セルラス伯爵?
結局、私はラットの率いる商隊と共に、セルラス伯のいるセントリアに向かった。
ラットの言う料金は、私が商隊の護衛を行うことで、無料になった。
なんでだろ?なんで私が護衛?なんで?
ブツクサ文句をたれていると、ラットが。
『まあまあ、護衛なんて名ばかりですねん。なーんも起きわしませんて』
等と、言って来た。
ほんとか?ほんとに何も起きないのか?大丈夫なんでだろうな?
等と心配していたが、何事もなく旅は順調だった。
ちなみに、リリとナナが付いてくると言いはったが、ベスが止めてくれた。
今回は大人しく留守番だ。
お土産を買って帰ると、約束してきた。
目的地、セントリアまで一週間、その間立ち寄る街は、リンドを含めて二つ。
リンドを経って二日には、その二つ目の街、ロンドに到着、リンドよりも大きいその街は、塀に囲まれて、石畳で舗装されていた。
『こっからセントリアまでは、石畳で舗装されてますねん』
と、ラットが説明してくれた。
ロンドの高級宿屋に泊まり、食事もなかなか豪勢な物だった。
料金は全て、ラットが払ってくれた。
始めから、金を払わせようとする気がなかったのかもしれない?
最初の印象からは、考えられない態度だ。
旅の間、ラットは私に旅の注意事項を事細かに教えてくれた。
一応、ノーマンやマーサに旅のことは聞いていたが、聞くのと体験するのとでは全然違っていた。
それにしても、ラットは役に立つ男だ!鼠だけど。
それに物知りでもある。
元は冒険者であったらしく、ルーキーの頃に出会ったベテラン冒険者に旅のノウハウを叩き込まれたらしい。
そのことをラットは、涙ながらに教えてくれた。
というか、ほんとに泣いていた。
鼠の涙姿は、あまり同情的には馴れなかったが?
そして一週間後、旅は何事もなく、呆気ないくらいにセントリアに着いた。
セントリア
高さ三メートル程の白い壁が街一帯を覆っている。街道は石畳で統一されて、街並みは各区間に分かれていた。
人口約三十万人の大都市である。
このアルマルス王国でも、五本の指に入る大都市、そして、セルラス伯の治める街。
私は、唖然としていた。
この世界で、こんなにも大きく、こんなにも人がいることに驚き、夢なのか?と思った。
茫然と立ち竦んでいた私を、現実に引き戻したのはラットだった。
「若旦那、危ないだすよ。道の真ん中に立つのは」
「あ、ああ」
ラットが私の腕を引いて道の端に連れ出した。
「すまない、ありがとう」
「大丈夫だすか?顔色が悪いだすよ」
「こんなに、人を見たのは初めてだから、かな?」
「そうだすか、今日はもう昼間だすから、セルラス伯には会えまへん。使いをやって、明日には会いに行きまひょ?」
「う、うん。そうしようか?」
「ほんま大丈夫でっか?早よ、宿屋に行きまひょか?」
「うん、頼むよ」
「なんか、調子くるいまんな?こんな素直な若旦那は、初めてだすな♪」
「たまには、こんなこともあるんだよ。ラット頼りしてるよ♪」
「うっ、なんやまた無理難題押し付けられそうや。怖いわ~」
ラットが両手を胸に抱えて体をブルブルさせている。
ちょっと笑える姿だ♪
「なに、笑ってますねん」
「別に、さっ、行こうか」
「なんや、もう元気になったんか?心配して損したわ。後で追加料金を貰いまひょか?」
そんなことを言っているが、顔が笑ってるぞ。
ラットの気配りが、私は嬉しかった。
本人にその気はあるのか、ないのかは分からないが。
宿屋に着いて、部屋で休んでいると
「若旦那、セルラス伯が明日の昼間に会うそうだす」
ラットが慌てて、扉を開けて入って来た。
残念だな、私は着替え中じゃないぞ。
まぁ、男の着替え姿なんて見ても、誰も喜ばないだろうが?
「昼間か?朝一に顔をだせって、言われると思ったけど」
「まぁ、心の準備が出来る時間を貰ったと思いまひょ」
「そうだね」
「そうだす」
セルラス伯との対面か。
どんなことを言われるのか?
この旅の間、ラットとその話はずっとしてきた。
ラットは旅の間、セルラス伯の情報を集めていた。
旅に出る前のセルラス伯の話、旅に出た後のセルラス伯とその周りの話を聞いてきた。
私が会うセルラス伯の名前。
バラス-セルラス
前セルラス伯、オット-セルラス伯の次子。
前年オットー伯が病に倒れた後に、爵位を継承。
評判は芳しくない。
粗暴な人物ではないが、優しい人物ではない。
身の丈ニメール近い高さ、この世界では異常な高さで、腕力自慢、武芸に重き置き、文を軽んじる性格。
顔も厳ついらしい。
正直、話を聞いただけでも会いたくない人物だ!
先頃、バラス伯の守る砦で戦闘があったらしく、一月前の話だ。
死者負傷者は少なく、敵の撃退に成功。
バラス伯の武名が、上がった戦いと言われている。
恐らく、この戦いの話がされると予想している。
戦地から戻ったばかりの、当主の呼び出し。
やはり、嫌な予感しかしない。
最悪を想定しておくべきだろう。
その時、私は、どんな顔をしているだろうか?
その日の夜は、一睡も出来なかった。
明けて翌朝、ラットと朝食を共にして、その時を待つ。
ラットが、バラス伯に会う時の注意を私にしてくれたが、話が頭に入らない。
更にラットが何か言っているが、やはり頭に入らない。
そして、気づけばセルラス伯の屋敷前に、立っていた。
屋敷の風景を見る余裕もなく、門番に屋敷の入り口扉まで案内され、その後、執事に応接間に案内された。
そういえば、執事が名乗ったけど、なんて名前だったけ?全然覚えてない。
ラットは、門の前で別れた。
鼠族は、入れないらしい。
一人だ。
心、ここに有らず。
ただ、黙ってその時を待つ。
執事がやって来た。
その部屋の前に、案内される。
執事が中の人物に、何か伝える。
私に部屋に入るように促す。
その部屋に、その人物がいた。
バラス-セルラス、その人が。




