戦場に立つ?
新章スタートです。
今日は朝からついてねぇ。
朝起きて小便しようと陣の外に出たら糞を踏んづけた。
ついてねえ~。
戻って飯を食べる。
豆と肉の入ったスープだ。
硬いパンはしょうがねえけどスープに肉が入ってねえ。
何でだよ。
給仕に文句を言おうにもあの強面には何も言えねえ。
下手したら夕飯を抜きにされちまう。
ついてねえ~。
隊長から偵察してこいと言われた。
偵察すんのは文句なんてねえ。
誰もがやることだ。
でも何で奴隷と一緒なんだよ。
しかも成人前のガキが二人で、一人は女だぞ。
ついてねえ~。
俺はなんてついてねえんだ。
偵察っても敵陣まで行くわけじゃない。
味方と敵のちょうど真ん中辺りまで行って戻ってくるだけ。
この前大きな戦いがあったから、すぐまた戦が起きる訳じゃない。
なんせ八百長だからな、この戦は。
適当に殺りあって適当に退く。
ずっと前から決まってるこの戦争のルールだ。
敵も味方も知ってる奴らばかりだ。
傭兵達が決めたルール。
雇い主も知らない。
だが、この前の戦いは敵に多数の死人が出た。
それに見たことのない奴らばっかりだ。
どうなってやがる。
上はこの事知ってんのか?
でも、俺には関係ないか。
俺はもうすぐこの戦場を離れる。
契約が切れるからだ。
契約が切れたら馴染みの娼婦を身請けして、故郷に帰って悠々自適に生活する。
傭兵は実入りが良いがいつまでもやりたくねえ仕事だ。
あ~早く帰りてえ。
※※※※※※※
やべえ、いつの間にか周りを囲まれてやがる。
ガキの一人がもっとゆっくり行くべきだなんてぬかしやがるから、むきになって進んだらこれだ。
でも、何で囲むんだ?
俺達はそんなに深入りしてねえ。
ここだって味方の勢力範囲のはずだ。
そりゃ、もう少ししたらそこから出ちまうが。
それでも味方の近くで襲うなんて素人じゃ在るまいし、まして俺ら傭兵が出ばるなんてのも有り得ねぇ。
もしかして正規軍か?
敵さん、本気で戦争しようとしてんのか?
ここ一月前から戦場が荒れてると聞いたことがあったが。
まさかここもそうなのか?
なんてついてねぇんだ。
見たとこ奴さんら二十人は居やがる。
どうする?
逃げるのが当たり前。
そうだ後ろの奴隷を囮にするか。
それしかねぇな!
俺はまだ死にたくねぇんだ。
よし、こいつらを囮に。
「行くぞ、レティ」
「分かった」
俺が言う前にガキどもが動きやがった。
よし、注意がガキどもに行ってる間にとんずらするぜ。
「ガキども、任せたからな。俺は陣地に戻って知らせて来るぜ」
一応言っとかないとな。
俺は来た道を戻る。
だがそこには俺をとうせんぼするように兵士三人が待ち構えていた。
装備は俺らと変わらない。
革鎧にバックラーとショートソードだ。
傭兵に見えるが違うな。
バラバラに動いてねえ。
きっちり間隔を開けてこっちを見てやがる。
舐めんなよ。
三人ばっかで俺を止められるか!
駄目だ、逃げ切れねえ。
それに傷を負いすぎた。
血が止まらねえ。
俺、死ぬのか?
三人が、近づいて来る。
止めを刺す気だ。
体が動かねえ。
今日はついてねえ。
俺は目を閉じた。
「な、こいつ。いつの間に」
「こいつが先だ。やれ」
「この、死ねえ!」
何が、起きてる?
「この、うわ」
「おい、だいじょ、くそ、ぐわ!?」
「何だ、こいつ、来るな、来るな、止めろー!!」
男達の声がしなくなった。
辺りが静かになる。
恐る恐る、目を開けたら
………そこには。
返り血を浴びた銀色の髪をたなびかせた少女と。
短く刈り上げた黒髪の少年が立ってやがった。
二人の足元には、動かなくなった三人の男がいた。
はは、今日の俺はついてやがる。
※※※※※※
私の目の前に武装した兵士が十人以上いた。
「レティ、殺るぞ」
「分かった」
頼りになる相棒に声をかけると相棒はすぐに兵士達の中に飛び込んだ。
躊躇しないのか?
飛び込んだ先で派手に血が飛び交う。
しかし、叫び声はしない。
倒れた兵士達は皆、首筋を斬られて倒れていた。
さすがだな。
私も行くかな。
私の前には五人ほど居る。
その後ろにも何人かいた。
私は、息を深く吸い込み、そしてゆっくりと吐いた。
その瞬間動く。
剣を持った手を相手に向ける。
その剣先から風の刃が出る。
不可視の刃が前にいた兵士に当たる。
手加減なしの魔術による攻撃。
三人ほど倒れた。
驚く兵士達をよそに近づいて斬り伏せる。
手近の二人が倒れる。
驚きと戦慄と戸惑いにより棒立ちになる残りの兵士。
後は、蹂躙するだけだ。
辺りに立っているのは、私とレティだけ。
五分と経っていない。
前にいた兵士を排除した後、逃げ出した同僚の後を追った。
案の定同僚は傷だらけになって座り込んでいた。
残りは三人。
レティが突っ込み二人を斬り伏せる。
私は風の魔術を使って残り一人を倒す。
二十人程度では相手にならない。
相手が弱いのか、それとも私達が強すぎるのか?
もしくは両方か。
まぁ、どっちでもいいか。
とにかく今日も生き残った。
それで良いだろう。
「怪我してないか、レティ?」
「平気」
「そうか」
私は自分が怪我をしていないか確かめる。
戦闘中は気付かずに、終わった後に怪我していることもある。
足の爪先から、脛、膝、太腿、腰周り、胸、肩、二の腕、肘、掌、最後に頭を直接触って確かめる。
どうやら切り殺した相手の返り血がついただけで怪我はしていない。
ふー、良かった。
「ダン」
「何?」
「あの人」
「あの人? あ!」
レティが指差した先に逃げ出した傭兵が倒れていた。
慌てて駆け寄り初級治癒魔術『ヒール』をかける。
表面の切り傷は塞がったが出血による失神だろうか、目を覚まさない。
しょうがないので俺が肩を貸して陣まで帰った。
レティには周囲の警戒してもらって。
勿論、遺体は全て焼いた。
肉の焼ける匂いが鼻についたが何とか吐くのを堪える。
人の焼ける匂いは獣や魔獣を焼いた匂いとは違う。
なぜか気持ち悪いのだ。
しかし、慣れるしかない。
ここは、戦場なのだから。
※※※※※※
サウスラウスから北上しアルマルスに帰って来た。
帰って来たは違うか。
でも俺は生まれ故郷の地に帰って来たんだ。
本来なら飛び上がるほど嬉しい事なのだがそれほどでもない。
なぜなら目の前に広がる光景は、人、人、人の人の群れ。
しかも血生臭い臭いと実際に血が飛び散り、怒号と悲鳴と歓声?が入り交じっていて大変うるさい。
人が感傷に浸る暇もない。
無理もない。
俺と隣にいるレティはつい先程この地に着き、いきなり戦場に叩き込まれたのだ。
サウスラウスから馬車に揺られた退屈な旅から一転しての戦場。
ろくに説明の無いままに戦場にほっぽり出される。
唖然、呆然だ。
くそ、ダグラめ!
何が安全な戦場だ。
戦場に安全な場所なんて有るわけないじゃないか。
それにドッチの奴、何が『これで戦いから遠ざかれるな』だ。
傭兵に戦いはつきものだろうが。
どうしろってんだよ!
はぁ、殺るしかないな。
でもこれ、敵と味方の区別がつかないんだけど?
「レティ、これって味方がどっちか分かるか?」
問われたレティは手を目線に合わせて遠くを見ている。
「分からない」
帰って来た答えは、そうですよね。
見れば同じ格好をした連中ばかりだ。
これで見分けをつけろとか無理難題もいい所だ。
「おいお前ら早く突撃しろ!」
後ろを見ると前で戦っている連中と同じ格好をした連中がいた。
しょうがない、こいつらに聞くとしよう。
「味方が分からないんですけど、どうしたら良いですか?」
「バカ野郎ー!向かってきた奴が敵で向かってこない奴が味方だ」
はい、分かりました。
こいつらも分からないと。
「いいから早く行け! 味方が殺られるだろうが」
せっつかせるくらいなら自分達が先に行けばいいじゃないか?
「おら奴隷ども早くしろ!」
ああ、そうか。
俺達、奴隷だったか。
奴隷になっても奴隷扱いされることがなかったから、逆に奴隷扱いされると新鮮だ。
「分かりました。巻き込まれたくなかったら俺達とは離れてください。良いですね?」
「なんだてめえ奴隷の癖に」
傭兵の一人が俺達に近づいて来るがレティがその男の前に立つ。
「お、べっぴんだな。これが終わったら相手して貰おうか」
周りの連中が爆笑するがその中の何人かがレティに気づいた。
「おい、こいつ剣姫じゃないか?」
「は、まさか。剣姫がここに居る訳………」
「やっぱりこいつ剣姫じゃないか!?だったら隣の奴は…」
ざわざわと周りが騒がしくなったが、あえて無視する。
「行くぞレティ」
「分かった」
俺達が戦場に駆け出すと後ろから傭兵達が騒ぎ出す。
「あいつレティって呼んだぞ! やっぱりだ」
「あれが剣姫か? じゃあ、隣の奴はあの」
「そうだ。剣王と引き分けた。ラッキーダンだ!!」
ラッキーダンと呼ばれて思わずこけそうになった。
しかし、直ぐに目の前の事に集中する。
ここでなら、久しぶりに攻撃魔術を使える。
今までは剣闘のルールのせいで攻撃魔術が使えなかったが、今日から解禁だ。
思わず笑みがこぼれる。
それほど嬉しい。
「レティ、土魔術を使う。注意して」
「分かった」
俺にとって今大事なのは、自分の命とレティだけだ。
それ以外がどうなろうと知ったことか!
フレンドリーファイアで死人が出ようとここは戦場。
死んだ奴が悪いんだよ。
「よし、ストーンブラスト!」
『ストーンブラスト』石礫の初級土魔術だ。
殺傷能力は低い。
当たればかなり痛いが死にはしない。
当たった相手を怯ませることが出来る。
こちら側に押し込まれていた連中が味方だろう。
そこから抜け出した連中にぶつけた。
「ぐあ」 「なんだ」 「いで」 「ち、チキショー、石かこれ」
鉄製の胸当てを着ていた連中は盾を使って防ぐ事もせずにまともに食らった。
なんだこいつら。
もしかして弱いのか?
怯んだ敵の集団にレティが飛び込む。
低い姿勢から相手の足を斬りつけ、足を押さえて踞る所を斬りつける。
次々に上がる血飛沫。
そして絶叫。
断末魔の悲鳴が鳴り止まない。
瞬く間に5、6人が倒れる。
しかし奥からさらに人がやって来る。
直ぐ様魔術を唱える。
「ストーンランス!!」
『ストーンランス』石槍だ。
先程の石礫とは違い殺傷能力の高い中級土魔術だ。
それを5本ほど出す。
5本の石槍は真っ直ぐ飛び。
向かって来ていた連中に突き刺さる。
一人は胸に、一人は足に、一人は頭に当たり吹き飛ぶ。
その場に倒れた敵はレティが止めを刺す。
少しは敵の勢いが収まるかと思ったが、そうはいかないらしい。
まだ、向かってくる。
しょうがない。
敵のお掃除と行きますか。
今日はあんたらの命日だよ。
俺とレティは向かってくる大勢の人々を迎え撃った。
日が落ちる前に敵は引いた。
俺とレティはその場に倒れこむ。
互いに背を預けて。
「レティ、怪我は?」
「ない。そっち」
「俺もない」
「そう」
「ああ」
「フフ、フフフ」
「ハハ、アハハハ」
俺達二人は場違いなほど笑った。
その周りにはおびただしいほどの死体が倒れていた。
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