25-1
傭兵採用試験の日程も、今日を入れて残り2日。
今日は休日で、いよいよ明日、結果が発表される。
昨日は、怪我のせいで髪の毛くらいしかまともに洗えなかったので、朝食前にひとっ風呂浴びてすっきりした。
フランカが付き合ってくれたんだけど、大浴場には、私たち以外にはやっぱり誰もいなくて、静かで、ちょっと寂しかった。
そして今、私は自分の剣を見つめている。
「そんだけボロボロだと、もう研いでどうにかなるレベルじゃねぇな」
そう。イライザが言った通り、私の剣の刀身はボロボロになっていた。昨日の戦いのせいだ。
アサルトウルフの攻撃を防いだり、弾き飛ばされて地面に刺さったり、あいつの頭を骨ごと切断したりで、相当なダメージを受けていたみたい。
こんな状態で、もしあと一戦でもしたら、最初の一撃でパキンと折れてしまうだろう。
「……そういやそれ、親父さんから貰った剣だったな」
「うん……」
溜め息が漏れる。
「まぁ、そんなに気を落とすなよ。別に、もう直らねぇってわけじゃないんだしさ」
そう。鍛冶屋に持っていけば、直る。
「うん。わかってる」
わかってるけど、そういうことで落ち込んでるわけじゃない。
父から貰った物を、こんな状態にしてしまった。そのことが、私の心を苛んでいるんだ。
……使えば、いつか壊れる。そんなことはわかってる。
だけど、それをすんなり受け入れられない自分がいる。
でも、悩んでいても仕方ない。私は、目をつぶって、暗い感情を心の隅に押し込んだ。
そして、剣を鞘に戻す。一息ついて椅子から立ち上がったところで、トイレに行っていたフランカとマリサが戻ってきた。
「よし。んじゃ、飯食いに行くか」
イライザの掛け声で、全員部屋を出る。
私は、気を取り直して、今日1日をみんなと楽しく過ごそうと決めた。
だって、この4人で一緒に過ごせるのは、今日が最後だろうから……。
私たち受験者にとって、動揺せざるを得ない発表が行われたのは、昼食を摂ってしばらく経った、午後のことだった。
各宿舎のエントランスホールの掲示板に、一枚の紙が貼られたんだ。
もちろんそれは、試験結果ではない。
むしろ、その後に関係している内容だった。
「傭兵……候補生、制度?」
そう。それは、「傭兵候補生制度」というものを受験者たちに知らせるためのものだった。
「なんだよ、それ」
イライザが、私とフランカの間から顔を出し、その文書に目を通す。私とフランカはそれを気にせずに、同じくその文面に目を走らせた。
そこに書いてあることをまとめると、こうだ。
――傭兵採用試験で不合格だった者の中から、男子10名、女子6名を選抜し、傭兵候補生とする。
傭兵候補生に選出された者は2人一組となり、一組につき1人、担当官として現役の傭兵がつく。
傭兵候補生は、担当官と共に、実際の仕事に3ヶ月間就き、経験を積む。
そして3ヶ月後、担当官によって合否が伝えられ、合格だった者は、次の試験を受けることなく傭兵になることができる――
自然と、私とフランカは目を合わせようとした。だけど、そこにはイライザの顔があって、私たちは、「ん? ん?」と首を巡らせた彼女と顔を合わせることに。
「え~っと、つまりこりゃ、試験に不合格になっても、傭兵候補生ってのに選ばれて3ヶ月頑張りゃあ、次の試験を待たなくてもいいってこと、だよな?」
そういうことだね。私とフランカはコクリと頷く。
「でもよ、こんなの聞いたことねぇぞ。今まで、こんなのあったのか? まさか、裏でこっそり行われてた、とか?」
「違うと思う」
マリサが口を開く。その指は、文書の下の方を指している。
「この制度は、今回の試験から導入されるものだって書いてある」
確かに、そう書いてある。
今度こそフランカと顔を見合わせようとして彼女を見ると、しかし彼女の顔はまだ文書の方に向けられていて、なぜか、その視線はべったりとそこに貼り付けられていた。
「どうしたの? フランカさん」
ただならぬ様子に声をかけるも、反応は無い。
「?」
気になって、彼女の視線の先を見やる。
「……――!」
そして私の視線も、そこに釘付けになった。
――発案・最高責任者:シルヴァーノ・オルトリンデ――
文書の一番下、一番最後に、その名前が記されていた。
オルトリンデって、……もしかしなくても、そういうことだよね?
フランカの、……フランチェスカ・オルトリンデ王女の、兄弟。
「お、おに――」
「ちょっ!」
「――いぶっ」
たぶん、今まで生きてきた中で一番素早く動いたね。
びゅっと風切り音を立てて手の平を繰り出し、ぶっ叩くくらいの勢いでフランカの口を塞いでいた。
目を丸くして私を見るフランカ。
「ど、どうしたんだよ、おい」
私の突然の暴挙ともとれる行動に、イライザも、マリサも驚いた顔をしている。
彼女らだけじゃない。周囲にいたほかの受験者たちも、私たちを見て停止していた。
「……あ、え、えと、……ご、ごめんなさい」
とりあえず口から出たのは、謝罪だった。
そして、フランカの耳元に小声で「ちょっとこっち来て」と吹き込み、彼女の身体を引っ張るように宿舎を出る。
「おい。どこ行くんだよ」
追いかけてくるイライザとマリサに対し私は、「な、なんでもない。なんでもないから!」と言い放ち、フランカの手を握って駆け出した。
馬鹿。こんなの怪しすぎるじゃんか。後でどう説明すりゃいいんだよぉ。
走りながら、フランカの顔を一瞥する。彼女は、心ここにあらずといった感じだ。
……無理もない。
だって、突然すぎるよ、あれは。




