↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第19話「最終試験開始」
PR
75/106

19-2

 ぐねぐねと鈍く蠢き、両の腕を伸ばして攻撃してくるマッドマンを思い出す。

 今、あいつに似たファミリアの大群が、私たちに迫ってきていた。


 マッドマンと決定的に異なるのは、足があること。

 ゴーレムたちは、自身の足で、のしのしとこちらに向かってくる。


 かなりの数だけど、1000体もいるようには見えない。

 一気に全部出すのではなくて、状況を見て追加していくってことかな。


 近づいてくるにつれ、その全貌が明らかになる。


 マッドマンと似ているのは、身体の色と、気味の悪い頭部だけ。

 その身体はやや角張っていて、硬そうだ。マッドマンは常にぐにゃぐにゃしていたけど、こいつはしっかりしている。


 身長は、……それほど高くなさそう。

 私よりは大きそうだけど、父よりは小さいんじゃないかな。なんだか、大きな泥人形の中に人間が入って動かしているみたいだ。


 だけど、人間ではありえないその長い腕が、こいつらが化け物であることを物語っている。

 やや前傾姿勢でいるせいか、もうちょっとで腕が地面をこすりそうだ。


「さぁ、剣を構えて!」

 試験官の1人が、声を張り上げる。受験者らは、一斉に剣を構え、表情を引き締めた。


 私も剣を構え、大きく深呼吸。


 ゴーレムたちの重々しい足音が幾重にも重なり、轟音と化す。次第に近づいてくるそれは、聴覚の全てを支配していく。


「はじめっ!」

 その轟音の中、試験官の声が負けじと響く。と同時に、一斉に飛び出す受験者たち。


 私も駆け出す。私たちのすぐ後を、試験官らが続く。


「!」

 ゴーレムたちを目の前にして、私は視界の隅に何かを捉えた。


 あれは、……マリサ?


 受験者らは、私も含めて全員が、前進を続けるゴーレムの群れに向かって走っている。

 その中で、抜きん出て速いのがマリサだ。横に剣を構え、やや体勢低く走っている。

 でもそれは、ほかの受験者たちもほぼ同じ。なのに、どうしてあんなに速いのか。


「……」

 少しスピードを落としてマリサの様子を眺めていた私の中で、突如として沸き上がってくる、熱い感情。


 それは、負けたくないという対抗心。

 剣を握る手にぎゅっと力が増し、次の瞬間前に踏み出した足を軸にして、方向転換。


「ティナさん!」

 背中にフランカの声が当たるけど、私は足も止めないし、スピードも落とさない。ただ一直線に、マリサがいる方へ駆ける。


 自分でも、どうして彼女の近くへ行こうとしているのか、わかってない。

 ただ自然に、身体が動いただけ。そうとしか言いようがなかった。




 まずマリサが、ゴーレムの群れの中へ突入。直後、大きな土くれが弾け飛ぶ。

 あれは、……ゴーレムの頭か。

 そしてそれからやや遅れて、ほかの受験者らもゴーレムとの戦闘を開始した。私も、マリサを追ってその中へ。


 早速、前方から長く太い腕を振り上げて、1体のゴーレムが突進してきた。

 そいつは私に狙いを定め、腕を振り下ろしてくる。速い、――けど、対応できないほどではなかった。


 瞬時にスピードを上げて、前へ跳ぶように腕の一撃をくぐり抜けると、着地した足を軸に身体を捻り、横薙ぎにした剣でそいつの首を一閃。

 刀身は多少の抵抗を感じつつも深々と潜り込み、案外あっさりと反対側へ抜けた。


 予想よりも、だいぶ柔らかいな。所詮は土か。


 移動や攻撃の速度、そして防御力から考えると、そこまで苦戦するような相手ではないようだ。心に、余裕が生まれる。だけど、侮ってはいけない。

 こいつらの動きは鈍いけど、あの攻撃をまともに食らえば危ない。加えてこの数。

 常に、周囲の状況を把握しておかなくちゃね。




 その後も、向かってくるゴーレムたちを落ち着いて倒しながら、マリサの姿を探す。

 ゴーレムの群れに突っ込んでいって以降、彼女の姿をまだ見つけていない。


 横手から肉薄してきたゴーレムを軽くステップして躱し、後ろから首をはねる。

 さらに左右からほぼ同時に突撃してきた2体には、ギリギリまで棒立ちのまま攻撃を誘い、タイミングを見計らって後ろへ跳び、殴り合いをさせる。

 そうして動きが停滞したところを攻撃し、首を落としてやった。


 もう、どれだけの数を倒しただろう。

 ゴーレムは次から次へと襲ってくるため、数えるのを早々に諦めていた。

 まぁ、その点は大丈夫だろう。ちょっと首を巡らせるだけで、受験者たちの戦いを眺めている試験官たちの姿が目に入る。彼らが、ちゃんと数えてくれているはずだ。


 ゴーレムは当然、受験者だけでなく試験官に向かっていくこともある。

 そんな時、試験官は決して手を出さない。

 ひょいひょい躱しつつ、受験者がいる方へうまいこと誘導していくんだ。慣れたもんだなと関心する。


「おっと」

 無駄な思考を巡らせていた私の前で、3体のゴーレムがほぼ同時に攻撃動作に入る。


 繰り出される3つの拳の動きを読み、全てをかいくぐった後、まず真ん中にいるゴーレムの首を正面から狙う。

 首に剣を突き刺し、そのまま横へ。

 ぐにゃりとそいつの首が傾くけど、まだ半分ほど繋がったまま。しかも、左右のゴーレムは再び私に向けて拳を繰りだそうとしている。


「よっ!」

 私は体勢を低くし、首が傾いたゴーレムの両足を斬る。


 ぐらりと倒れゆくそいつを蹴りつつ飛び越えた直後、身体の後ろをほか2体の拳が通り抜ける風と衝撃を感じた。振り返った時、すでにそいつらは拳を戻し、身体をこちらに向けている。

 確かに、マッドマンなんかよりは数倍強い。


 だけど、それでも、私はこいつらから一撃も食らわないという自信があった。


 今度は、前、そして左右から2体ずつ、計6体が迫り来る。

 示し合わせるような知能は無いんだろうけど、そいつらの攻撃は、うまいこと時間差がついていた。

 私は、6体のゴーレムの中心で、まるで舞うようにそれら全ての攻撃を躱し続けた。


 どれだけ訓練したと思ってんだ!


 ただ躱すだけじゃない。一発でも当たれば危険であろうその拳を、私はスレスレのところで躱しつつ、腕を斬り落としていく。

 マッドマンのように、すぐに斬られた腕や地面から土を取り込んで再生してしまうけど、次の攻撃までの間隔はかなり開く。それだけあれば、充分だ。


 6体全ての片腕を斬り落とした直後、時計回りに1体ずつ、首をはね飛ばしていく。

 私が次の標的に向かって動き出せば、背後で倒した標的が崩れていく音があがる。それの繰り返しだ。




 そして、私はついにその姿を見つける。


 まだ随分距離はあるけど、向かう先で次々にゴーレムたちが崩れていくのが見える。

 その中心に、……いた。マリサだ。


 私は、群がってくるゴーレムを倒しながら、彼女に接近していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。