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アンコール!

 定期公演のラストナンバー。

 今年は部員全員で、「流浪の民」をやった。

 終わった途端、割れるような拍手が会場を満たした。

 文化センターのホールに満席に詰め掛けた人、人、人。

 その中に、れんさんの姿があるのを、あたしは最初から見つけていた。


 招待せずにはいられなかった。

 「絶対綺麗になってやる」と言った、エムさんの気持ちがよくわかる。

 ちょっとはもったいないと思って欲しい。

 こんなことなら、振らなきゃよかったって思って欲しい。

 一番ステキなあたしを見せたかった。


 大林先生からもチケットが渡されてたはずだけど。

 れんさんは、あたしが送ったチケットで席に着いてくれていた。

 アカペラの曲は、失敗せずに出来た。

 自分の声が、花井先輩のボーカルにからんで、綺麗にホールに広がるのがわかった。


 アンコールの拍手が沸き起こってきた。

 あたしと、アカペラメンバーの4人は、列の後ろから一旦舞台のすそに引き上げた。

 それから、おそろいのジャケットを引っ掛けて、再び舞台に出る。

 大きな拍手を浴びた。


 大林先生は、みんなが一番頑張った「We will rock you」のアカペラを、アンコール曲にしてくれたのだ。

 他の部員が全員でコーラスを入れられるように、ちょっと構成も変えてある。

 手拍子と足拍子、全員でやると会場が揺れた。


 花井先輩がメロディーを切り出す。

 緑川部長と掛け合いで競り合う。

 アフタービートで、あたしとバスの宇野先輩が飾りをつける。

 そしてシャウト。全員でシャウト。

 ぴったり揃えて、4つの音程がリズムを刻む。


 後ろに並んだほかの部員達が、一斉にコーラスを入れる。

 群集の叫びのような迫力がある。

 客席も一緒に手を叩き、足を踏み鳴らす。

 轟き。絶叫。爆発。

 ‥‥そして、歓声。




 お客さんを送るために、毎年やってる儀式がある。

 ホールの出口までの道のりに、部員全員が並んで、校歌を歌って送り出すのだ。

 あたしはアルトの吉行先輩と並んで、歌いながら待った。

 ホールから出てくる人の波の中。

 れんさんがあたしを見つけて、近づいて来た。


 歌をやめたらいけないことになってるので、あたしは手を上げて挨拶だけした。

 れんさんは、あたしの手にそっと、花かごを握らせてくれた。

 小さな花とキャンディーが入った、ミニチュアの籠だ。

 「エムからだよ。

  まだ外出許可が取れなかったんだ。

  これで我慢するってさ」

 そう言って、小さなカセットプレーヤーを見せてくれた。

 エムさんのために、録音して帰るんだ。


 れんさんの左手の薬指に、以前はなかったものがはまっている。

 エムさんとのペアリングだ。

 学生のうちから高価な婚約指輪は買えないので、就職するまでのつなぎに買ったらしい。

 あたしは極上の笑顔で、れんさんを送り出した。


 まだ胸は痛い。

 涙は涙腺の奥に待機してるよ。

 でも、もう頑張れるから。

 あたしはちゃんとやれるから。


 バイバイ、れんさん。

 あたしはあんまり子供すぎて、あなたの愛し方が少しもわからなかったよ。

 無我夢中でやっただけで、何にもヒットしなかったかもしれない。

 

 バイバイ、れんさん。

 もしもあたしが年をとって、もっと余裕で恋ができるようになったら。

 その時またチャレンジするかもしれないよ。

 もっと普通に。

 食事をするように、服を着替えるように、えっちができるようになったら。

 そのときはまた遊んでね。


 「ありがとうございました!」

 緑川部長の声が、出口近くで響いた。

 「ありがとうございました!」

 部員全員で頭を下げた。


 定期公演が無事、終了。

 拍手と笑顔の中。

 部長がこっちを向いて、小さくガッツポーズをした。

 あたしにねだられて始めたコンタクトのおかげで、サワヤカ系のイケメンに変身していた。


〈終〉

 

 


 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

「ビョーキえっち」これで終了です。

このあと外伝として、キャラの少年期とかその後のことを単発的に書いたものをつなげた「ショートえっち」をシリーズ登録しました。

よければ見に来てやってください。

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