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ダグラの思惑?

 あれから、一月あまりが過ぎた。


 未だに悪夢を見るが少しずつだが体調も良くなってきた。


 そんなある日ダグラが宴席をもうけた。

 まぁ、打ち上げということだろう。

 今更と思うがな。

 興行事態は一週間程で終わったのだが、取り分や何やらで時間がかかったのだろうか?

 そしてダグラは余程機嫌が良かったのだろう。

 私達、奴隷も宴席に参加させてくれた。


「今日は無礼講だ!じゃん、じゃんやってくれ♪」


「「「「ウオオオォォォ~」」」」


 ダグラの開始の合図でその場はさながら、戦場のようになった。

 酒や肴を奪い合う姿は滑稽に見えた。


 街の酒場を一軒丸々借りきっての宴席だ。

 誰に迷惑が係るわけでもない。

 それでも私はこの宴席を楽しめない。

 あの一件が頭から離れないからだ。


 一人でチビチビと飲み食事をしているとダグラがやって来た。


 相変わらずの禿げ頭に、腹が出っぱっている姿は少し笑える。

 しかも、手には酒の入った木製のジョッキを持ち、顔は赤ら顔で上機嫌で笑っている顔は醜悪に見えた。


 私もあんなふうに楽しめたらどんなにいいだろうか?


 私は内心を悟られないように薄ら笑いを浮かべた。


 私の反応一つ、上機嫌な態度も不機嫌に変わるかもしれない。

 なるべくならこの雰囲気を壊さないようにしないとな。それぐらいの空気は読めるつもりだ。


「どうだ?楽しんでるか、ん?」


「ハァ、その、それなりに」


 私が答えるとダグラは酒を飲み私に絡んでくる。


「そうか。楽しんでるか?」


 やだなぁ~、酔っ払いの相手をするのは。


 私は前世では酒が飲めなかった。

 だから酒を飲む楽しみが分からない。

 何度も飲みに付き合わされたが酔っ払いの相手は本当に苦手だ!

 なぜならどこにスイッチが有るのか分からないからだ!


 相づちだけ打って入ればいいわけでもなく、変に話題を変えていいわけでもなく、そうかと言って邪険に扱う訳にもいかない。


 しかも相手はダグラ。私の所有者だ。

 機嫌を損なう訳にはいかない。

 私がそんな事を考えているとダグラは私の肩に手を回して顔を近づける。


 う、酒臭い。


 ダグラの息から酒の臭いがする。

 酒の臭いも苦手だ。

 正直、勘弁して欲しい!


 だが、嫌な顔は出来ない。

 私は何とか薄ら笑いを続けた。


「お前は、ほんと~に良くやってくれた!」


 お、誉められたぞ。


「あの試合は、本当ならあんな事にならないはずだった」


 あんな事?


「本当ならお前がすんなり降参すると思ってたんだが、勝っちまいやがるからどうなるかと気が気じゃなかったぞ?」


 私は負けても良かったのか?

 何だよ。それを早く言って欲しかった。


「だが、俺様の気転で上手く行った。あのチンピラには悪いことをしたと思うが、客を満足させないといけないからなぁ~」


 悪いことをした?


「どういう事ですか?知り合いだったんですか?」


 思わず聞いてしまった。

 不味いと思ったが声に出してしまった!


「ん、あいつか?」


 ダグラが私の目を見る。


 や、ヤバかったか?


「おう、知り合いだ! いや、知り合いだったか、な?」


 答えてくれた。 セーフ!


「あいつは、死刑囚じゃない。ただのこそ泥よ。罪の帳消しに試合に出したのよ」


 こそ泥? 死刑囚じゃない?


「なんで?」


 また、声に出てた!


「演出よ、演出♪お前の相手に適当なのが居なかったからな。こそ泥の罪人より、死刑囚のほうが受けがいいし、勝てば報酬も出すと約束してな」


 報酬?


「あいつは、テッドは、俺を殺すつもりでしたよ?それも報酬に入ってたんですか?」


 思わず、聞いてしまった。


「そうだ、殺せば金貨を渡すと約束したからな」


「なっ」


 絶句してしまう。

 私を殺すつもりだったのか?

 ダグラは、私を、ころ…


「でもまぁ、その前に降参すると思ったのよ。

試合前に、説明を受けたろ?参ったすれば、助かるってよ♪」


 参ったすれば、助かる?

 そんな説明……… 聞いったっけ?

 私が、思案顔をしているとダグラは話を続けた。


「だがまぁ、準備が無駄にならなくて良かったぜ」


「準備?」


 また、声が出てた!


「おう、お前の試合に使うつもりはなかったんだが、タイミングが合わなくてなぁ~」


「タイミングですか?」


 もう、このまま相づちを続けよう。

 ダグラは、気にしていないみたいだし。


「あれも、演出の一つよ♪ いや~、あの時お前が躊躇って時間がかかったら、どうなっていたか?いや、ほんと、良くやった」


「そう、ですか?」


「それにあの公開処刑で興行事態が盛り上がった!主催者や協賛した連中は、次の日も、その次の日も、満員で大層儲かったと言っていた。勿論、俺も儲かった♪」


「儲かったんですか?」


「おう、ほんと~に良くやった♪ さぁ、飲め飲め。酒は飲めるか?飲めないなら食え食え♪ 食って、飲んで、また、試合で俺を儲けさせてくれ♪」


 ダグラは私に酒を注ごうとしたり、給士に料理を持って来させたりして、上機嫌で笑っている。


「ガハハハ~、飲め飲め、食え食え♪

 どうした? 音楽が聞こえないぞ?

 もっと騒げ、もっと盛り上げろ!

 金なら有る!みんな楽しめ!」


 ダグラが中央ではしゃいでいる。


 私はその姿を見ながらあの試合を思い出していた。


 あの試合で兵士や審議役は私に何と言ったか?


『お前が殺らないと……、どうなるか、わからないぞ?』


 たしか、こんな感じだったはずだ?


 私がテッドを殺さなかったら私が殺されていたはずだ。


 ダグラは演出だと言っていたが本当にそうなのか?


 ダグラは私が負けると予想して用意していたのではないか?


 そうなら私はダグラに殺されるところだったのでは?


 なぜ?


 なぜ私がダグラに殺されなければならない?


 ダグラは私を買い取った訳じゃなく金を貰って所有者になった。

 損するどころか得している。

 更に、私が試合に勝った事と公開処刑をしたことで儲かったと言っている。


 プラスがマイナスになるどころか、プラスがプラスになって利益をもたらしている。

 

 私を殺しても利益が出るということなのか?


 わからない?


 私はまたしても自問自答を繰り返すはめになった。



 その日は、朝方まで騒ぎ続けることになった。


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