鼠族?
ベスの案内で、その商会に向かう。
商会は、この町の建物の中でもかなり大きい部類に入る。
商会の裏には、幾つも倉が有り、そこから荷物を馬車に積み込んでいた。
私とベスは、商会の応接室に通してもらい、村人三人とリリとナナは、商会の前でお留守番。
応接室で待つこと、10分余り、お茶を出されたが手をつけていない。
室内のやや硬いソファーに座り、責任者が来るのを待つ。
この待つ時間が、嫌でも緊張感を産む!
やな時間だ。
ガチャリと、ドアが開けられて、その人物が現れる。
「すまんねぇ~、お待たせてしまして?
初めまして、当商会の代表のラットだす。よろしゅう♪」
私とベスは立ち上がり、代表の挨拶を受ける。
そして私は、ラットなる人物を見る。
頭の上に耳、お尻から尻尾が生えていた。
獣人? というか、鼠? 鼠がまんま大きくなって、服を着ている感じだ。
顔は、人に近いが鼻は突きだし、髭が鼻の先から左右に三本づつ有る。
鼻をひくひくさせながら、こっちを見ている。
私は………、がっかりきていた。
初めてまともに見る獣人が、鼠!
この世界に獣人がいることは、本で知っていたし、マーサに教えてもらってもいた。
このリンドの町に来たときも、それらしい人を見かけたが、凝視するのは避けていた。
マーサから、獣人はじろじろ見られるを嫌がると聞き。
下手をすると、絡まれたりすることもあるらしい?
実際、リリ達と買い物していた時も、獣人を見かけたが、なるべく見ないようにしていた。
小心者なんですよ、私は。
リリ達は、獣人が珍しく、指差して、
「獣人だよ!お兄ちゃん。ほら、ほら♪」
とはしゃいでいたが、
「止めなさい!失礼でしょ!
リリもあの人達から、人族だ!人族だ!と言われたら、どう思う?」
「ゴメンなさい。」
「もうしないように、ね!」
「は~い。」
リリは謝ったが、やはり珍しいのか、じろじろ見ていた。
ナナは余り興味がないのか?チラチラ見ているだけだったが、逆か?
興味が有るから、チラチラ見ているのか?
そして、現在、私は、落胆していた。
初めて会う獣人!
普通は、猫耳が有って、尻尾がフリフリと可愛い。
そして、何より、美少女キャラであること!
それが鉄板だろ、普通は!
それがなんだ、これは?
目の前にいる獣人は、可愛い美少女ではなく、小太りしている、鼠!
腹が出ている鼠!
鼠だなんて、鼠に会うなんて、チェンジだ!チェンジ!
こんなの認めるか!断じて認めないぞ!
大体、獣人というのはなぁ………。
「……様? ご主人様、ご主人様!」
「はっ、な、なんです?」
「ご挨拶を。」
「あ、すみません。初めまして……です。」
「なんや、挨拶もろくに出来んのですか?」
「申し訳ない。」
しまった!余りのショックに、我を忘れていた。
ラットからは、侮蔑の目で見られ、ベスからは、心配の目で見られている。
しっかりしなくては!
「そんで?要件はさっきの件でよろしいんか?」
あからさまに、態度がデカイ!
ソファーにドカリと座り、こっちを顎で見ている。
なんか、ムカつく!
鼠にバカにされるなんて、無性に腹が立ってきた!
しかし、こっちがお願い事をする立場、さっきの失態もある。
ここは、堪えて。
「先程、こちらの使用人が伝えた通り、物資の購入に関してです。」
「こっちからは、そのまんまですな、この値段でお願いしましょ?」
ラット、鼠が紙をこちらにスッと差し出す。
ベスが受け取り、私に見せる。
「この値段では、購入出来ません。余りにも、高すぎます。」
「高いことありまへんがな?これが適正の価格だす!」
なんか、ムカつくしゃべり方だな!
わざとやっているのか?
「前に、行商人からある程度見積りしてもらいましたが、これほど高くはありませんでしたが?」
「ふん、なんちゅう行商人でっか?デマカセちゃいますか?」
ラットは、挑発的な会話を続ける。
私は質問に丁寧に答える。
ウソ偽りは、言わない、誠実で、真面目な対応、前世でもそうしてきた。
しかし、前世では正直者はバカをみる。
今世ではとうだ?
「セルラス領の…………ですが、問題ですか?」
「ふ~ん、さようでっか。ウソではないだすな。」
あれ? なんか、風向き変わった?
「どうして価格が、割高なのか、説明して下さい?」
「う~ん、そうですな。」
ラットは、考え込んでいるように見える?
どうする? 更に強気に出るか?
それとも、少し待ってみるか?
「正直にお答えしましょ。実はでんな。」
「戦争が、始まるんだす!」
「戦争が、始まる?」
「そう、戦争だす。」
ラットは、説明を続ける。
「実は、一月前にセルラス伯から連絡が在りまして、戦争の準備に協力するように、とのことで。」
「戦争の準備?」
「そうだす。そこで、物資の買い占めが有りまして、現在は少し物資が不足しとるんだす。」
ラットの説明を聞いて、ある程度納得はした。
だが、ラットはウソをついている。
最後に、行商人から価格の相場を確認したのは、十日前。
一月前に、物資の買い占めが有っても、価格は変わらなかったか、ラットがウソをついているか、どっちかになる?
そして、獣人の鼠族は、よくウソをつく!
それに、一度なめられると、その後は、高圧的な態度で、対応してくる。
しかし、こちらが強いと感じると、へこへことへりくだってくる。
その関係は、死ぬまで変わらないそうだ。
少し、冷静になって思い出した!
そうだ!強気に出てみよう?
最初、こちらが粗相をしたので、下手に出たのが悪かった。
それに、初めての獣人に、幻想を打ち砕かれたのも、いけなかった。
よし! そうとなれば。
「わかりました。」
「わかってもらえただすか?」
「はい、こちらでの購入は諦めます。他所で購入します。」
「そうだすか、諦めるだすか?はい?諦めるて?」
「ベスさん、帰りましょう。時間を浪費しました。」
「そうですね、わかりました。」
ベスは、私の考えを理解したのか、私を引き止めなかった。
ラットは、慌てている。
「待った!待ってんか?」
「なんですか?」
「物資がいるんやろ?他所では、わしより多くの取り扱いは出来んて?」
「だから、ここではなく、違う町で買います。」
「違う町て? 遠くに行くのは時間もかかるし、ここより安いかもわからんやろ?」
「帰りましょう。ベスさん。」
「はい、ご主人様。」
私とベスは、席を立つ。
「わかった!この値段でどうや?」
ラットは、新しい紙に値段を書く。
紙は、高級品じゃないのか?大丈夫か?
ちらりと値段をみる。
「帰ります。」
「ま、待った!これならどうや?」
勝った!
ラットは、完全に折れた!
この後、似たようなやり取りを繰り返し、結局、定価の三割までまけてもらった。
最後は、涙目になったラットが可哀想に思えた。
しかし、商人には向かない種族なのに、よく今までやってこれたものだ?
涙目のラットに、見送られながら、商会を後にする。
しかし、戦争が始まるのか。
商談が終わった後に、ラットに確認したが、戦争が始まるのは、確定らしい。
ノーマンとエルク達は、大丈夫だろうか?




