相棒?
ヒュッ、ヒュッと風を斬るような音がする。
私の目の前で彼女、レティが剣を振るっている。
その姿は剣舞を舞っているかのようだ。
観たことないけどね?
前世でずっと昔に中国雑技団の公演を観たことがある。
その時剣舞を観たことがあるはずだが昔のこと過ぎて忘れてしまった。
私はぼ~っと彼女を見ながら今朝のことを思い出していた。
朝方、私は昨夜の出来事を説明する為にドッチさんの部屋に向かった。
するとドッチさんが部屋から出てきたので側に駆け寄った。
「おはようございます。ドッチさん」
「おはよう、ダン。説明は歩きながら聞こう」
「そうですか。じゃあ………」
私はドッチさんと歩きながら事情を説明した。
レティが目を覚ましたのは結局朝方だったが、セリーヌさんと私とで話を聞いた。
女性二人に男性一人の状態で昨夜の私は頑張ったよ!
だってレティが目を覚ますまで起きていて、とっとと寝てしまったセリーヌさんを起こしたんだから。
昨夜レティは旅の疲れから直ぐに寝ようとしたらしい。
そこにダグラが部屋に侵入、酔って迫ってきたので返り討ちにしたと簡単に説明してくれた。
その話をそのままドッチさんに話すと彼は苦笑していた。
「しょうがない人だよ、まったく」
私は何と返事していいか分からなかった。
「事の次第は分かった。ダン、ちょっと付いてきてくれ」
「は、ハァ?」
私は生返事で返しながら彼に付いて行った。
宿屋の中は結構広い。
二階建てだが母屋と離れがあり、私達は離れに向かっていた。
離れということは……
ドッチさんは離れの奥の部屋で止まりノックした。
「誰だ?」
中からは聞き覚えのある声が聞こえた。
「ドッチです。よろしいですか?」
「…………入れ」
ドッチさんはドアノブに手をかけて扉を開く。
ドッチさんに続いて私も部屋に入る。
そこにはベッドに上半身を起こしたダグラがいた。
ダグラの顔には痣があり、昨夜レティに殴られた痕が有り有りとしていた。
私はダグラのその姿を見て笑いを必死に堪えた。
「おいドッチ。何でダンがここにいる?」
ダグラが不快そうな声でドッチに尋ねた。
「昨夜の事情を知っているので、連れて来ました」
「そうか? で、皆には何て言ってあるのか?」
「酔って部屋を間違えたと」
「そうか、それならいい」
いや、よくないだろ?
いい歳したオッサンが美少女を襲ったんだよ?
前世ならアウトだよ!アウト!
でもこっちでは御主人様と奴隷なんだよなぁ~。
一応、奴隷にも拒否権があるのだがな。
建前に過ぎないからな。
所有者から迫られたら断れないよなぁ~。
でも拒否られて青アザ作って、裸で部屋から叩き出されて皆から爆笑されたんだよなぁ~。
かわいそうとは思わないよ自業自得だ!
でも、ダグラは自分の醜態を知っているのかなぁ~?
「昨日、ダグラ様をここに運んだのは私と護衛の数名です。レティを手当てしたのはダンとセリーヌです。他は事情を知りません。ですから、彼らに口止めして置けば大丈夫です」
「そ、そうか?」
ちょっと挙動不審な感じだな。
ひょっとして昨夜の事を覚えてるのか。
皆から笑われたのは知らないだろうけどね。
そんな事を考えているとドッチさんが私に目配せをしてきた。
な、何だろ?
あ、あ~、そういうこと。
なんかピンと来た!
「ダグラ様。私は昨日、セリーヌさんからレティが怪我をしたので、レティの部屋にいましたが。それだけです!何も見てません!」
「そ、そうか!何も見ていないな。そうだな!」
「はい!」
『そうか、そうか、見てないか』とぶつぶつとダグラが呟いている。
私はドッチさんを見ると彼は大きく頷いていた。
OK、良かったみたいだ。
「皆には私から言っておきます。よろしいですか?」
「う、うん。任せる」
これでダグラの面子は保たれた!
彼の中ではな。
残る問題はレティの処分か。
こればっかりは私にはどうすることも出来ない。
彼女には同情するが所有者に手を挙げちゃ駄目だろ?
せめて誰か、助けを呼ぶとかすれば良かったかな。
いや、奴隷が助けを求めても誰が助けてくれるだろう。
面倒事に首を突っ込んで、自分まで被害に遭えば目もあてられない。
最悪、レティは………
「彼女の処分ですが?」
ドッチさんがレティの処分をダグラに聞く。
私は、顔を伏せた。
嫌だ、嫌だ、聴きたくない。
どうせろくでもない事に成るんだ。
聴きたくない!
「あの小娘か?そうだな、先ずは、戦奴から」
「罰を与えない方がよろしいかと?」
「なに、何を言っている。あれは、主人に逆らったのだぞ!なのに、罰を与えないとはどういうことだ!」
私は顔を挙げてドッチさんとダグラを見比べる。
「この件は、彼女に落ち度は有りません。彼女を罰すれば、なぜ、罰したのか?理由を着けねばなりません」
「だから、主人に逆らった」「それを持ち出せば、ダグラ様の昨夜の出来事を……」
「む、く~~~~」
唇を噛み締め、顔を真っ赤にするダグラ。
ドッチさん、あなたはすばらしい人だ!
私の中でドッチ株が急上昇して行く。
「ですが今後。このような事の無いように、監視、もしくは教育が必要でしょう?」
「そ、そうだな。教育、教育が必要だ!」
嬉々として喜ぶダグラ。
ドッチ株が下がって行く。
「よし!教育とあらば、私直々に」「監視に留めましょう」
「なに、何でそうなる?」
私も頭の上に?が浮かぶ。
「ダグラ様。彼女を買った時に注意を受けたはずです。お忘れですか?」
注意?
「ぐ、く~~~~」
またも顔を真っ赤にするダグラ。
湯沸し器みたいだな?初めて見た。
「監視は、誰にする? お前か、ドッチ?」
「いえ、いえ、私はダグラ様の護衛ですから。
そうですね、…………………彼はどうですか?」
「は、はい?」
ドッチさんは、私を指名した。
何で、そうなる?
そして私は今、レティと一緒に鍛練をしている。
ドッチさんからレティの監視というか、一緒に行動するように言われた。
私としては別に断る理由もないが。
レティを買った時の注意事項って何?
て言うか何で私なの!
自分の事で手一杯なのに。
色々言いたいことがあるが。
なぜだ?どうしてこうなった?
私はレティの鍛練の様子を、ただ黙って見守っていた。




