19-2
ぐねぐねと鈍く蠢き、両の腕を伸ばして攻撃してくるマッドマンを思い出す。
今、あいつに似たファミリアの大群が、私たちに迫ってきていた。
マッドマンと決定的に異なるのは、足があること。
ゴーレムたちは、自身の足で、のしのしとこちらに向かってくる。
かなりの数だけど、1000体もいるようには見えない。
一気に全部出すのではなくて、状況を見て追加していくってことかな。
近づいてくるにつれ、その全貌が明らかになる。
マッドマンと似ているのは、身体の色と、気味の悪い頭部だけ。
その身体はやや角張っていて、硬そうだ。マッドマンは常にぐにゃぐにゃしていたけど、こいつはしっかりしている。
身長は、……それほど高くなさそう。
私よりは大きそうだけど、父よりは小さいんじゃないかな。なんだか、大きな泥人形の中に人間が入って動かしているみたいだ。
だけど、人間ではありえないその長い腕が、こいつらが化け物であることを物語っている。
やや前傾姿勢でいるせいか、もうちょっとで腕が地面をこすりそうだ。
「さぁ、剣を構えて!」
試験官の1人が、声を張り上げる。受験者らは、一斉に剣を構え、表情を引き締めた。
私も剣を構え、大きく深呼吸。
ゴーレムたちの重々しい足音が幾重にも重なり、轟音と化す。次第に近づいてくるそれは、聴覚の全てを支配していく。
「はじめっ!」
その轟音の中、試験官の声が負けじと響く。と同時に、一斉に飛び出す受験者たち。
私も駆け出す。私たちのすぐ後を、試験官らが続く。
「!」
ゴーレムたちを目の前にして、私は視界の隅に何かを捉えた。
あれは、……マリサ?
受験者らは、私も含めて全員が、前進を続けるゴーレムの群れに向かって走っている。
その中で、抜きん出て速いのがマリサだ。横に剣を構え、やや体勢低く走っている。
でもそれは、ほかの受験者たちもほぼ同じ。なのに、どうしてあんなに速いのか。
「……」
少しスピードを落としてマリサの様子を眺めていた私の中で、突如として沸き上がってくる、熱い感情。
それは、負けたくないという対抗心。
剣を握る手にぎゅっと力が増し、次の瞬間前に踏み出した足を軸にして、方向転換。
「ティナさん!」
背中にフランカの声が当たるけど、私は足も止めないし、スピードも落とさない。ただ一直線に、マリサがいる方へ駆ける。
自分でも、どうして彼女の近くへ行こうとしているのか、わかってない。
ただ自然に、身体が動いただけ。そうとしか言いようがなかった。
まずマリサが、ゴーレムの群れの中へ突入。直後、大きな土くれが弾け飛ぶ。
あれは、……ゴーレムの頭か。
そしてそれからやや遅れて、ほかの受験者らもゴーレムとの戦闘を開始した。私も、マリサを追ってその中へ。
早速、前方から長く太い腕を振り上げて、1体のゴーレムが突進してきた。
そいつは私に狙いを定め、腕を振り下ろしてくる。速い、――けど、対応できないほどではなかった。
瞬時にスピードを上げて、前へ跳ぶように腕の一撃をくぐり抜けると、着地した足を軸に身体を捻り、横薙ぎにした剣でそいつの首を一閃。
刀身は多少の抵抗を感じつつも深々と潜り込み、案外あっさりと反対側へ抜けた。
予想よりも、だいぶ柔らかいな。所詮は土か。
移動や攻撃の速度、そして防御力から考えると、そこまで苦戦するような相手ではないようだ。心に、余裕が生まれる。だけど、侮ってはいけない。
こいつらの動きは鈍いけど、あの攻撃をまともに食らえば危ない。加えてこの数。
常に、周囲の状況を把握しておかなくちゃね。
その後も、向かってくるゴーレムたちを落ち着いて倒しながら、マリサの姿を探す。
ゴーレムの群れに突っ込んでいって以降、彼女の姿をまだ見つけていない。
横手から肉薄してきたゴーレムを軽くステップして躱し、後ろから首をはねる。
さらに左右からほぼ同時に突撃してきた2体には、ギリギリまで棒立ちのまま攻撃を誘い、タイミングを見計らって後ろへ跳び、殴り合いをさせる。
そうして動きが停滞したところを攻撃し、首を落としてやった。
もう、どれだけの数を倒しただろう。
ゴーレムは次から次へと襲ってくるため、数えるのを早々に諦めていた。
まぁ、その点は大丈夫だろう。ちょっと首を巡らせるだけで、受験者たちの戦いを眺めている試験官たちの姿が目に入る。彼らが、ちゃんと数えてくれているはずだ。
ゴーレムは当然、受験者だけでなく試験官に向かっていくこともある。
そんな時、試験官は決して手を出さない。
ひょいひょい躱しつつ、受験者がいる方へうまいこと誘導していくんだ。慣れたもんだなと関心する。
「おっと」
無駄な思考を巡らせていた私の前で、3体のゴーレムがほぼ同時に攻撃動作に入る。
繰り出される3つの拳の動きを読み、全てをかいくぐった後、まず真ん中にいるゴーレムの首を正面から狙う。
首に剣を突き刺し、そのまま横へ。
ぐにゃりとそいつの首が傾くけど、まだ半分ほど繋がったまま。しかも、左右のゴーレムは再び私に向けて拳を繰りだそうとしている。
「よっ!」
私は体勢を低くし、首が傾いたゴーレムの両足を斬る。
ぐらりと倒れゆくそいつを蹴りつつ飛び越えた直後、身体の後ろをほか2体の拳が通り抜ける風と衝撃を感じた。振り返った時、すでにそいつらは拳を戻し、身体をこちらに向けている。
確かに、マッドマンなんかよりは数倍強い。
だけど、それでも、私はこいつらから一撃も食らわないという自信があった。
今度は、前、そして左右から2体ずつ、計6体が迫り来る。
示し合わせるような知能は無いんだろうけど、そいつらの攻撃は、うまいこと時間差がついていた。
私は、6体のゴーレムの中心で、まるで舞うようにそれら全ての攻撃を躱し続けた。
どれだけ訓練したと思ってんだ!
ただ躱すだけじゃない。一発でも当たれば危険であろうその拳を、私はスレスレのところで躱しつつ、腕を斬り落としていく。
マッドマンのように、すぐに斬られた腕や地面から土を取り込んで再生してしまうけど、次の攻撃までの間隔はかなり開く。それだけあれば、充分だ。
6体全ての片腕を斬り落とした直後、時計回りに1体ずつ、首をはね飛ばしていく。
私が次の標的に向かって動き出せば、背後で倒した標的が崩れていく音があがる。それの繰り返しだ。
そして、私はついにその姿を見つける。
まだ随分距離はあるけど、向かう先で次々にゴーレムたちが崩れていくのが見える。
その中心に、……いた。マリサだ。
私は、群がってくるゴーレムを倒しながら、彼女に接近していった。




