18-3
「確か君に、クレイグ・ロンベルクの若い頃に似ているって言ったんだよね、僕は」
その問いに、頷く。
するとローレンツは、笑みを深めた。
「言葉の通りだよ。そう思ったから言っただけ」
「だからぁ、どうしてあなたがお父さんの若い頃を知ってるの、って聞いてるの」
聞きたい答えを言わない彼に、苛立ちが募る。
しかし彼は、それを全く意に介した様子も無く、笑い声を漏らした。
「写真くらいさ、誰だって見るだろ?」
「……写真?」
「そう、写真。僕が塗り替えるまで、彼はずっと、AAランクへの昇格最年少記録を持っていたんだ。そしてそれ以降も、とんでもない活躍を続けていた。それだけの有名人の写真が、一枚も無いなんてことはない。当然、若い頃の写真だってある。そうだろ?」
「……」
どこかで、父の若い頃の写真を見ていたってことか。
確かに、彼の言う通りだ。父の写真は、数多くある。
父が傭兵でいた25年間分の写真は、父のことが載っている新聞や広報紙を集めていたフランカみたいな人がいるくらいだし、今もあらゆる場所に残されていることだろう。
「納得してくれた?」
首を傾げる彼に、私は「うん……」と返すしかなかった。
「まさか、そんなに気にしてるとは思わなかったよ。まぁ、妙な言い方しちゃった僕も悪いんだけどさ」
あはははと笑う彼の横顔を見て、私は少し、肩の力を抜いた。
ホッとしたっていうのかな。記憶の中に引っかかってた謎が解決できたし、それに、彼に親しみが湧いてきた。
正直、まだ彼の実力を信じたわけじゃないけど、そんなこと、どうでもよくなっちゃったな。
それからしばらく、私たちはゆっくりと歩きながら、会話を続けた。
その後、ローレンツに宿舎の近くまで送ってもらい、次の仕事の準備があるという彼とは、ここでお別れ。
「じゃあ、最終試験も頑張ってね」
「うん。ありがと」
手を振りながら歩き始めたローレンツは、しかし、「そうだ」と言って足を止めた。振り返る彼に、私は小さく首を傾げる。
「AAAランク傭兵と会ったってことは、誰にも言わないでね。騒ぎになったら困るだろ。お互いにさ」
確かに、ここにAAAランク傭兵が来たと知れば、騒ぎ出す受験者もいるだろう。そして、その傭兵と私が知り合いともなれば、面倒なことになるのは容易に想像できる。
「わかった。誰にも言わない」
そう返すと、ローレンツは「ありがと。じゃーねー」ともう一度手を振り、今度は振り返ることなく、歩き去って行った。
その背を見送ってから、私は宿舎の部屋へ急いだ。
「……?」
ドアを開けて中に入った私を見つめる、3対の瞳。うち2対は、なぜかニヤニヤしている。
「……何? どしたの、フランカさん、イライザさん」
テーブルについていたフランカとイライザは、その顔のまま、目を見合わせる。
イライザは「なぁ?」、フランカは「ねぇ?」と首を傾げて。
「なんなの? 私、なんか変?」
私もテーブルにつき、2人を問い詰める。
すると、私の向かいにいるマリサが、持っている本に視線を落としたまま、口を開いた。
「この2人が、あなたが見知らぬ男と一緒にいたと言ってる」
「なっ――」
先に帰ってて、って言ったのに。
「見てたの?」
身を乗り出して問うと、2人はコクコクと頷いて見せる。
「急に、先に帰れなんて言われたら、気になっちまうだろ。ああいうのはさ、もっとうまくやれよな」
「随分楽しげにお話されてましたね。いつの間にあんな男性とお知り合いになられたのですか? ティナさん」
イライザとフランカは、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように瞳を輝かせながら、私の反応を待っている。
「ちょ、ちょっとちょっと! 勘違いしないでよぉ!」
慌てる私に、2人は「え~?」とまるで信じていない様子。
「ほら、フランカさんには話したよね? 小試験の日にさ、汽車の中で変な男と出会ったこと」
するとフランカは、記憶をたどるように目を上向けて、「ああ、そういえば」と思い出してくれたようだ。
「さっきのは、あの人! ちょっと声を掛けに行っただけだよ」
「そうだったのですか」
納得した様子のフランカだったけど、イライザが「それにしちゃあ、随分話し込んでたんだな」なんて余計なことを言うもんだから、フランカも「ですよねぇ」と同意して、元通り。
「あ~っ、もう! だから違うってぇ!」
声を張り上げると、イライザが「わかったわかった」と笑いながらなだめるように言う。
「じゃあさ、聞かせてくれよ。その、汽車で会った男の話」
イライザはともかく、マリサまでもが、本をそっと閉じて私の話を待っている。
私は口を尖らせ、「わかったよ」と椅子に座り直し、彼のことを話して聞かせた。
もちろん、彼がAAAランクの傭兵であることは伏せて。
事情を話し、どうにか誤解は解けたようだけど、今度は、私の父の写真を持ってるだかなんだかで、フランカとマリサが盛り上がり始めてしまった。
……あれ? なんか忘れてるような気がする。
あ、そうだ。マリサとリュシーの件はどうなったんだ?
フランカとイライザは、彼女から昨日のことを聞き出せたんだろうか。
「……」
ちらっとマリサを一瞥し、私は小さくため息をついた。
まぁいいや。後で聞こう。




