21-4
「では、第二陣、放て!」
一度閉じられた大きな格子戸が、再び開かれる。そして飛び出すファミリアの群れ。
さっき見たのと、全く変わらない光景だ。
第一陣ではおよそ400体。そして、この第二陣で残りのおよそ600体が放たれるらしい。
つまり、さっきよりも苛烈な攻撃、激闘が予測される。
私は大きく深呼吸をして、静かに剣を構えた。
「さっきとは顔つきが違いますね。ようやく、やる気が出てきましたか?」
テッサの言葉にも、心は全く動じない。
「おかげさまでね」
笑ってそう返してやると、テッサは楽しそうに笑い声だけを漏らした。
「んじゃ、2人で協力して倒しまくりますか」
「うん。行こう、テッサさん」
そうして、顔を少しだけ動かして目を合わせ、笑い合う私たち。
「はじめっ!」
試験官の声と同時に、誰よりも速く駆け出す。
「ファミリアの種類は覚えた?」
走りながら、テッサが聞いてくる。
「うん、大体。それがどうしたの?」
「止まらずに倒しまくるには、視界を遮られることを避けなきゃいけない。ただ真正面から斬りまくるだけじゃあ、血やらなんやらを被っちゃうでしょ?」
なるほど、言いたいことはわかった。
試験が始まる前に、試験官が言ってたことだ。
「つまり、種類によって戦い方を考えろってことね」
「そういうこと!」
走る速度を上げる私たちの前に、ファミリアたちが迫る。
私たちが向かう先、その先頭にいるのは、あの、丸い身体に一つ目と翼を持つファミリア。こいつの身体を斬れば、大量の血が噴き出す。
「……」
私はテッサに目配せをし、頷き合う。そして剣を振り上げ、素早く振り下ろす。
直後、ズパッと斬れたのは、一つ目ファミリアの両翼。翼を失い、血の線を引きながら地面に落下したそいつを、テッサが踏み潰す。
ぶちゃっと、まるで水の入った風船のように中身をぶちまけたそいつは、痙攣し、絶命した。
「さぁ、次いきますよ!」
テッサの言葉とほぼ同時に、私たちはファミリアの群れに取り込まれる。
前も後ろも、上も下も、どこを見ても醜い化け物共の顔、顔、顔。
それらは全て、私たち受験者を1人残らず殺そうと、様々な形の瞳を輝かせている。本能に、突き動かされている。
あまりに異様な光景に、心が揺れる。
だけど、隣を駆けるテッサは、すでに攻撃動作に入っている。だから、怯んでなんていられないんだ!
一斉に飛びかかってくるファミリアたちの動きに、全神経を集中させる。
「せーのっ!」
声を合わせ、攻撃開始。
突き出される手やら足やらの動きを瞬時に見切り、できる限り出血の少ない方法で敵を弱らせ、一体ずつ確実に仕留めていく。
あるファミリアは、両腕を斬り飛ばした後に、血飛沫をかいくぐりながら2人、すれ違いざまに左右一本ずつ脚も切断。地に伏したところで、上から急所を狙い、殺す。
またあるファミリアは、横薙ぎの一撃を浅く食らわせて両の眼球を潰した後、よろめいたところを一方が蹴り飛ばし、もう一方が駆け抜けながらその身を両断する。
噴き出し、舞い上がる鮮血の華は後方に咲き、私たちにはその花弁すら届かない。
四足歩行のファミリアが、その大きな口を開いて飛びかかってくれば、2人でひょいっと左右に躱し、その時にはすでに構えている剣を振り下ろし、そいつの胴を三つに捌く。
根っこのような複数の足で近付き、体液やツタで攻撃してくるファミリアは、一方がツタを斬り裂き攻撃手段を減らしたところで、もう一方がそいつの頭のてっぺんから剣をめり込ませ、急所を破壊する。
大きな甲虫のようなファミリアは、飛んできたところを剣ではたき落とし、動かなくなるまで踏みつける。
素早い動きで翻弄しようと飛び回る鳥型のファミリアは、近付いてきたところに攻撃を合わせ、その鋭いクチバシごと真っ二つにしたり、体当たりを体勢低く躱すのと同時に剣を突き出し、下から串刺しにしたりして倒す。
とにかく、スピードを落とさずに多くのファミリアを屠るには、視界が重要だ。
けれど、どれだけ気をつけて敵を殺しても、予想外の動きで噴出する鮮血が顔にかかったりはする。
奴らの体液は、その種類によって色や粘度が異なる。
人間に有害なものもあるようだけど、試験用に用意されたこいつらの中には、さすがに有毒な体液を持つものはいないようだ。
ただ、顔などの皮膚に付着したら、簡単には拭えないものや、瞬時にべったりとくっついて固まり始めるものもある。それが厄介だった。
巻き上がる鮮血によって、その場は赤や紫に染まっている。
降り注ぐ血や脂、臓物や肉片の雨の中を、受験者たちは行き交い、1体、また1体と、ファミリアの数を減らしていく。
600体ほどいたはずのファミリアは、気付けば100体もいないくらいの規模になっていた。
それでも、奴らは前進を、攻撃を、やめたりはしない。ただ無心に、受験者らを襲い続けていた。
ここまで減ったら、もう戦術なんて必要ない。残っている奴らを、誰よりも先に叩き斬るだけだ。
すでに、頭の上から足の先までファミリアの体液などでぐちゃぐちゃで、息もかなり上がっている。
テッサはまだ平気そうな顔でいるけど、確実にその動きは鈍くなっていた。
それでも、私たちは、まだ残っているファミリアのもとへ競走しては、我先にと斬り殺すという行動を繰り返す。それは、ほかの受験者たちも同じだった。
皆、フラフラになりながらも、必死の形相でポイントを稼ごうと動き回る。
顔にかかった体液や脂の生臭さが、嗅覚を支配している。髪も服も、血で染め上げられ、皮膚にパリパリと貼り付いているのが非常に不愉快だ。
剣は、刀身も柄も、元の姿がわからないほど赤黒く染まり、切れ味が悪くなっている。
靴の中に入った血が、歩を進めるたびにじゃぶじゃぶと不快な音を立てて溢れる。
地面には、血と肉の絨毯が敷かれ、ツルッと足を取られそうになる。
もうイヤだ、もうイヤだと、自分の声が脳裏で生まれ、こだましている。
ああ、もう駄目だ。また、倒れる……。もう、体力が……。
「そこまでっ!」
試験官の声が、薄れゆく意識の隅っこに響く。と同時に、私は何か柔らかいものにぶつかった。……いや、受け止められたんだ。
「……?」
残った力を振り絞って顔を上げた私の目に映るのは、マリサの穏やかな表情。
身体をそっと包み込む彼女の温かさに安心したのか、急激に全身の力が抜けていき、意識が、すーっと心地よく薄れていった。




