対面?
その使者が現れた時、私はいつものように、村人の陳情(愚痴)を聞いていた。
使者は、村人に目も合わさず真っ直ぐに書斎に向かい、乱暴に扉を開け放った。
「だから、ラット。今回は何のようなんだ?」
「若旦那のご機嫌伺いだすよ♪」
私は、ラットと世間話をしていて、扉が開けられた時は、思わずドキリとして、体をビクッとさせていた。
「ふん、汚ない部屋だな。こんな片田舎には、せいぜい似合いの部屋だろうが」
「あの、どちら様で?」
「人に尋ねる時は、自分から名乗るものだろうが! これだから田舎者は」
いきなり入って来て、部屋にケチを付けて、自分から名乗れときたか?
久々に、カチンとくる奴だ!
「申し訳ありません。私は…「いや、いい。時間の無駄だ!」
名乗ろうとしたら、時間の無駄だと!
何様だ、この男!
いや、解っている。
この男の服装を見れば、貴族だ!
しかも、堂々とした態度、上から目線で私を見ている。
いやはや、初めて見る貴族が、私が想像していた嫌な貴族に、そっくりである。
全然、会いたくはなかったが。
「私は、セルラス伯の使者として、赴いた。
貴様が成り上がり者の息子だな?」
「なりあが、なんですか。突然 」
「質問するな!時間が勿体ない。はいといいえで答えろ!」
「はいといいえ?」
「質問に答えろ!貴様は成り上がり者の息子か?」
「質問の意味が解りません?大体成り上がり者の息子「答えろ!」
その男は、腰に下げていた剣を抜き、私に突き付ける。
私は自然と両手を挙げる。
剣を抜き放つ動作から、結構剣が使えると判断できた。
迂闊な行動は控えるべきだろうな。
それにこの男、かなり沸点が低いようだ。
セルラス伯の使者と言ったな。 はて?
「ノーマン様のことですやろ?」
いつの間に移動したのか、ラットが私の耳元に囁いていた。
「は、はい?」
「素直に答えればいいものを、私の時間を無駄に使わせおって」
使者は、抜いた剣を鞘に戻した。
「要件を伝える。一度しか言わん。聞き漏らすな!」
「はい」
「よし! セルラス伯がお前をお呼びだ。直ぐに、準備して来るように!」
「直ぐにとは、どのくらいですか?」
「質問するなと、言ったはずだ!直ぐにとは、直ぐにだ。いいな!」
「はい?」
「これがセルラス伯の書状だ。 どうせ、読めんだろうから、誰かに読んでもらえ。 以上だ」
「はい?」
返事をすると使者は、これ以上は用がないという感じで、部屋を出ていった。
「なんだ、あれは?」
「セルラス伯の使者ですやろ?」
ラットが答える。
「あの男、お前には無反応だったな?」
「貴族なんですやろ、貴族は鼠族を嫌いますよって」
「そうなのか?」
「そうなんだす。 それより、書状を確認したほうがええですやろ?なんなら、読みましょか?」
「お前までバカにするのか?」
「さて、何のことやろか?」
私がラットを睨むと、ラットは私を見ずに、そっぽを向いていた。
夜、食事を終えて、リリとナナが寝入った後、私とベス、そして何故か、ラットが書斎にいた。
要件は一つ、昼間に来た使者が寄越した書状についてだ。
「これが、書状だ。読んで見てくれ」
「拝見致します」
「じゃ、わても」
ベスは昼間、裏庭でリリとナナを見ていた為、使者に直接会っていない。
村人がベスを呼びに生き、ベスが書斎に来た時は、使者は既に帰った後だった。
ベスは私に平謝りだったが、しょうがないよ、あの使者じゃな?
そして、ラットは当然のようにこの部屋にいた。
『わてが必要になるでっしゃろ?』
等と言い、舘に留まったのだ。
「え~何々、急ぎ我が屋敷に「声に出さなくていい!」
「読め、言うたんわ、若旦那だすやろ?」
「声にだせとは、言ってない」
「わては、若旦那が書状を読めんやろうと思「読めるわ!」
「ふー、ラット、ご主人様をからかうのは止めなさい」
「はいだす」
ベスにたしなめられるラット、全然、反省している感じがしない。
「呼び出しですね?」
「呼び出しだすな?」
「呼び出しは分かる。だけど、何の呼び出しか書いてないのが、気になる」
この書状には、呼び出しの要件が書いてないのだ。
呼び出しには、其なりの理由が有るはずだ!
何故なら、今のローダン村の責任者は私だからだ。
ノーマンが居れば、私が留守を預かる。
だが、今はノーマンはいない。
私の留守を預かる者はいない。
二~三日の留守ならともかく、セルラス伯のいる街までは、最低でも一週間は掛かる。
往復で二週間、伸びることはあっても、短縮されることはない。
この半年は、セルラス伯の役人が二度、村を訪れ、納税や、村の様子を報告していた。
本来なら、私が直接報告をしなければいけないはずの所、役人を派遣してもらっていたのだ。
それなのに、この呼び出しである?
「ですが、行かないわけには?」
「そうだけど、留守居役や、それに行ったことのない街に行くのは」
「留守は、私がいます。村人を何人か連れて行かれてわ?」
「そうなんだけど、嫌な予感がするんだよ」
言葉にして、はっきりした。
そう、嫌な予感しかしない。
もしくは、悪いことが起きたのかもしれない?
ノーマン達の身に何か?
考え過ぎかもしれない、でも!
「わてが、ついて行きましょ!」
「お前が?」
「ちょうど、あの街に用がありますし、いいですやろ? 案内も出来ますよって?」
「いいのか?」
「かまへん、かまへん、これも何かの縁だす」
ラットが、軽く自分の胸を叩く。
「いいと思います、ご主人様」
「そうかな?」
「彼なら、ある程度、荒事にも対処出来ますから」
「そうなの?」
「大丈夫だす」
また、胸を叩く。
今度は強く叩いたのか、むせていた。
「なら、頼むよ」
「頼まれました。ついては料金だすが?」
「金を取るのか?」
「唯とは、言ってないだす」
は~、ほんとにこいつは?
ベスも少し呆れ顔だった。




