15-4
結果としては、私の完敗だった。
勝てなかったのはやっぱり悔しいけどさ、あれだけの実力差を見せつけられれば、自分が負けたことに納得しちゃうよ。
でも、最後のわずかな間のみ、いい勝負ができた……気がする。
そして、最後の最後に一発当てることができた。
うん。そのことだけで、満足だ。清々しささえあるね。
「マリサさん」
ぼーっと立ち尽くしているマリサに、私は手を差し出した。マリサの瞳が私の手を映し、次いで、私の顔を収めた。
「……最後のあなたは、とても強かった」
そう言って、マリサは私の手をそっと握った。私も、ぎゅっと握り返す。
「……!」
笑った。
私と握手を交わした少女は、いつもほとんど感情の無いその綺麗な顔に、ドキッとするくらい可愛い微笑みを浮かべていた。
今度は、私がぼーっとする番だ。
「ティナさん? どうしたの?」
「……ん? あ、いや、なんでもない」
再び見た彼女の顔には、もうその笑みは無かった。
舞台を下りた私とマリサは、ほかの受験者が休憩に入る中、施設の壁際まで歩いていき、そこに並んで背を預ける。
「まさか、本当に1ポイント取られるとは思ってなかった」
前を向いたまま、マリサが呟く。その言葉をどういう思いで口にしているのか、その横顔からは読み取れない。
「油断していたわけじゃない。むしろ、戦い続ける中で強くなっていくあなたに驚き、集中力はかなり高まっていたはず。……それなのに、一発もらった」
もしかしたら、結構落ち込んでいるのかもしれない。
だってそうでしょ? ここまで無失点での完勝を収め続けてきたのに、たった1ポイントであっても失点してしまったのだから。
「……私があれだけ戦うことができたのは、マリサさんのおかげだよ。あなたが試合中にかけてくれた言葉が、私の心を奮い立たせたんだ。あれがなかったら、私は1ポイントも取れずに負けてたし、マリサさんを失望させたままだった」
本当に、彼女には感謝している。マリサとの戦いを経て、私はまた強くなれた気がするから。
ううん、そんな曖昧なものじゃない。はっきりと、確信してる。
「私、マリサさんのおかげで成長できた。だから、えっと、……ありがとう」
少し照れながらそう言うと、マリサは私と目を合わせ、「うん」とだけ答えた。
私は、まだ言い足りなくて、言葉を続ける。
「マリサさんってさ、実はすごく優しいよね」
「なぜ、そう思うの?」
「だって、まだ会って数日しか経ってない私にさ、いろいろ教えてくれたでしょ? 普通、会ってまだ間もない人に、こんなに世話を焼いたりしないもん」
マリサは、無言のままだった。何も話さず、私の目を見つめている。
それは、私の心を疑っている瞳ではなく、とても穏やかな光を宿した、落ち着いた瞳だった。
やがて私から目を逸らし、再び顔を前に向けたマリサは、ぽつりと言葉を発した。
「……自分でも、よくわからない。だけど、なぜかあなたのことを放ってはおけなかった。この気持ちは、うまく言い表せない」
照れ隠しなんかじゃなくて、本当に分からないんだろうなと、彼女の様子を見て思った。
……なんだろう。私ってそんなに、世話を焼いてやりたい子って雰囲気を醸し出しているんだろうか。
う~ん、……自覚は全く無いけど、もしかしたら、そうなのかもしれない。
マリサは静かに、壁から背を離した。
「あなたは条件を満たした。今日の試合が全部終わった後、話してあげる」
条件? ……ああ、あれか。すっかり忘れてた。そうだったそうだった。私が1ポイントでも取れれば、リュシーとの関係を話してもらえるんだった。
ちらっとこちらに振り向くマリサに、私は慌てて笑みを作り、「うん、分かった」と応じる。
「……ティナさん。残り7戦、もう負けちゃ駄目だよ。これ以上負けたら、帰り支度をすることになるかもしれない」
……そっか。もう私、6敗してるんだ。本当に、3敗どころじゃなくなってるじゃん。
でも、私の心に動揺は無かった。
「大丈夫。なんだかね、もう負ける気がしないんだ。残りの試合、全部勝ってみせるよ」
虚勢なんかじゃない。溢れる自信が、熱を帯びて私の心を包み込んでいる。
マリサと戦った経験が、うまく作用してくれたようだ。
「そう。……じゃあ、また後で」
静かに言い残し、マリサはすたすたと歩き去っていく。私はその背を見ながら、「うん」と頷いた。
その後の7試合は、全て危なげなく勝つことができた。
2日目のリュシー戦、そして今日のマリサ戦を経て、やっぱり私は一回り成長できていたようだ。
この2試合があったからこそ、7戦全て、倍以上の点数差で勝てたんだと思う。
こうして私は、19勝6敗で二次試験を終えた。
マリサは、結局私との試合以外の24戦全てを無失点で終え、25戦全勝。獲得ポイント数も、ちゃんと1ポイントずつ増やしながらだ。やっぱり、あの子は別格だよ。
ちなみに、イライザは23勝2敗で、フランカは21勝4敗だった。
二次試験終了後、私たち受験者はグラウンドへの集合と、待機を指示された。
そこで、二次試験の結果を発表するのだという。
私はフランカたちと共に、その時を待った。
あれから数十分が経ち、ようやく協会員たちがぞろぞろとグラウンドへやってきた。
彼らの姿を確認した受験者たちの雰囲気が、がらりと変わる。
さっきまでがやがやと喋っていた子たちは皆、神妙な顔つきになっていた。
「男子はこっち、女子はそっちに集まってくれ。二次試験の結果を発表する」
協会員の指示に従って、男女別にやや距離をとって集合し、並ぶ。
……ついに、きた。最終試験へ進めるか、否か。
その運命を握る結果を、私たちの前に立った協会員たちは、もう知っているんだ。
「まずは、二次試験ご苦労様。皆、自分の力を存分に出し切った、とても素晴らしい戦いぶりだったよ。だからこそ、ここで君たちの内の何割かを落とさなければならないのが、非常に心苦しい。……だが、それが試験というものだ」
そこで言葉を切り、受験者らの顔を眺める協会員。
「では、結果を発表する」
身体の外に音が漏れるのではないかと思うくらいに、鼓動が激しい。
……6敗もしちゃったけど、大丈夫なんだろうか。




