21-2
……なんなの? なんか、すっごい腹立ってきた。
どうして、私じゃなくて、あんな会ってまだ何日も経ってないような不良女と組んだりするわけ? 意味わかんない!
私の苛立ちは、リュシーだけでなく、フランカにも及びつつあった。
だってさ、おかしくない? 今まで、どれだけ2人で頑張ってきたと思ってんの?
普通さぁ、あいつの手をパッと振り払って私を選ぶでしょ?
ホント、なんなの?
組分けも終わり、試験官の指示に従って一組ずつ距離を取って立つ受験者たちの中、私は、リュシーと何やら話しているフランカの背中を睨みつけていた。
私とテッサがいる場所から、そう遠くない距離だけど、何を話しているのかはわからない。
「では、そろそろファミリアを解放する。剣を抜いて待機!」
試験官の声に従い、剣を抜いて構える。
……もういい。とにかく、今は目の前の試験に集中しなくちゃ。
「ティナさん」
「えっ、な、何? テッサさん」
隣に立っていたテッサが、突然声をかけてきた。
「あなた、ファミリアを殺したことはある? 訓練施設にいるようなのや、一昨日のゴーレムみたいな奴じゃなく、ちゃんと血が通っているファミリアを」
「血……?」
テッサの静かな瞳に、私はゾッとした。
そして、さらにゾッとすることに思い至る。
「理解できたみたいですね。そう。ファミリアだって生き物。斬れば、血が噴き出ます」
「……」
脳裏に、あの時の光景がよみがえる。
傭兵を目指して訓練を始めて2ヶ月くらい経った頃、モンテスにファミリアが侵入してきた。
私は、その中の一体を、ほとんど無意識ながらも、倒したんだ。
血の海に横たわる、ファミリアの死体。
その血の色、量、臭い、今でも鮮明に思い出せる。
そして、死んだファミリアのあの顔も……。
「きっと、ここに残っている中には、あなたと同じように、血の通ったファミリアとの戦闘経験が無いって人もいるでしょう。オルトリンデは、ヘルムヴィーゲと違って平和みたいだから」
そう皮肉混じりに言いながら、テッサは私の前に回り込み、顔を近付けてくる。
その顔にあるのは、あの悪質な笑み。
二次試験で戦った時に見せた、あの見下すような冷たい微笑だ。
「チャンスですよ、ティナさん。ほかの人らが戸惑ってるうちに、ファミリアをどんどんぶっ殺して、ポイントを稼ぐんです。ここで合格圏内に入っておかないと、あなた、ヤバいんじゃないですか? そうでしょ?」
……リュシーよりも言葉遣いはまともだけど、やっぱり双子だね。
なんか狂気じみてるわ、この子も。
「それとも、逃げますか? でも、逃げたら不合格になっちゃいますよね」
「私は逃げないし、そんなことわかってるよ」
テッサの目をキッと真っ直ぐ見て、強い口調で言い放つ。
するとテッサは、「へぇ……」と楽しげに口の端を歪めた後、私の隣にゆっくりと戻った。
「まぁ、今回は2人で協力して戦わなくちゃいけないみたいなんで、よろしくお願いしますね。意気込むだけなら、誰にだってできますから」
わかってるっつーの!
あー、もうっ! ムカムカすることばっかだなぁ!
「ファミリア、解放!」
試験官の声に答えるように、遠くに見える壁、そこにある格子戸が開かれていく。
直後、まだこれだけ離れているのにもかかわらず、異形の者たちの耳障りな鳴き声が重なり合い、一つの轟音となって私たちのもとへ届いた。
そして現れる、ファミリアたち。勢いよく駆け出すファミリアたちのせいで、もうもうと土煙が舞い上がる。まるで、煙の塊が近付いてきているようだ。
……あれだけの数のファミリアを、協会はどのように管理していたのだろうか。
「来ますよ。期待してますからね、ティナさん」
テッサの言葉には応じず、私は前方から迫り来るファミリアの群れに意識を集中する。
ファミリアが生き物かどうかなんて関係ない。
傭兵になったら、イヤでも戦わなくちゃいけない相手なんだ。人類の敵なんだ。
血が怖くて斬れないなんて、言ってられない。
剣を握る手に、ぐっと力が入る。
やってやる。斬ってやるよ。見てなさいよ、テッサ!
「はじめっ!」
合図と共に、我先にと駆け出す受験者たち。私とテッサも、同じ速度で走る。
少し離れた場所でリュシーと走っているフランカを一瞥し、すぐに前に向き直る。
ファミリア第一陣と、35人の受験者たちが、ぶつかり合う。
直後、その場に血風が巻き起こる。そこに一瞬どよめきが混じるけど、ファミリアたちの声が掻き消した。
「くっ……!」
突き出した切っ先は、突っ込んできた、翼のある一つ目のファミリアの胴を貫き、赤紫色の血を噴き出させる。その血液は刀身を伝い、私の手を汚し、服を汚した。
それを目にし、触れた途端、戦慄が走り抜ける。
私が刺し貫いたのは、敵だ。だけど、それと同時に、生き物を殺したという事実が私を襲う。
思わず、足が止まる。そこへ、四方からファミリアたちが襲い掛かってきた。
「何してんの!」
「! ひっ」
次の瞬間、銀光が閃き、私の顔にドバッと熱い液体が降り注ぐ。
「うぐっ!」
胸を突き飛ばされて尻餅をつくと、さらに上からバシャバシャとどろりとした液体を浴びせかけられ続けた。
「うあっ、うぇ!」
それは口の中にも入り、生臭さが鼻を抜け、吐き気を催す。
「……なっ」
さっきからかけられ続けていたそれは、赤黒い液体、血だった。
見れば、もう私の全身はその血で濡れ、染まっている。
そして、眼前で動く人影に気付いた。
「テッサさん!」
私を守るように、襲い来るファミリアたちを次々と斬り殺しているテッサの姿が、そこにあった。
「早く立って! 立って戦うんだよ! ティナさん!」
必至の形相で戦い続けながら叫ぶテッサ。私はハッとして、素早く立ち上がると、取り落としそうになっていた剣を握り直した。
「さぁ、ティナさん。もう覚悟を決めて。こいつらを、斬って斬って斬りまくるんだよ。なぁに、慣れれば楽しいよ。楽しくて、癖になっちゃう!」
そう言って再びファミリアの群れに突撃していくテッサ。
その言葉に、私は歯を食い縛り、意を決して駆け出した。




