交渉?
宿屋に着くと、ベスが私達の帰りを待っていた。
手を挙げて、ベスに声を掛けようとした時、リリがベスに向かって走り出していた。
ベスもこちらに気づいたのか?両手を広げて待ち構える。
そのベスの下へ、全速力で駆けるリリ。
ちょっと、半端ない速度何ですけど?
「お姉ちゃん、やり過ぎ。」
ぽつりとナナが呟く。
やり過ぎって、ああ、そうか。
私もどうなるか、想像がついた。
「お母さ~ん。」
物凄い勢いが付いた状態でリリが、ベスにジャ~ンプ。
ジャンプと言うより、もはやタックルだな、あれは。
そして両者が衝突、辺り一面に砂ぼこりが舞い、ベスとリリがどうなったか分からない。
砂ぼこりの中で、人のシルエットが見える。
おお、どうやら無事みたいだ。
砂ぼこりが収まると、ベスに抱き付いているリリの姿が見える。
あのリリのタックルを受け止めるとは、さすが母親?
私とナナがベス達の下に、たどり着く。
ベスはリリを引き剥がすと、服に付いた埃を払い、優雅に一礼する。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「ご主人様はちょっと。名前で呼んでください?」
「いけません!今はあなた様が、私達のご主人様なんですから。」
「ハァ~、そうですか?」
「そうです。」
「「そ~うで~す。」」
リリとナナが真似をする。
ご主人様ね~、似合わないよなぁ~。
本当なら喜んでいいような気もするけど、外見上はまだ子供だからなぁ~。
調子に乗ってはいけない!
と、そんなやり取りをしていると、周りがガヤガヤと五月蝿くなってきた。
ちょっと、目立ち過ぎたようだ。
ちょっとじゃないと思うが?
「えっと、ベスさん。取り敢えず中で、話ましょうか?」
「呼び捨てでいいと、言いましたのに?わかりました。このままだと、目立ちますものね?さっ、二人とも中に入りなさい。」
「「はーい。」」
ベスが、リリとナナを宿屋に連れて行く。
私も後を追って、中に入る。
この宿屋は、二階建て、一階は受付と奥に食堂があり、客は一階で食事を取り、二階で寝泊まりする。
馬車は、宿屋の隣にある馬屋に預けてある。
私達は、奥の食堂で待っていた村人三人と合流し、大きめの円卓に座り、オーダーを取りにきたウェイトレス?にお茶を頼む。
お茶が来る前に、ベス達に予定より遅れたことを謝る。
本来なら、午前中に買い物を済ませ、昼前にベス達と合流し一緒に昼食を取る予定だった。
そして、昼食を食べながら、ベス達の報告を聞いて、その後の予定を決めるはずだったのだが?
「そうですか、すみません、娘達がわがままを言いまして。」
「あ~、別にいいですよ。リリ達だけのせいじゃないですから。」
「そうですか?後で私からきつく言っておきますから。」
「そんなに怒らなくてもいいですから、初めての町で興奮してましたし、しょうがないですよ。自分もそうでしたから。」
「そうですよ、仕方ないですよ。」
「うん、うん、初めての町ですからね!分かります。」
「まぁ~、若いんですから、大目に見てやりましょう」
三人の村人も、本当は怒っていいのに、私と合わせてリリ達をフォローしてくれた。
小さな女の子には甘くなりますよね?みなさん?
「そ、そうですか?皆さんがそう言うのであれば、二人とも、ちゃんと謝りなさい!」
「「ごめんなさ~い。」」
なんか、ナナがリリのとばっちりを受けているような?
そして、村人三人は二人の女の子を微笑ましく見つめている。
大丈夫ですか~、三人とも、そっちの人じゃないですよね~。
さて、こっちの事情は説明したし、ちょうどお茶も届いたことだし、ベス達の報告を聞こうか?
「じゃ、ベスさん。そっちの方は、どうでした?」
私はベスに問いかけながら、お茶を啜る。
しかし、この世界のお茶は、紅茶のような色をしているのですよ?
私はお茶派、コーヒー党ではなく、紅茶派だったので、この世界のお茶を見たとき、「なんだ、紅茶じゃん。」と思って飲んだら、緑茶の味がしたので驚いた!
ぶっちゃけ、吹き出しました!
マンガやアニメで、よく表現されるように、ぶーって、やっちゃいました。
その後、しこたまマーサに説教を食らいました。
今では、いい思い出ですよ?
私はまだ、この世界の紅茶に出会ってませんが、きっと、緑色か?真っ黒な液体だと予想してます?
当たっても何か貰えるわけではないですけど?
紅茶に見える緑茶の味がするお茶を啜りながら、ベスの報告を聞く。
「1.5倍ですか?」
「はい、1.5倍です。」
そんなバカな!と言ってやりたい気持ちだ。
ベス達は、物資購入のため、いつも利用している商人の所に行き、そう言われたそうな?
私はここに来る前に、村に来た行商人に周辺の物価を聞いている。
砂糖を大量に買い取ったことで、気を良くしていた商人は、私に色々と教えてくれた。
「何かあれば、力になりますよ?」とも、言ってくれた。
そんな行商人が教えてくれた物価の約1.5倍を要求されたのだ!
ベスは賢明にも、その場での即答を避けて、訳を聞いてみるも、相手にされなかった。
おそらく、ベスの格好や、一緒にいた村人を見て、足下を見たのかもしれない?
もしくは、行商人から大量の砂糖を購入したことを知って、値段をいつもより吊り上げたのかもしれない?
あるいは、領主代行が子供だと知って、侮って居るのかもしれない?
理由を考えれば、切りがない?
どうしたものか?
パッと、三つの案が浮かぶ。
1、商人の言い値で買い取る。
2、商人と交渉、又は脅して買い取る。
3、別の商人から買い取る。(行商人から)
こんなところか?
先ずは、1は論外!
相場の1.5倍の値段で買い取っては、用意した予算を遥かにオーバーしてしまう。
本来なら、大量購入ということで値引きしてもらう事も、有る筈なのに?
逆に、値上げされるとは?
用意して来た予算なら、最悪1.3倍なら買える。
次いでに、ノーマンのへそくりを持って来ているので、1.5倍の値段でも買えなくはない?
次に、2であるが?
私は交渉事が、苦手だ。
前世でも、私は感情が顔に出やすいので、交渉事は不得手だった。
この世界でもおそらく、いやきっと、顔に出るだろう?
ベス達が交渉出来ないのだから、私が交渉しても、値を上げられるかもしれない?
なら、脅してみるか?
いやいやいや、そんな事をしたら、最悪、町の領主に訴えられる。
そんな事は、出来ない。
3は、2が失敗した時の保険だな?
おそらく、これがベターな答えだろう?
しかしまさか、値段を上げられるなんて、思いもしなかった?
私はその商人と、直接面識がない?
私がノーマンに付いて町に来た時は、ノーマンが直接、商人と交渉していた。
その時私は、宿屋に待たされていた。
あの時、強引にも付いていけばよかったか?
終わった事は、しょうがない。
今は、最善と思われる手を打とう!
一応、みんなの考えを聞いてみよう。
一人の考えでは、答えが出なくても、大勢で考えれば?
あまり期待はしないが?
「う~ん、どうしたら良いと思います?」
「私では、話を聞いて貰えませんでした。主人を連れて来いの一点張りで?」
「そうなんですか?」
私は、村人三人に聞いてみる?
「そうです、耳を貸そうともしませんでした。」
「相手にされなかったですよ。」
「あからさまに、見下された感じでした!」
あ~、最後の見下された感じで、なんとなくその商人のイメージが浮かんだ。
きっと、その商人は貴族と直接取引して来たのに、今回は使用人が来たから、気分を害したのかもしれない?たぶん?
「お兄ちゃん!そんな人は懲らしめよう?」
「兄様をバカにする?許せない!」
なんか物騒な事、言ってますね?
そんな事はしませんよ?たぶん?
それにその商人は、私と面識ないですから、私をバカにしてませんよ?
いや待て、ベス達を相手にしていないから、間接的に私をバカにしたかも?
まぁ、そんな事はいい。
取り敢えず落ち着かせよう。
「まぁまぁ、落ち着いて、ねぇ?」
「「でも~…」」
「どうしますか?ご主人様?」
ベスが娘達の意見をスルーして、私に聞いて来る。
ベスと村人三人は、私に視線を集中させている。
どうやら、私の意見で決まってしまうような空気を、作っている感じがする?
厄介事は、責任者に押し付ける!
これは前世でも、今世でも変わらない。
前世でも、私はそうして来た。
そして、責任者として責任も取ってきた!
そうなるとやることは決まっている!
私としては、避けたいことだが?
「自分が直接、会うしかないですかね?」
「私は、そう思います。」
村人三人も、ベスと同じ意見なのか?
一様に頷いている。
「ふぅ~、しょうがないか?」
思わず声に出してしまう。
ハッとして、手で口を押さえる。
そして、皆に愛想笑い。
「じゃ~行きましょう。時間が勿体ないし?」
「「「「はい!」」」」
皆さん返事いいですね?
子供に責任、押し付けたと考えないんですか?
取り敢えず、2で行きますか?
脅しじゃないですよ?交渉ですよ。
今のところはね?




