フリージア。また明後日に」


 ファビウスはフリージアの頭の上にもう一度キスをすると、愛しそうな眼差しでフリージアを見つめ抱きしめた後、店外へと出ていく。


 フリージアは、ファビウスが出た後にマスターにお礼を言い、自分もゆっくりと店を後にする。


 街の外は午前中とは違い、至る所に装飾や花が飾られ、王子の初お披露目を祝う華やかな街になっていた。

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