18-4
さて夕食の時間だと食堂へ行くと、入った途端に「よぉ!」と声を掛けられた。
私たちがいつも使っている隅っこの席にはすでに2つの人影があり、その一方が声の主だ。
「……リュシーさん」
いつもマリサが座っている席にはリュシー、その隣にはテッサがいた。
テッサはすぐに席を立ってどいてくれたけど、リュシーは偉そうに腕組みし、マリサが近づいていっても立ち上がる気配はまるで無し。
それどころか、「んだよ。言いたいことがあんならはっきり言えよ」と、マリサを挑発する始末。
どうやら仲直りはできなかったみたいだなと思っていると、マリサが無表情のまま「どいて」と呟いた。
あ~、こりゃまたリュシーが突っかかっていく展開だなと予想していたんだけど、全く正反対の予想外の展開になった。
「えっ?」
思わず、声が出る。リュシーがそれに気付いて「あん?」と睨んでくるけど、「あん?」じゃないよ。
……ど、どいたぞ? リュシーがマリサの頼みを聞いた。
そんなこと、あり得るの?
「そういや、ティナには言ってなかったな。どうやらこの2人、仲直りしたみたいだぞ」
いつも通りマリサの隣に座りながら、イライザが言う。
「えぇっ?」
と、リュシーの方を向くと、すでに彼女の顔は目の前にあった。
「おう、なんか文句あんのか、コラ」
今にも掴みかかってきそうなリュシーに向かって両手を出し、「無い無い」と首を横に振って見せる。
するとリュシーは鼻で笑い、マリサの方へ身体を向けた。
「まあ? いつまでもしょーもねぇことでいがみ合ってても、疲れるだけだかんな。ここはいっちょ休戦ってことにしてやったのさ。こいつが許してくれ~っつってよ、泣いて謝ってくるもんだからさ。ま、さすがに許してやっか、って思ったわけよ」
「泣いてたのは、あなたもでしょ」
間髪入れずに、マリサが付け足す。それは本当のようで、リュシーは「なっ……」と動揺した。
「ふぅ~ん」
ニヤリとする私を、リュシーはキッと睨めつけてくる。
「なんなら、ここ座るか? 一緒にメシ食ったらどうだ」
私の胸ぐらを掴もうと手を伸ばすリュシーに、今度はイライザがニヤニヤしながら言う。
「ふっ、ざけんな! 調子に乗りやがって!」
激高するリュシーの腕を、いつの間にか立ち上がっていたマリサがそっと掴む。
「! ……なんだよ、マリサ」
なんだこりゃ。まるで、人が変わったみたいだ。あれだけマリサを敵視していたくせに、腕を掴まれただけで大人しくなってしまうなんて。
「隣のテーブルをくっつければ、一緒に食べられる」
マリサはそれだけ言って、手を離した。そして、リュシーの目をじっと見つめる。
「……わ、わーったよ。ったく、仕方ねぇな」
ブツブツ言い続けながらも、リュシーはテッサと一緒に隣のテーブルを動かし、今日の夕食は6人で食卓を囲むことになった。イライザとテッサの計らいで、マリサとリュシーは隣同士に。
そして私たちは、その様子を眺めながら、食事を楽しむのであった。
……しかし、一体この2人はどうやって仲直りしたんだろうか。何を話し合って、ここまで関係を改善させたのだろうか。
気になるけど、そういうのって、やっぱ聞くのは野暮だよね。
「……」
でもさ、これは改善されすぎじゃないか?
夕食後しばらくして大浴場へ行くと、そこにもリュシーたちがいて、一緒に入浴することになった。
「おい、マリサ。ちょっと立てよ」
ザバッと立ち上がったリュシーが、指をちょいちょいと動かし、マリサを誘う。
マリサはおとなしくそれに従い、湯船の中、裸の少女2人が向かい合う事態に発展する。
一体なんのつもりかと思っていたら、リュシーはマリサの身体をジロジロと眺め回し始めた。
うわぁ、何してんの、この子。マリサは平気な顔をしてるけど、もし私なら耐えられないな。
同性同士っていってもさ、さすがに恥ずかしいわ。
しかもリュシーは、マリサの身体を眺め終え、ニッと笑ったではないか。うわわ……。
「別れてからも、随分鍛えてたみてぇだな。なかなかいい筋肉の付きっぷりじゃねぇか」
「あなたこそ」
そして、マリサまでもが口の端に笑みを浮かべる。
それを見て思った。ああ、私たちはもう、普通の女の子じゃないんだなと。
風呂場で筋肉の見せ合いをする女子なんて、こういう世界にしかいないでしょ。
「じゃあ、あたしはどうよ」
「ぶわっ」
私の隣にいたイライザが、楽しげに立ち上がる。その飛沫を至近距離で浴び、視界が一瞬奪われた。
「おう、ティナ。すまん」
ムスッとする私に謝った後、再度リュシーの方に向き直るイライザ。リュシーは、イライザの身体を見て、頬を歪めた。
「前から思ってたけどよ、ガタイいいな、あんた」
「だろ?」
腰に手を当て、得意げに胸を張るイライザ。
リュシーは、「別に褒めたわけじゃねぇよ、筋肉女」と言い、イライザは笑いながら「なんだとぉ~」と言いながら、お湯をすくってリュシー目がけてぶちまける。
「何しやがる!」
怒ったリュシーが反撃。掴みかかっていくかと思いきや、イライザと同じようにお湯をすくってかけまくる。
「ちょっ、やめっ、ぷはっ、……リュシぃ~!」
そこへまず、テッサが加わり、なぜかテッサに対してマリサがお湯をかけ始め、目を輝かせたフランカも参戦。
1人湯船に浸かったままだった私は、そ~っとその騒ぎから距離を取ろうとしたけど、どこからか飛んできたお湯の塊に直撃し、びっくりしてバランスを崩し、湯船に沈む。
「ぶはっ!」
慌てて立ち上がった私は、こちらを見て笑っているフランカと、口だけ笑っているマリサと目が合い、彼女らの仕業だと知る。
「やったなぁ~」
そして、結局私も加わることに。
当然、大浴場にはほかにも受験者がいたわけで、迷惑がられたのは言うまでもない。
でも、楽しかった。




