19-1
いよいよ、今日から最終試験が始まる。
最終試験も、二次試験の時と同様、1日おきに休日が設けられている。
結果発表日と合わせて、全6日間の日程だ。
傭兵になれるかどうかが決まる日が、もうそこまで迫っている。その結果に繋がる今日からの戦い。
その戦いの前に、私たちは二次試験終了時点の順位を知ることになった。
朝食後に、各宿舎のエントランスホールに貼り出された順位表。
最終試験に残った35人の、二次試験終了時点の順位がそこに記されていた。
「やっぱマリサは1位だわな~」
そう言いながら、イライザはマリサの肩をぽんぽん叩く。
彼女の言う通り、順位表の一番上には、マリサの名前があった。
「もう合格は決まったようなもんだな」
イライザの言葉に、嫌味は含まれていない。純粋に、そう思っていることが分かる声色だ。
「……まだわからない」
しかし、マリサはそう呟いた。イライザは一瞬きょとんとし、すぐに「そーだな」と笑う。
「あたしは10位かぁ。確か、合格は上位17人だったよな。てことは、とりあえずは合格圏内ってことか……」
そう。マリサとイライザは、今の順位を維持できれば合格だ。
ちなみに、フランカは23位。私は……
「34位……」
まぁ、わかってたことだ。私は、人数合わせのために二次試験を通過したようなものなのだから。
「こりゃ頑張らなきゃなぁ、ティナ」
いつの間にか、横にイライザの眩しい笑顔があった。私はムスッとしつつ、「わかってるよ」と応じる。
「あのお二方も、順位高いですね」
フランカの声に、私は再び順位表を見上げる。
「ああ、ヴェルレ姉妹か」
イライザが、彼女らの順位を指差す。
テッサが12位で、リュシーは4位。どちらも、合格圏内。これもまぁ、わかってたことだ。
彼女らの実力は、私もよく知っている。
ちらっとマリサを見やると、彼女も順位表を見つめていた。
自分の順位を見ているのか、それともヴェルレ姉妹か、その目が何を焼き付けているのかはわからないけど、彼女の顔は真剣だった。
朝食後しばらくして、協会員たちは私たち受験者に対し、最終試験を行う施設へと移動するように指示を出した。
部屋で静かに待っていた私たちは、皆それぞれ自分の剣を持って、移動する受験者たちの集団に加わった。
最終試験も、男女別に行われる。
試験場に来た日にも見た、高い壁に囲われた施設。
二つ並んだその施設の、向かって左を男子が、右を女子が使用する。
ガラガラと分厚い両開きの扉が開かれ、私たちはその高い門をくぐって中へ足を踏み入れる。
「……」
そこに広がる光景を目にし、私は思わず足を止めた。
高い壁の中にあったのは、広大な草原。
そこにあるのは、人工的に敷かれた芝生ではなく、以前からこの場に自生していたと思しき雑草。背の高いものから低いものまで、様々な緑がその一帯を埋め尽くしている。
言ってしまえば、それはどこにでもあるような光景。
田舎出身の私にとっては、見慣れた景色でもある。
けれど、まさか試験場の中にこんな草原があるなんて思っていなかったし、こんな場所で最終試験を行うなんて、あまりに意外。
「へぇ、広くて戦いやすそうじゃん」
……でも、まぁ、確かに、イライザの言う通りだよね。狭い建物の中でやるよりは、こういった開けた場所の方が、戦うのに適しているのは間違いない。
ファミリアと戦うわけだから、それなりの場所は提供されるってことだね。
……しっかし、広いなぁ。向こうの壁が、あんなに遠くに見える。
「集合ー!」
「おい、ティナ。集まれってよ。行こうぜ」
イライザに肩を叩かれ、私は「うん」とその後に続く。
ついに、始まるんだ。最終試験が……。
最終試験初日の相手は、ゴーレムという名のファミリア。
試験官の説明によると、土や泥に核を触れさせることによって生まれるファミリアらしい。
訓練期間にバラルトの施設で何度も戦った、あのマッドマンと同じだな。
核は協会が集めさせたもので、その数は全部でおよそ1000体分。とんでもない数だ。
その1000体を、私たち35人が奪い合うようにして倒し、その数を試験官らがカウントする。
単純に、倒した数によって順位が決められるということらしい。
受験者に説明をする試験官の後ろで、後から後から試験官たちが入ってきて、並んでいく。
どうやら、受験者1人につき試験官が1人つくようだ。
……ゴーレムというファミリアが、どのくらいの強さなのかはまだわからない。
さすがに、マッドマンよりは強いと思う。でも、あいつより少し強い程度では、最終試験には使われないよね。
それなりの奴と思っておいた方がよさそうだ。
二次試験と違い、最終試験は真剣を使う。だから、うっかりほかの受験者を斬りつけないように、細心の注意を払ってくれとのこと。
だけど果たして、ファミリアとの戦闘の中で、そこまで気が回るだろうか。
「これだけ広いんだから、大丈夫ですよねぇ」
隣にいるフランカが、小声で言う。
「……そうだよね」
改めて、今自分がいる施設をぐるりと見回す。確かに、よっぽど固まって戦わない限り、そんな事故は起きそうにない。
……それでも、万が一ってことがある。気をつけよう。
一通り説明を終えると、試験官らは受験者1人1人を一定の間隔で立たせ、数人の試験官が、遠くに見える壁の方へ向かった。
剣を構えて待つ私たちの視線の先で、やがて何かが蠢き始めた。
それは、すぐに人の形をした土色の生物となり、こちらに向かって歩き出す。
何体も、何体も……。




