帰路?
セルラス邸の門を過ぎると、ラットが待っていた。
「若旦那! 大丈夫だすか?顔が真っ青だす」
「大丈夫じゃないよ。ラット」
私はラットに、ことの次第を話す。
「ノーマン様が亡くなった!しかも、若旦那が奴隷やて、そんなバカな?」
ラットは、我事のように怒ってくれた。
そのことが、私にはとても嬉しかった。
「ラット、悪いんだけど、遺品を持って帰りたいんだ。馬車の手配を頼めるかな?」
「お安いご用だす。万事、わてに任せて、若旦那は少し休んだほうが、いいだす?」
「そうもいかない。ここから早く出たいんだ」
「そうだすか。わかりました」
ラットが、自分の胸を叩く。
癖なのかな?それとも、私を気遣って笑わせたいのかな?
ラットが居てくれて良かった。
私一人だと、何も出来なかったかもしれない。
それだけ、衝撃を受けていた。
本当なら、この場で踞ってしまいたかった。
でも、そういう訳にはいかない。
遺品を村に持って帰らないと、村の人達が出征した人達を待っているのだから。
ラットは直ぐに、馬車を用意してくれた。
遺品の山を、馬車に詰め込む。
ラットの商会の者達、ラット、そして、私自身も、黙々と遺品を馬車に載せる。
誰も何も言わない。
そんな私達の姿を見て、門番の人達も手伝ってくれた。
私は門番の人達に、深々と頭を下げて、お礼を言ってセルラス邸を後にした。
私達は、早々にセントリアを出発した。
この場所に、もう用はなかったから。
馬車の中で、ラットが遺品を確認していた。
「間違いあらへん。この鎧や盾、兜に槍や剣、膝あて、籠手はわいの商会が用意したもんだす」
ノーマンは、兵役に就くとき、ラット商会に村人の装備一式を用意させたのだ。
全てノーマンの自費である。
「まさか、こんなことになるとは、全然信じられまへん?そもそも、ノーマン様が戦死やなんて、全く、想像でけへん!」
私もそう思う。
ノーマンは、私が知る限り最高、最強の戦士だと思う。
ノーマンの使う剣技、魔法の威力、そして咄嗟の判断力、どれも素晴らしいものだ。
そんなノーマンが死んだ?
信じろと言うのが、無理な話だ。
でも? 現実にノーマンは死んだ!
私はこの世界が、死に近い場所なのだと、改めて思いしらされた。
ノーマンの遺品を見ながらそう思った。
「若旦那?これからどうしますのん?」
「これから?」
ラットが、私に詰め寄る。
その顔は、いつものおどけた顔じゃなく、真剣な顔に見えた。
「そうだす。このままやったら、若旦那は奴隷だす。逃げるんなら、わいが手を貸しますよって?」
ラットの提案に私は驚いた。
なぜ、ラットはそこまで、私に親身になるのだろう?
「ラット、それは出来ないよ。そんなことをしたら、村人が奴隷にされてしまう。バラスは多分、いや、きっとそうすると思う。それに僕自身、逃げ出したくないんだ」
「そう、だすか」
ラットが、心底残念そうにしている。
「どうしてラットは、僕にそこまでしてくれるだ?僕はともかく、ノーマンに、父にそんなに恩義があるのか?」
「そう、だすな。わいは、若旦那の一族に大層お世話になりましたんねん。言葉に出来んくらいのでっかい借りがありますねん」
「そう、なんだ?」
少し意外だった?
鼠族がそんなに、恩や義理人情に厚いなんて?
前世では、金の切れ目は縁の切れ目と言わんばかりに、借金をする前と、借金をした後の人間関係はそれは本当にひどいものだった!
人は金が有るときは、群がってきて、金が無くなったら去っていく。
相手が困っている時、こちらは散々助けたのに、いざ、こちらが困った時は全然助けてもらえなかった!
人間とは、薄情な者だと、前世では痛感した。
なのに、ラットは私を助けようとしてくれる!
「そうだす!わいは若旦那のことを、ノーマン様に頼まれましてん。ノーマン様の信頼に応えたいんだす!それに」
「ん、ちょっと待て? なら初めて会ったときのあの態度は?」
「あれは、わいとベスはんが話おうて、若旦那を試したんだす。いきなり、商売を打ち切る、言うた時はどうしよう思いましたわ。」
そういうこと?ベスも噛んでたのか?
「そいでも、若旦那はノーマン様の言うたとおり素晴らしいお人やった!わいは、若旦那に惚れましてん!」
「そ、そう」
男が男に惚れるという話は聞くが、鼠が人に惚れる話なんて有ったっけ?
「だからわいは、若旦那に手を貸します。アスバール家の人間というだけやない!わいが若旦那を助けたいねん!」
ラットが立ち上がり、両手を握りしめて力説する姿は、感動的、ではなかった?
どうせ、惚れられるなら女の子がいいな。
欲を言えば、美少女に♪
鼠に惚れられるのはちょっとね?
いや、助かるんだよ。とっても、だけどね~?
「じゃ~ラット、これからの事なんだけど?」
「なんだすか?なんでも言うてくだされ。わいが手伝えることやったら、なんぼでも手伝いますさかい」
ラットと話をしていたら、悲しみも怒りも何処かに行ってしまった。
そして、ある程度冷静になれた。
そう、これからだ!
私が、奴隷になるまでの時間は後、十日ほど。
それまでに、色々としなければならない。
それには、ラットの協力が必要だ!
ラットの私に対する気持ちが分かったので、彼が私を裏切ることはないだろう?多分?
私は村に着く間、ラットとこれからの事を話あった。
このまま、理不尽な目に会いづつけてなるものか!
少しは、抵抗しよう。 少しは




