恨まれている?
聞きたいことは沢山ある!
先ず、今回の試合の組み合わせは前々から決まっていたのか?
また、ローレックとオルタスは知り合いなのか?
なら、オルタスはローレックに私の事を話していたのか?
でも、いつ頃会ったのだろうか?
オルタスとは、ついこの間戦ったばかりだ。
それなのに、ローレックはオルタス戦のことを知っていた。
そんなに速く対戦情報が分かるものだろうか?
そもそも、ローレックはなぜ、私と戦うことになったのか?
借金の話は本当なのか?
試合で、私を本気で殺そうとしたのか?
誰かに頼まれて、私と戦ったのか?
その場合、雇い主は?
私はこの一年、剣闘奴隷として戦い続けた。
結果、何度か危ない目に会いながらも生き残った。
最初のころは、犯罪者や同じ奴隷と戦ったが、半年も過ぎると職業剣闘士と戦うことになった。
勝ち残れば、勝ち残る程に、相手は強くなっていく。
始めは、剣術のみで、暫くすると、魔術を使わなければ勝てないほど、相手は強くなる。
生き残ることに必死だった。
だからだろうか、あまり深く考えないようにしていたことがある。
それは、対戦者がその街で一、二を争う強者であること。
そして、明らかに殺意を込めた攻撃を仕掛けて来ること。
ここ、二、三ヶ月は本当に何度も死にかける程だった。
生き残ったのは、今回も合わせて運が良かったからだ!
オルタスは………、まぁ~あれだ? うん、あれだよ。
話が逸れたな。
私は、ローレックに体を向けて、問い質す。
「今回の試合は、始めから決まっていたんですか?」
「ああ、決まっていた」
ローレックは、さも当然、と言うように答えた。
「借金して、急遽、決まったんじゃないんですか?」
「違うな。君らがここに来る前に、決まっていたんだ 」
私は、その言葉を聞いて、ある人物を思い浮かべていた。
「それを仕組んだのは、私の………、主ですか?」
九分九厘、そうに決まっているが、確めずには要られない。
「それは、………私からは答えられないな 」
答えないか、分かっていても納得出来ない。
追いすがって質問する。
「なら、……」
「待て、私から君に言えることは一つだ。君は相当、ある人物に恨まれているということだ。誰から恨まれているかは知らないが、子供の奴隷と戦ってあわよくば殺すように言われたのは、初めてだ。
それに、依頼金もかなり高かった。
割りのいい依頼だったよ。
まさか、負けるとは思わなかったがな?
今でも、首が痛いしな。ハハハ……」
自嘲気味に笑っているが、目は笑っていなかった。
相当悔しいらしい。
「恨まれている、恨みを買っている? 身に覚えがないですけどね?」
「君に無くても、先方はそうじゃないさ?
私だって、この件で君を恨むかもしれない」
そう言うと、右手をテーブルの前に出してローレックが身を乗り出して来る。
冗談じゃない!
試合の勝敗で、恨みつらみなんて……
無いとは言えないか?
「冗談ですよね? ローさん?」
「冗談に見えるか?」
ローレックの目に光が、見えた気がする。
ゴクリ、と喉を鳴らす。
こういう脅しは、馴れてない。
馴れたくもないが。
「フっ、冗談だよ、冗談 」
だから、冗談に見えないよ、目が笑ってないもの!
「まぁ、何にしても気をつけてな?俺に勝ったんだ。次の試合で、簡単に負けるなよ?
俺が弱いと思われるのは、我慢できんからな!」
口調は軽めだが、目が笑ってない。
「そんな、脅さないでください。ハハハ 」
「笑い事じゃない!俺の、……俺達家族の生活がかかっているんだからな 」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ! 弱い奴だと思われると対戦が組まれなくなる。そうなったら飯の食い上げだ!」
拳を振り上げて、テーブルに叩きつけるローレック。
なんてオーバーアクションだ……。
それに、飯の食い上げって、何それ?
おまんまが食えない、みたいな?
ああ、それは確かに……大変だ。
というか、どんどん話が逸れている!
「そうじゃなくて!俺の質問に答えてください! 」
「あっ、何だっけか?」
その後、雇い主や何やら聞いてみたが、殆ど何も収穫は無かった。
  
ローレック親子とは、食事を終えた後別れた。
娘さん二人が、レティに
「またね~、お姉ちゃん」
と、無邪気に手を振っていた。
レティも手を振っていた。
その横顔は、少し寂しそうだった。
ローレックとの話は得ること有り、中々有意義だったと思いたい。
私は、奴隷であり、試合での死を望まれている。
そして、興行は続く。
その後の興行での、私の出番は無かった。
いつもなら、三、四試合ほどこなすはずが、今回は無かった。
対戦相手がいない、組んでも相手が辞退もしくは、棄権してしまい。
試合が出来なかった。
本当は、組む予定が無かったのかもしれない。
私があの試合で、死ぬ予定だったから……
等と邪推してしまう。
思いがけず何もすることの無く、時間が空いてしまったが、後学のため残り試合を見物、じゃない見学することにした。
レティは、相変わらず余裕で勝っていた。
試合で彼女が、本気を出しているのを私は見たことがない。
もしかしたら、本気を出しているのかもしれないが、私には分からない。
レティはいつも、淡々と試合に出て、作業のように、相手を切り刻む。
血が舞い散るなか、彼女は闘技場で舞っている。
その姿は、凄惨な惨状にも関わらず、何故か美しいとさえ思える。
巷では、彼女のことを「剣姫」と呼んでいるそうだ。
確かに、彼女の戦う姿を観れば、納得がいく。
ちなみに、私は「幸運のダン」「まぐれ当たりのダン」と呼ばれている。
呼んでいるのは、主に団員達だが?
なんで、そう呼ばれているかは、まぁ想像できるが、考えたくないし 知りたくもない。
だが、今回のことではっきりした。
私の敵は、団長ダグラと、ドッチだ!
他の団員も、そうかと言われると違うだろう。
ダグラは、前々から私を嫌っていたように思うし、ドッチはそもそも対戦の組み合わせを決めることができる人物だ。
この二人が、私を用済みとみて、処分しようとしていると考えていいだろう。
私の戦績は全勝だが、内容はショボい?
端から見たら、まぐれで勝っているように見えるからな?
でも、戦っているこっちは毎回、毎回命懸けのギリギリで戦っているだ!
今回のように運よく勝てた試合もある。
いつ死んでもおかしくない。
ああ、ダメだな。
どんどんダメな考えになっている。
ここは、切り替えよう!
今回のも生き残ったし、次も大丈夫だ!
そもそも、今回はローレック以外の対戦が組まれてなかった。
ダグラは私がローレックに勝てるとは思っていなかったようだ?
計算違いが起きたのだ。
だから………、やっぱりやることは変わらないな。
生き残る為に、努力するしかない。
色々と反省すべき点もあったし、次に生かそう!
よし、やるぞ!
絶対に生き残ってやる!
私は、決意を新たにするのだった!
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「どうするのだ、また生き残ったぞ!」
「そうですね、でも、次はないですよ 」
「前も同じことを言っていたではないか! 向こうにまだ生きているのが知れたら…… 」
「大丈夫です。次は確実です」
「本当だろうな?」
「ええ、次はあの大会がありますから 」
「あの大会? なるほどあれか!」
「ええ、あれです」
「そうか!あれならば、確実だな!」
「ええ、確実に仕留められるでしょう」
「そうだな、フフ、確かに、次はないな、フフ 」
1人は、笑みをこぼして去って行った。
そして、残りの1人は………
「本当にそろそろ退場して欲しいが、次も、まさか、 いや無理だな。あれが相手では、生き残れまいよ」
「次が、本当に最後だよ。 ダンくん 」
 




