見えない明日?
その日は、一睡も出来なかった。
興行は数日間行われた。
私は次の日も、その次の日も続けて試合に出ていた。
対戦相手は同じ剣闘奴隷だったり、剣闘士だったが、よく覚えていない。
試合内容も、覚えていない。
ただ、怪我なく勝てた事は確かだ。
相手がどうなったかは知らないし、知りたくなかった。
試合が終わると直ぐにその場を立ち去るようになった。
あの日の出来事は、忘れたいのに忘れられなかった。
よく小説や、漫画、映画等で人を殺しても忌避感や、嫌悪感、罪悪感等感じないと言われるが、あれは嘘だ!
あの感触、あの手応え、あの光景、あの臭い、どれをとっても気持ちの良いものではなかった。
むしろ、あれは…… 早く忘れたい。
だが、眠るとあの現場を夢に見るのだ。
あの現場で、剣を手に持つ私、兵士に押さえつけられたテッド、周りの観客の唱和、あまりにもリアルなそれが夢だと思えない。
周りが私に囁くのだ。
「殺せ、殺せ、殺せ」
「殺せ、殺せ、殺せ」
「「「殺せ!」」」
そして、私は言われるがまま剣を降り下ろす。
テッドの首が、私を見るのだ。
『なんで、俺を殺す?』
仕方ないじゃないか?これは殺し合いだろ?
『俺は、死にたくなかった?』
私だってそうだ死にたくない。
『なんで、お前は生きてる?』
なんでって?
『気づいてないのか?』
気づいてない?何に?
『お前は、もう死んでるじゃないか?』
私が、死んでる?
私の目線が変わり、私はテッドを見上げていた。
テッドの首は元に戻り手には剣を持っている。
剣には、血が付いていた。
私の目の前には、私の胴体が…………
「うわああああぁぁぁ~」
私はベッドから起き上がる。
クソっ、またこの夢か!
あの日から何日も過ぎているのに!
忘れたい、忘れたいのに!
でも、覚えている。
頭から、離れない。
あれから何度も吐いた。
食事もあまり喉を通らない。
鍛練も身が入らない。
眠るとあの悪夢が甦る?
私はこの世界を嘗めていたのかもしれない。
この世界をどこかゲームのように思っていたのかもしれない。
死が身近な世界だと何度も感じていた筈なのにだ。
両親が居なくなって一人になっていたのに?
私は、この世界を分かってなかった。
人を殺す事を分かってなかった。
自分が生きる為だと割り切ってなかった。
自分を責める後悔だけが残る。
私は、どこかで、間違ってしまったのだろうか?
何か他の、選択肢が有ったのではなかろうか?
わからない、どうしたら良かったのか。
ああ、いつもこれだ!
前世でもそうだ。
私はただ流されるまま生きていた。
自分で選択しているようで、違う。
他人が敷いたレールに乗って生きていた。
前世ではそれでも好い人達と出逢えて何とかなった。
今世でもそうか?
いや、そうな期待は止めよう。
私は既に保護者を亡くし誰にも頼れない。
そう成るようになったのもやはり自分に原因があるのだろう。
甘さを捨て、今度こそ間違えない!
私が今居るのは、底辺だ!
状況はまだまだ甘いが、それでも死が身近に在る!
ここから抜け出すのに最善の方法を見つける。
その為の行動を起こさないと死がやって来る。
こんなことで、こんな所で死ねない!
何度も、何度も、何度も、何度も、自問自答を繰り返し思考していく。
人を殺しても生きていたい!
その為の理由が欲しかった。
免罪符が欲しかった。
この頃の私はとにかく誰かにすがろうとは考えてなかった。
周りには頼れる誰かはいない。
自分一人で、状況を打開しなくては行けなかった。
周りを見る余裕がなかった。
生まれ育った地から遠く離れた場所を楽しめる状態ではなかった。
精神的に追い詰められていた。
答えの見えない出口を探しているそんな感じだった。
人を殺す?
一人殺しただけでもこれほど精神的に来る。
私は、この先、何人、殺せばいい?
何人、殺せば、この状況から抜け出せる?
三年。
今の私にはそれが余りにも遠く、出口の見えないゴールのように思えた。




