22-1
(!)
気が付けば、私は真っ暗な空間に佇んでいた。
(ここは、どこ……?)
自分の声が、どこか遠くで響いている。そんな違和感を覚えながら、私はその闇の中を進む。
一体、ここはどこなの?
……あれ? 私、何してたんだっけ。何か、大切なことを忘れているような……。
自分の足を見下ろす。私の足は、闇の上を歩いている。なぜか、裸足で。
だけど、その足裏には、何も伝わってこない。そこにあると思しき床の感触も、温度も。
次第に、実は前に進んでいないんじゃないかという錯覚に陥り始める。
私は、この真っ暗闇の中、ただ足を前後に動かしているだけなんじゃあ……。
(! なに?)
突如、何かにぶつかった。固くもなく、柔らかくもない何かに。……壁?
(……?)
見上げても、そこにあるのは黒一色。
が、直後、その黒がパッと白に変わる。
(なんなの……?)
私は、真っ白な空間に佇んでいる。
辺りを見回し、そして、再び歩を進めようと前を向いたその時、私の心臓が跳ね上がった。
(あ、あ……)
何も無かったはずの真っ白な空間に、巨大な文字の羅列が浮かんでいた。
それは、……順位表。
そして私の目は、すでに自分の名前を見つけていた。
(……じゅ、18位? ……う、うああ)
頭を抱え、それから自分の腕で自分を抱き締め、よろよろと後退する。
足がおぼつかず、後ろに倒れて尻餅をつく。
身体の震えは、どれだけ抱き締めても止まらない。
(じゅ、……18位じゃ、駄目。駄目なの!)
張り上げたはずの声は、小さく遠く、響くばかり。
目は、「18」という数字に固定されて、外せない。
(うう……)
涙が、こぼれる。
(うぅっ、うぁ、うああああああああああああああああ――)
「――ああああああああっ!」
バチッと目が覚めると同時に、勢いよく上体を起こす。
「ティナさん!」
激しく波打つ鼓動。びっくりするほど息は荒くなっていて、激しく肩が上下する。
「…………?」
顔を上げると、額からだらだらと生暖かいものが顔を伝っていく。
「どうしたんですか? 大丈夫ですか? ティナさん!」
「……え?」
顔をわずかに横に向けると、私を心配そうに覗き込んでいるフランカの顔を見つけた。
その後ろに、イライザとマリサもいる。
呼吸を整えながら、辺りを見渡す。
そこは、見慣れた宿舎の室内だった。どうやら、私はベッドに寝かされていたようだ。
二段ベッドの下、……ってことは、フランカのベッドか。
じょじょに、意識が鮮明になっていく。
呼吸も鼓動も落ち着いてきて、そうしてようやく、夢にうなされていたのだと思い至る。
「ひどい汗。じっとしていて下さい」
そう言うと、フランカは服のポケットからハンカチを取り出し、未だに流れ続ける顔の汗を拭いてくれた。
「急に大声出すから、びっくりしたぜ」
腰に手を当てたイライザが、ホッとするように息を吐く。
「悪い夢でも、見たの?」
フランカの横にしゃがみ、マリサが問いかけてくる。
悪い夢……?
……うん。とんでもない悪夢だったような気がする。
でも、よく覚えてない。
「……うん。なんかすごくイヤな夢だった、気がする。……もう、あんまり覚えてないけどね」
とんでもない悪夢を見ていたはずなのに、なぜ覚えていないんだろう。
「具合、悪いんじゃないですか? 顔色も優れませんし。まだ寝ていた方がいいですよ」
そう言って、私の身体を寝かせようとするフランカ。
そこであることに思い至り、私の身体に触れるフランカの手を握る。
「ティナさん?」
すぐ近くにあるフランカの顔。その綺麗な瞳を、じっと見つめる。
「おいおい。なにいい雰囲気で見つめ合ってんだよ」
私が口を開くより先に、イライザが笑い混じりにそう言った。
「――なっ、ななっ、なに言ってんの、イライザさん!」
フランカの手をパッと放して、慌てて言い返す。
「へへっ、冗談だって。そんなムキになんなよ」
そう言って、向かいのベッドの縁に腰を下ろすイライザ。
私は「もう……」と漏らし、もう一度フランカを見つめる。
「ねぇ、フランカさん。どうして、リュシーさんと組むなんて言ったの? もしかして、始まる前から決めてたの?」
ずっと聞きたかったことだ。
フランカの私に対する態度は、試験前と全く変わっていない。まるで、何も無かったかのように。
すると、フランカの横にいたマリサが、ずいっと私の方へ身体を乗り出してきた。
「ごめんなさい、ティナさん。あれは、私が言い出したことがきっかけなの」
「? ……どういうこと?」
マリサの言葉が、きっかけ? フランカとリュシーが組んだことの?
一体、誰に何を言ったというのか。
「一昨日の試験の後。ティナさんが眠っている間の話なんだけど、私は、テッサとリュシーにあることを話した。それは、今日の試験のこと」
私は、黙ってマリサの話に耳を傾ける。
「最終試験2日目の試験で、2人組を作ってファミリアを戦うということは知っていた。もちろん、テッサたちも。彼女たちに、誰と組むか聞いたら、予想通り、2人で組むと答えた。だから、私はある提案をしたの」
フランカとイライザは、もうその話を聞いたのか、それとももっと前から知っていたのか、口を挟む様子はない。
「たまには、慣れない人と組んでみたら、って、言ってみたの。そうしたら……」
「リュシーさんが、フランカさんと組むって話になったってこと?」
マリサの言葉を遮って聞くと、彼女はコクリと頷く。
……どういう意図があったんだろう。私は、詳しく聞いてみることにした。




