22-4
グラウンドから宿舎の部屋に戻り、昨日の結果が貼り出されるまで待つことに。
しばらく4人で会話をした後、イライザは「そろそろかな」と言ってエントランスホールへ見に行った。
そして私は、ベッドの縁に座り、向かいのベッドの縁に座っているマリサの髪を、楽しげに鼻歌を交えながらいじっているフランカの姿を眺めていた。
「マリサさんの髪って、とてもつやつやしていて、触り心地がいいですね」
「そうかな」
などと、フランカが何か喋っては、マリサがぼそりと一言呟くということを、さっきから繰り返している。
いつもマリサは、髪を頭の両側でまとめているんだけど、どうもそれが微妙に左右対称になっていないようで、それをとうとう言ってやったという感じで指摘したフランカが、「直させていただいて、よろしいですか?」と問いかけ、マリサがこくりと頷いたところから、眼前の光景が出来上がった。
……正直、別にいいだろってくらいの違いだったんだけどね。だけど、フランカは結構前から気にしていたらしい。
まぁ、どちらかと言えば、マリサの髪に触ってみたかったって雰囲気だけどなぁ。
そして、好き勝手いじくられても、マリサは表情を変えない。けれど、全く動じていないのかと思いきや、時折、私の方へ目を向けてくる。
……もしかしたら、ちょっと困っているのかもしれない。
面白いから、何も言わずに見てるけどさ。
「おーい。結果貼りに来てるぞ。見に行こうぜー」
ガチャッとドアが開き、イライザが顔を出した。私は「はーい」と言ってベッドから下りる。
フランカはひょひょいと一瞬でマリサの髪を結って、2人同時に立ち上がる。
「どう? ティナさん」
フランカはにっこり笑って、マリサの両肩に手を置き、自分の作品を見せるかのようにマリサの頭の後ろから顔を覗かせる。
見れば、マリサの側頭部の髪は、同じ高さ、同じ量で結われていて、なるほど、左右対称になっていた。
だけど、私は心の中で首を捻る。
「どうされました?」
「……いや、なんか、整いすぎてて逆に違和感が」
マリサは、表情を変えずに私たちの会話を聞いている。その後ろで、フランカは「ええ~?」と不満げな声を上げた。
そしてマリサの前に回り込み、私の横で彼女の髪を見る。
「……う~ん、確かに少し」
そこで、ハッと何かに気付いたように私に顔を寄せる。
「もしかしたら、左右非対称の状態を見慣れてしまったから、違和感を覚えるのでは?」
「フランカさん。顔、近い近い……」
まぁでも、そういうことなんだろうな。
「おーい、なぁにごちゃごちゃやってんだよぉ。さっさと行こうぜぇ」
辟易とした顔を覗かせ、間延びした声を発するイライザ。
フランカは「あ、ごめんなさい」と言って先に歩き出し、私は身を翻しながらマリサに「行こう」と声をかける。
それにマリサは首肯で答え、私たちは部屋を出てエントランスへ向かった。
初日の結果が貼り出された時と同様、順位表の前には小さな人だかりができていた。
「おー、マリサは相変わらず1位か。さすがだな」
感嘆の声を上げるイライザ。確かに、順位表の一番上には、マリサの名前があった。
もはや、定位置になっていると言っても過言じゃないだろう。
「イライザさんは?」
聞くと、イライザは肩を竦める。
「あたしは、また10位だよ。頑張ったんだけどな~」
でもそれって、すごいことだと思う。
「私は……」
そして、自分の名前を探す。前回は19位だったから、その辺にあるはず……。
「あ」
そんな声を、私とフランカは、ほぼ同時に上げた。そして、互いに顔を合わせる。そしてじわじわと浮かぶのは、喜びの笑みだ。
「お、あんたら、ついに合格圏内に入ったじゃん。やったな!」
イライザも、同じように喜んでくれた。
私は、前回の19位から3つ上がって16位。フランカは、その下で17位だ。
女子の合格人数は17人。ついに私たちは、その上位17人の中に入ったんだ。
私とフランカ、そしてイライザは手をつなぎ合い、「やったやった」と跳ね回る。
「おい。あんたも祝ってやれよ、マリサ」
そう言って、ほぼ強引にマリサも喜びの輪の中に連れ込む。そして私たちは、「やったー!」とつなぎ合った手を上に挙げた。
「はしゃぎすぎだろ、バーカ」
「?」
突然、割り込んでくる聞き慣れた声。
出入り口の方を見ると、そこにはリュシーとテッサが立っていた。
リュシーはひねくれた口をそのままに、こちらに歩み寄ってくる。その後を、テッサがとことこと続く。
「試験は、あと1日残ってんだろが。気ぃ抜いてんじゃねぇよ」
腰に手を当てたリュシーが睨みつけるのは、私とフランカだ。
なんだよ。ちょっと喜ぶくらいいいじゃんか。
「そんなのわかってるよ。ねぇ、フランカさん」
「ええ」
私たちも腰に手を当て、リュシーに対抗する。
それを見たリュシーは、忌々しげに頬を歪めてから、腰に当てていた手を下ろした。
そして、再び私たちに向けられた瞳は、わずかに優しさを宿していた気がした。
「……ま、あんたらにしちゃあ、よく頑張った方なんじゃね? あたしらが指導してやったおかげだな。ありがたく思えよ?」
なんと尊大な態度か。私もフランカも、ムッとした表情になる。
だけど、顔を見合わせ、そして私はテッサに、フランカはリュシーの方を向く。
リュシーの偉そうな態度は癪に障るけど、確かに、この子らがいなかったら、私たちは頑張れなかったかもしれない。順位も、上がらなかったかもしれない。
だから、ここはあえて、素直に言うべきだと思うんだ。
「ありがとう。テッサさん」
「ありがとうございます。リュシーさん」
そして私たちは、同時に手を差し出す。
それを見たリュシーとテッサは、顔を見合わせ、口元に笑みを湛えた。
私の手をテッサが、フランカの手をリュシーが握る。
心の中でもう一度「ありがとう」と言って、私は明日へと思いを馳せる。
あと1日。悔いが残らないように、全力で試験に臨もう。




