24-4
私とフランカは、しばらく何も話さずに、ただじっと静かに身体を休めていた。
医務室には、私たちよりも前に戦いを終えた受験者たちが、私と同じようにベッドに寝かされたり、身体を休めたりしている。
寝ながら首を巡らせてみても、男子の姿が無い。フランカによると、隣接するいくつかの部屋も医務室として使われていて、男女が別々になるようにしてあるとのこと。
「……」
そんなフランカの姿を、視界に収める。
彼女は、頭や腕などに包帯を巻いているものの、私よりも遥かに軽傷のようだ。
あんなに強いファミリアと戦ったのにもかかわらず、これだけの怪我で済むなんて。
一体、どういう戦い方をしたのだろうか。
「どうされました? ティナさん」
私の視線に気付いて、フランカが笑顔を向けてくる。
私は「なんでもない」とちょっと慌てて目を逸らした後、やっぱり気になったので、ちょっと聞いてみることにした。
「……ねぇ、フランカさん。フランカさんって、あんまり怪我してないよね。もしかして、結構楽に戦えたりしたの?」
するとフランカは、「いえいえ」と首を振る。
「かなり苦戦しましたよ。もう少しで体力が切れそうだったので、本当に危なかったです。怪我をあまりしなかったのは、そうですねぇ、……運が良かったとしか言えないですね」
「運?」
いやいや、運でどうにかなる相手じゃなかったでしょ。
「はい。……まず、パワーとスピードでは敵わないとすぐにわかったので、攻撃を避けながら、隙ができるのを待ちました。あまり動き回ると体力がすぐになくなるので、移動はできるだけ少なくして」
ふむふむ。
「でも、なかなか隙ができなくて、疲れる一方でした。どのくらいの間、敵の攻撃を避け続けていたのかはわかりませんが、かなり長い間だったと思います」
「ああ、だから音があんまり聞こえてこなかったんだ」
「はい。私も、なんとかしようと剣を振ってみたりしたのですが、あまり意味がありませんでした。そして、体力が底を尽きかけて、ああ、もう駄目だと思った時です。ほんの一瞬でしたが、敵が滑ったんです」
「滑った……?」
「ええ。ほら、施設内の地面には、ファミリアの死体がいくつも転がっていたでしょう? 私への攻撃に集中するあまり、気づかなかったんでしょうね。ほんの少しだけ、ズルッとなったんですよ。それを見て、ここしかない! って思いまして。残った全ての力を込めて、剣を突き出したんです」
フランカは、身振り手振りでその時の様子を再現して見せる。
「それが運良く、敵の頭に突き刺さったんですよ。そうしてどうにか、倒せたというわけです」
「……へぇ」
確かに、運が良かったと言えばその通りなのかもしれない。
だけど、アサルトウルフのあの怒涛のような攻撃を避け続けられたってだけでも、すごいことだと思うよ。しかも、そのたったの一撃で倒せちゃったってことでしょ?
もしかしてそれって、すごく高く評価されるんじゃ……。
それに比べて、私はどうだ。剣を取り落としたり、ボコボコに殴られたり。
運が良かったって言うなら、私の方がよっぽど運が良かったよね?
ていうか、奇跡だったよ。
試験官は褒めてくれたけどさ、やっぱりあの戦いはマズかったよなぁ……。
……もしかしたら、私とフランカの間には、かなりの実力の差ができてしまっているのかもしれない。
ここに来て、フランカとは一度も戦ってないし、彼女の戦いぶりも見ていない。だから、その差がどれくらいなのかはわからない。
でも、私の知らない間に、きっとこの子は成長したんだ。
……なんか、悔しいな。
「ティナさん? 傷が痛みますか?」
「え?」
どうしてそんなことを聞くのかと、フランカの心配そうな瞳を見つめる。
「なんだかとても、辛そうなお顔をされていたので」
どうやら、悔しさが思いっきり表情に表れていたようだ。
私は、「ううん、大丈夫だよ」とだけ答えて、フランカから逸らした目を、ぎゅっと閉じた。
その後しばらくして、イライザが医務室へやってきた。
服や身体は汚れていたけど、見たところ怪我も無く、試験前と変わらず元気だった。
「よぉ、2人共」
イライザはすぐに私たちを見つけて、手を振りながら歩み寄ってきた。
「怪我は大丈夫か? ははっ、2人共疲れた顔してんなぁ」
ほかの受験者らが迷惑そうな顔をするほどに、彼女は元気だった。
「イライザさん。試験は終わったのですか?」
フランカの問いに、イライザは「おう!」と笑う。
「テッサさんは? イライザさんの前でしたよね?」
その問いに彼女は、肩をすくめて見せる。
「あいつは妹んとこにいるぜ。小さいけど怪我してるみたいだったからさ、一緒に医務室行こうぜって誘ったんだけど、大丈夫だっつって聞かないんだ。だから、仕方なく1人で来たってわけ」
などと言ってはいるけど、イライザ自身、どう見たって怪我を負っているようには見えない。
「……イライザさんは、どこか怪我したの?」
聞いてみると、イライザは前髪をさっとかき上げる。
すると額に、3センチ程度の赤い線が入っているのが見えた。どうやら、切り傷のようだ。
「たぶん、この辺はアザになるな。一発だけ掠ってさ。切れてんのは、爪が当たったところ」
「それだけ?」
イライザは前髪を下ろして、「こんだけ」と頷いた。
驚く私とフランカに、イライザはさらに驚きの言葉を口にする。
「テッサ辺りから、みんなほぼ無傷だな。時間も、1人5分前後。もう今頃は、リュシー辺りが試験受けてるんじゃねぇかな。そしたら後は、2位の奴とマリサだけだ。すぐに終わるよ」
……それを聞いて、順位表を思い出す。
確か、15位くらいから上の受験者たちは、その範囲内で多少の順位の変動はあるものの、大きく上がったり下がったりした子はいなかった。イライザでさえ、ずっと10位のまま。
一体、どれだけ強いんだよ、上位陣は。
そして、イライザの言っていた通りに、そのおよそ10分後には、最終試験終了。
最後に戦ったマリサは、わずか1分でアサルトウルフの首を刎ねて勝ったそうだ。
そのことを聞いた時、私はあまりの凄さに笑ってしまった。
ははは……。




