22-3
翌日、朝起きてからずっと、私はそわそわしていた。
理由はわかってる。明日で、全てが決まるからだ。
最終試験、最終日。明日の戦いで、私たち受験者の合否が決定する。
1日、しかも丸1日ではなく、試験場で行われるわずかな時間の戦いでだ。それが終われば、結果が発表されるのを待つばかり。ほかには、何もできない。
明日の試験後、私はどういう気持ちで結果発表を待つことになるんだろう。
自信に満ちた期待か、はたまた、不満に満ちた後悔か。
……ああ、未来の自分を見ることができたらいいのに。
そんなことをぐるぐると考えながら、私はほとんど上の空で休日を過ごしていた。
昼食後、洗濯の終わった服や靴、それと、メンテナンスの終わっていた剣を取りに行った。
場所は、事務所。受付でそれらを受け取り、さて夕方まで何をしていようかとみんなで話しながら外に出ようとした時、出入り口のガラス戸を開けて、協会員たちが入ってきた。
「!」
その中に、またしても彼の姿が。
「あれ? また会ったね、ティナ」
金髪で長身の、美少年。AAAランク傭兵のローレンツが、私に気付いて声をかけてきた。
彼は、一緒に入ってきた協会員たちに「先に行っていて下さい」と断り、こちらに歩み寄ってくる。
ぽかんと彼を見つめるフランカやイライザとは対照的に、マリサはやや厳しい目つきになり、わずかに後退りをしていた。
それを気にしつつ、私は「どうも」と小声で応じる。
「見たよ、初日の結果。随分頑張ったみたいだね」
元気に笑ってそう言った後、私と一緒にいるフランカたちに目を向ける。
「ティナの友達かい?」
そう聞かれ、私はちょっと戸惑いながらも「うん」と頷く。
「宿舎で、同じ部屋なの」
「へぇ、そうなんだ」
さらっと流し、再び私の方に顔を向ける。
「2日目の結果も、良さそうかい?」
「え? ……う~ん、まぁまぁじゃないかな」
私の曖昧な答えも意に介さず、ローレンツは、相変わらず笑顔で「そっかそっか」と楽しそうにしている。
そこで私は、マリサを一瞥。彼女は、ローレンツの顔をまじまじと見つめている。
……やっぱり似ているんだろうか。例の傭兵に。
「じゃあ、これから仕事だからこれで。もうちょっと話をしていたかったけどね」
「忙しいんだね、やっぱり」
私がそう言った時にはすでに、彼は私たちに背を向けている。
「そうなんだよ。ちょっといろいろあってさ。じゃあ、またね」
最後まで笑顔を崩さず、私だけでなくフランカたちにも手を振り、事務所の奥にある通路に消えていった。
「……あれあれ? なんですかティナさぁん。その寂しそうな顔は」
イライザが、私の肩に手を回してきた。彼女の顔は、もちろんニヤニヤと緩んでいる。
「え? そ、そんな顔してる?」
すると、いつの間にか横に来ていたフランカが、「してますしてます」と、イライザと同じような顔で言う。そしてそのまま3人並んで向きを変え、事務所を出る。
「ん、あれ? おい、マリサ。何してんだよ」
イライザにつられて後ろを振り返ると、マリサはまだ、事務所の奥を見つめていた。
「マリサさん!」
私の声に反応したマリサは、とたとたと小走りで追いついてきた。
「あ、もしかしてマリサさんも、あの方を気にしておられるのですか?」
面白そうに言うフランカに、イライザも「そうなのかぁ?」と目を細めてマリサを見る。
しかしマリサは、「なんでもない」と言ったきり、口を引き結んでしまった。
私たちは顔を見合わせ、イライザは肩を竦めた。
受け取った服と剣を部屋に置いた後、私たちはグラウンドへ向かった。
そこで軽い運動をしながら、ふと考える。
……随分、頻繁に出会える幻だなぁ、と。
AAAランク傭兵っていうのは、そうそう会えないものだと思っていたんだけどなぁ。
試験場で、会って話したのは二度目だけど、彼の姿を見たのはこれで四度目だ。一体これは、どういうことなのか。
協会に用事があるんだったら、カランカにある協会本部の方に行くのが普通なんじゃないの?
この試験場にあるのは、あくまで試験のために存在している事務所であって、傭兵のためのものじゃないんだ。
彼は、何をしに何度もここを訪れているんだろう。だんだん、気になってきた。
だけど、そんなこといくら考えたって仕方ない。私は小さく首を振り、渦を巻きそうだった思考を取り払った。
借りてきた擬似剣を使って、手合わせをしているフランカとイライザを見やる。
試合ではないので、2人共、自分の動きを確認しているような感じだ。一方が打てばもう一方は防御に徹する。交代にそれを行い、繰り返していた。
「……マリサさん」
意を決して、すぐそばに立っているマリサに声をかけた。無表情な顔が、「なに?」とこちらを向く。
「さっき、彼、……ローレンツのことを見てたけど、そんなに似てるの? その、……例の人と」
正直、聞いてよかったのかどうかはわからない。つい、好奇心で口が滑った感じだった。
私の問いかけに、マリサは「そうね」と呟いてから、目を伏せた。
「近くで見たら、やっぱり似てた。だけど、前にも言ったけど、年齢が全然違う。それに第一、名前が違うもの。さっきの彼は、ローレンツっていうんでしょう?」
頷いて見せると、マリサは「だったら、やっぱり他人の空似だね」と言って、小さく息を吐いた。
「……会いたい?」
言ってから、私はハッとして、「あ、いや……」と取り繕おうとしたけど、うまく言葉が出てこなかった。う~、何聞いてんだ、私は。
「会いたいよ」
「え……」
あまりにはっきりとした声に、私は一瞬、誰の声なのかと混乱した。
しかし、目の前にいるマリサの顔はこちらを向いていて、その目はじっと私を見つめている。彼女の口から出た言葉だ、間違いない。
私が何かを言おうとするより先に、マリサはフランカたちのもとへ歩いて行った。
その背中は、少し寂しそうだった。




