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最終試験2日目。
受験者たちは身支度を整え、一昨日ゴーレムと戦った施設に集合した。
「今日も、頑張りましょうね。ティナさん!」
「う、うん」
フランカは、いつも通りだ。いつも通りの穏やかな笑みと、丁寧な口調。昨日の食堂に現れた、あの子はどこにもいない。
リュシーに、荒っぽい口調で喧嘩を売ったあの子は。
未だに、あれがフランカだとは信じられない。あんなの、レオーネが見たら卒倒するよ。
私だって、結構ショックだったし。
あの目、あの顔、あの言葉遣い。どれをとっても、私の知ってるフランカじゃなかった。
「……」
まさか、フランカってキレるとすっごい怖いんじゃあ……。あ、そういえば、レオーネには結構キツめに当たってたっけ。う~ん……。
「どうかされました? ティナさん」
「!」
気づけば、目と鼻の先にフランカの不思議そうな顔が。
私は驚いて、「なっななな、なんでもないよぉ」と、ぶんぶん首と手を振って見せた。
それを見たフランカは、「そうですかぁ?」と訝しげに首を傾げたけど、すぐに表情を戻して別の話を始める。
「地面、きれいになってますね」
「ん? ……ああ、そういえば」
最終試験の舞台たる広大な草原は、一昨日の試験でゴーレムの死体まみれになり、でこぼこの泥まみれになっていたはず。
だけど、もうそれらはすっかり掃除され、ところどころ緑は失われているものの、きれいにならされていた。
協会員たちが、一生懸命きれいにしたんだろう。
「おーい、集合だー! 今日の試験の説明をするぞー!」
草原をぐるりと見回していると、試験官のよく通る声が耳朶を打った。
「行きましょ。ティナさん」
「うん」
私たちは、早歩きで試験官のもとへ向かった。
今日の試験の説明をしている試験官は、一昨日の試験官とは違う人だ。
1日ずつ、担当が違うのかな。まぁ、それはさておき。
「今日の君たちの相手は、Eランク傭兵が仕事で戦うレベルのファミリアだ。一昨日戦ったゴーレムと同程度の強さだが、今回は一種類ではない。様々な種類のファミリアたちが、群れを成して君たちを襲う」
Eランクっていうと、傭兵としては最下級。傭兵になって間もない新人が戦うようなファミリアってことか。
ゴーレムと同じくらいの強さなら、なんとかなりそうだな。
「いいか? いくら弱いファミリアだからといって、油断はするなよ。種類も複数いれば、戦い方も様々だ。対峙するファミリアに合わせて、臨機応変に戦術を考えながら戦わなくちゃならない。ちなみに、用意したファミリアは全部で10種類。1種類につきおよそ100体いるから、全部で約1000体だ。この点は、一昨日のゴーレム戦と同じだな」
その1000体のファミリアを、私たち35人の受験者が奪い合う。その辺りの説明は、1日目と同じだ。
だけど、ファミリアの種類以外にもう一つ、1日目とは異なることを、試験官が説明し始めた。
「今回は、試験を始める前に2人組を作ってもらう。仲の良い者同士でもなんでもいい。1人余ると思うから、どこか一つは3人組を作ってくれ」
2人組? なんでそんなもの……。
「最終試験では、誰かとちゃんと協力関係を築けるかどうかもチェックする。そのための組分けだ。さぁ、すぐに作ってくれ」
なるほど、協力関係か。傭兵同士協力して仕事をすることもあるみたいだし、こういうのも当然、審査の対象になるよね。
「あ、じゃあ……」
2人組を作るっていったら、やっぱりフランカとでしょ。隣を見ると、フランカはすでに私の方を見ていた。
「ティナさん。私――」
「おう、あんた。あたしと組みな!」
私がフランカに手を差し出すと同時に、その声が響く。
突如横から現れた手が、フランカの肩をがっちりと掴んで抱いた。
「えっ」
現れたのは、不敵な笑みを浮かべたリュシー。驚く私に、彼女は「いいよなぁ?」と威嚇するように声を低くする。
「……い、いいわけないでしょ? フランカさんは私と組むの! その手を離して!」
慌ててリュシーの手をフランカから引き剥がそうとするけど、「うっせぇ!」と突き飛ばされてしまう。
「誰と組もうが自由なはずだぜ? あんたは別の奴と組んどけや」
「どうしてフランカさんなの? あなたには、テッサさんがいるでしょ!」
するとリュシーは、「へっ」と笑って、詰め寄ってくる。
「だったらあんたが、テッサと組めよ。ほれ」
「痛っ」
またしても突き飛ばされる。が、私の身体はすぐに受け止められた。振り返ると、そこにいたのはテッサ。
「そいつが、あんたと組みたいってよ、テッサ」
にやにやしながら言うリュシーに、私は「そんなこと言ってない!」と苛立つ。
「……フランカさんだって、そんな奴なんかと組みたくないでしょ?」
そうだ。まだ、フランカの意思を聞いてない。
リュシーは、「ひでぇ言われようだぜ」と笑みを深くする。
その横で、しかし、そういえばさっきから、彼女は一言も言葉を発していない。
なんで?
「フランカさん?」
「ごめんなさい、ティナさん」
「え……?」
戸惑いながらも何かを決意した。そんな真剣な瞳で、フランカは私を見ている。
「私は、リュシーさんと組みます」
「そんな……!」
リュシーが、「だってよ!」と楽しそうに笑う。
「どうして? どうしてなの、フランカさん!」
手を伸ばす私に、しかしフランカは、冷たいとさえ言える瞳を向けるばかりだ。
「私、まだパートナーが決まってないの。私と組みましょう、ティナさん」
そんなテッサの言葉も、耳に入るばかりで意識には届かない。
結局、フランカは一言も喋ることなく、リュシーと共に私に背を向け、離れていった。




