16-1
協会員が放った言葉は、私から血の気を奪った。
「まず、5敗以下の者は、おめでとう。二次試験通過だ。最終試験も、この調子で頑張ってほしい」
急激に全身の力が抜けて、立っていられなくなった。
「わわっ、ティナさん?」
ふらっとなったところを、隣にいたフランカに抱き留められる。彼女は私に何かを言っているようだけど、その言葉は私の思考には届かない。
……5敗以下? じ、じゃあ、6敗の私は、……駄目だったってこと?
自分の身体を支えていられず、フランカに支えられながら、ふにゃふにゃとその場にへたり込む。
「そんな……」
頭の中は真っ白だった。絶望という言葉が、これほどぴったりな心境は無いだろう。
終わった。
……私の挑戦は、ここで終わっちゃったんだ。
「そして、7敗以上した者は、残念ながら不合格だ。だが諦めることなく、ぜひ、また次回の試験を受けに来てくれ。我々は、君たちを待っているよ」
…………ん?
そのまま気を失っちゃうんじゃないかってくらいまっさらになっていた私の思考に、じわりと色が滲む。
私の身体を支えながら一緒に座り込んでいるフランカが、息を呑む気配を感じた。
「おい、ティナ。まだ分かんねぇぞ」
イライザの声だ。だけど、私の顔はまだ上がらない。身体にも、力が入らないままだ。
「そして、6敗の者。7人いるな。全員、前に来てくれ」
え? なに?
「ほら、ティナさん。早くお立ちになって」
「えっ、あ、うん……」
そうしてようやく、全身の力が戻る。
ゆっくりと立ち上がった私は、フランカ、イライザ、そしてマリサと、順に顔を合わせていく。
「ほれ、早く行ってこい」
イライザに肩を押され、私は恐る恐る列の前に出て、ほかの6人と横一列に並んだ。
眼前には、私たちを呼び出した協会員の顔。その顔が、わずかに綻ぶ。
「妙な発表の仕方をして、すまなかったな」
そう言って、再び表情を引き締める。
「今回の二次試験の通過人数は、事前に35人と決めていた。だが、5敗以下の者だけでは33人。2人足りないんだ。そこで、6敗の君たちにもう1日総当り戦を行なってもらい、その上位2名を二次試験通過とすることが、先程決まった」
……え? ってことは、……えぇっと、まだ不合格が決まったわけじゃないってこと?
だよね?
「だから、まだ落胆するのは早いぞ。君たちにはまだ、最終試験に進めるチャンスがあるんだ。明日、今日と同じ時間に1番棟に集合してくれ。いいな」
私たち7人は、「はい!」と元気よく声を合わせる。
……やった!
まだ、……まだ終わってなかった!
明日、……明日の試合で勝ち進めば、私も最終試験に進める!
よかった。……ホントに、よかったぁ~。
私は、その強烈な安堵のためか、思わず涙ぐんでいた。
……でもこれって、5敗以下の人数が想定よりも少なかったから、6敗の私たちを戦わせて補充しようってことでしょ?
つまり、本来であれば、私は不合格になってた可能性が高いわけだ。
二次試験通過のチャンスが残されたのは、あくまで、運が良かったから。
ちょっと納得いかない展開だけど、そんな贅沢なことは言っていられないよね。
とにかく、次への道はまだつながっているんだから、このチャンスをしっかり物にすることだけを考えないと……!
部屋に戻った私たちは、4人とも、テーブルについた。配置は、食堂で食事する時と同じ。
私の向かいにマリサ、その隣にイライザ、そして私の隣にフランカだ。
こうして全員がテーブルについたのは、もちろん、マリサから例の話を聞くためだ。
きっと私は、自分のことを、明日の試合のことを考えるべきなんだろうけど、マリサの提示した条件を満たしたし、話してくれるっていうんだから、聞かないわけにはいかないよ。
私はもちろん、フランカも興味津々な様子。イライザも興味があるから、テーブルについたんだろう。
「……そんなに面白い話じゃないけど、話す」
そう前振りして、マリサは語り始めた。
「住んでいた街がファミリアの襲撃を受け、家族は全員殺され、私だけクレイグさんに救われた。これは、以前話したと思う」
私たちは、コクリと頷く。
「その後、孤児院に送られたことも、話した。そこで、ヴェルレ姉妹と出会ったことも」
もう一度、コクリ。
「ヴェルレ姉妹、とりわけリュシーの方が、私によく話しかけてくれて、私たちは親しくなり、行動を共にするようになった」
それも昨日聞いたけど、何回聞いても信じられないな。あのリュシーに、そんな優しい一面があっただなんて。
「それから数年、私たちは孤児院で生活した。だけど、ファミリアの襲撃は減らず、とうとう私たちのいる孤児院がある地域にまで、奴らはやってきた」
そこで、イライザが思い出したかのように喋り出す。
「そういやヘルムヴィーゲ国って、やたらそういう話が多いよな。オルトリンデもまぁまぁファミリアがいる方だけどよ、ヘルムヴィーゲはその何倍もいるみてぇな感じがする」
その話に、私は「そうなんだ」、フランカは「そうなんですか」と声を合わせて呟いた。
そしてマリサも、「そうだね」と頷く。
「……私たちは、早々に避難したから被害は無かったけど、結局孤児院は破壊され、新たに住む場所を探すうちに、ほかの孤児たちとは離れ離れになっていった。私とヴェルレ姉妹は、運良く、ある傭兵に拾われて、その傭兵の家で暮らすことになったの」
「もしかして、その傭兵がマリサさんたちの師匠になる、とか?」
ふと思いついたので聞いてみると、マリサは「そう」と頷いた。
「自分たちの無力さに嫌気が差していた私たちは、3人揃って、その傭兵に剣を教えてほしいと頼んだ。どうせ断られるだろうと思っていたけど、彼はすんなりと、私たちの決意を受け入れてくれた」
彼。……その傭兵は男性か。
マリサは、そこで言葉を切って、黙り込んでしまった。
その瞳は、追憶に耽っているかのように静かに細められ、テーブルの上ではないどこかを見つめている。
その表情にわずかな翳りが滲み、そしてマリサは、再び口を開いた。




