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マリサの話を要約するとこうだ。
テッサとリュシーに対し、たまには違う相手と組んでみたらどうだとそれとなく聞いてみたら、リュシーが面白そうだなとすぐに話に乗っかってきて、じゃあ誰と組むかって話になったらしい。
そこでリュシーが挙げたのが、私とフランカの名前。
彼女は仲の良い2人同士、互いのパートナーをシャッフルしたら面白くなりそうだと提案し、それにテッサとマリサが乗った。
そして昨日、マリサはフランカと2人きりになった時にそのことを伝え、フランカも一枚噛んだというわけだ。
その時は、まだどちらがどちらと組むかは決めてなかったようだけど、今日の試験前にリュシーがフランカを選んだことで、残った私はテッサと組むことになった。
どうして、リュシーがフランカを選んだのかはわからないけど、きっと、昨日の夕食の件が関係しているんじゃないかと、マリサは言った。
……喧嘩寸前にまでなったのに? よくわかんないな。
もしかしたら、マリサにはほかに何か狙いがあったのかもしれない。
だって、おかしいじゃんか。違う相手と組んでみたらなんて、わざわざ言わないでしょ。
リュシーはテッサと組むのが自然だし、マリサに何も言われなかったら、彼女らはそうしていたはずだ。
……でも、狙いがあるとしたら、どんな?
結局、聞けなかったけどさ。
その後、マリサとイライザは、少し遅い昼食を摂りに食堂へ向かった。
フランカは、食欲が湧かないからと、再びベッドに横になった私と共に部屋に残った。
……確かに、あんなのを見た後じゃあ、食事って気分にはならない。
肉なんて出てきたら、思い出して戻しちゃうかもしれないし。
あ~、気持ち悪い。あの光景を思い出すのはやめよう。
ベッドの横に椅子を持ってきて腰掛けたフランカに、今日の試験後のことを聞いてみることにした。
「そういえば、私きれいになってるけど、もしかしてみんなで洗ってくれたの?」
あれだけ汚れていた私の身体は、すっかりきれいになり、服も着替えさせられている。
「ええ。一昨日の時と同じように、私とイライザさんとマリサさんで協力して、大浴場でティナさんを洗いました。眠っておられたので、さすがに湯船には入れられませんでしたけどね」
「あはは……。そりゃご苦労様。ありがとね」
2日続けて、裸に剥かれて、隅々まで念入りに洗われちゃったわけか。
それはものすごい恥ずかしいことなんだろうけど、なんか感覚がおかしくなってきちゃったのかな、そこまでイヤだとは感じなかった。
「汚れた服や靴は、私たちのものと合わせて、全部洗濯に出しておきましたからね。それと、剣のメンテナンスも頼んでおきました」
「そっか。ありがと」
体力が尽きて気を失って、面倒なことを全部人に任せちゃうなんて。情けないなぁ、まったく。
沈黙が流れたのを機に、話題を変える。
「……傭兵になったらさ、あんな光景が当たり前になるんだよね」
視覚、聴覚、嗅覚、触覚。それら全ての記憶が、不快感をもたらす。
噴き出す血、横たわる肉塊。肉を斬る音、血や肉が地面を跳ねる音。血や臓物の臭い。血や脂の感触……。
ファミリアと戦って、突然、世界が変わった気がしたんだ。
今まで、私たちがやってきた訓練は、あくまで傭兵になるための第一歩だったんだってことを、深く理解させられた。
訓練で強くなって、もうなんでもできるって思ってた。自信に溢れていた。
だけどそれは、傭兵の世界へのほんの入り口に過ぎなかった。
その先にどんなことが待っているのか、自分がどういう世界で生きていくことになるのか。……私は、それらをほとんど理解できていなかったんだ。自分で選んだ道なのに。
「ファミリアは、人類の敵。……それは、わかってるつもり。だけど、あいつらにも血が流れてて、私たちと同じに生きてるんだ。ファミリアも、生き物なんだよ。傭兵になったら、そいつらと戦って、殺さなきゃいけない。……それが、少し怖い」
たぶん、私の心にある恐怖は、少しではないんだろうけど。
ずっと黙ったままだったフランカが、静かに口を開いた。
「そうお思いになるのはきっと、この国が比較的平和だからでしょう。正直なところ、私も実感がありませんでした。ファミリアが、人類の敵だということに」
……そっか。なんかしっくり来ないと思ってたけど、そうか、実感が無かったんだ。
「けれど、今もどこかで、ファミリアは人間を殺している。それは事実です。私たちは、戦わなければならないんですよ、ティナさん。ファミリアに対して、殺したいほどの恨みや憎しみを抱いていなくても、戦って、殺さなければならないんです。それが、傭兵を目指す者の、最低限の覚悟だと私は考えています」
「フランカさん……」
なんだか、フランカがとても大人に見えた。いや、自分が未熟過ぎるのか。
私は、フランカが今言ったような覚悟を、ちゃんと抱いていただろうか。
……いや、抱いていない。そう断言できてしまうのが、たまらなく情けなかった。
そんな私の手に、フランカの温かい手がそっと触れる。
「ティナさん。お互い、頑張りましょう。今日をまた一つの区切りとして、新しい一歩を踏み出すのです」
微笑むフランカの瞳には、力強い炎が宿っているように見えた。
私も、自然と笑みを浮かべ、「うん」と頷く。
「今日の戦いは、私たちにとっては大切な経験となりました。ファミリアを、斬れたんですから。……何度か、戻してしまいましたけどね」
「うん。まぁ、いろいろと強烈だったからね。私も、危なかった」
そして、私たちは声を出して笑い合う。
「……明後日、いよいよ最後の試験だね」
私の呟きに、フランカは「そうですね」と頷く。
「今日戦ったのよりも、強いファミリアと戦うことになると思う」
フランカは「はい」ともう一度頷き、言葉を続ける。
「でも、もう大丈夫ですよ。次は、最初から最後まで、しっかりと戦うことができます。ティナさんも、そうでしょう?」
瞳を輝かせるフランカに対し、私は「もちろん」と返す。
「しっかり戦って、必ず合格するんだ。一緒に傭兵になろうね、フランカさん」
「ええ。頑張りましょう、ティナさん」
そうだ。私は、戦える。ファミリアを斬れる。もう躊躇わない。もう迷わない。
そして、次こそは絶対、最後まで自分の足で立っていよう。
私はそう、心に誓った。




