12-1
共に食事をし、共に会話をし、笑い合い、共に入浴し、共に寝る。
まだ出会って1日も経っていないというのに、もう随分仲が深まった気がする。
そう感じているのは私だけかもしれないけど、少なくとも、イライザはもちろん、マリサにも嫌われてはいないと思う。
……まぁ、私はここへ、友達を作りに来たわけじゃないんだけどさ。
でも、それでもさ、作れるものなら作っておきたい。
そう思っちゃうのはきっと、そう呼べる人があまりにも少ないから、かな……。
日程2日目。ついに、今日から二次試験が始まる。
その事実が私から眠気を吹き飛ばし、起きてすぐだというのに、妙に気持ちが高ぶっていた。
身支度を整えて、食堂へ向かう。
食堂は、宿舎から少し離れた別の建物にあるので、一旦外に出ないといけない。
朝のまだ冷たい空気が心地よく、私は「ん~」と思いっきり伸びをした。フランカが、それにつられて、同じように伸びをしていた。
食堂が入っている建物には、1階はそのほぼ全てが食堂で、2階には図書室などの小さな部屋が並んでいる。
イライザとフランカに続いて食堂に入ろうとして、マリサが立ち止まって2階へ続く階段をじっと見つめているのに気がついた。
「どしたの、マリサさん」
声をかけると、マリサはちょっと眠たそうな顔をこちらに向けて、「なんでもない」と答え、私を追い抜いて食堂へ入っていった。
どうにか席を確保し、4人で楽しく食事をしていたところへ、2人の少女がやってきた。
1人は、威嚇するような鋭い目付きをしていて、もう1人は、何やらそわそわしている感じだ。
どちらも胡桃色の短い髪と瞳で、顔は似ている、……というより、瓜二つだった。
「よぉ、マリサぁ。久しぶりだな、おい」
目付きの悪い方の少女が、私の向かいでサラダをむしゃむしゃ食べているマリサに詰め寄る。
名を呼ばれたマリサは、しかし、視線を目の前の朝食に向けたまま、少女の方を見ようともしない。
「やっぱり、あんたも来てたんだな。でも、昨日は見当たらなかったぞ? どこにいたんだよ。部屋に籠って、また大好きな読書でもしてたんですかぁ?」
目付きの悪い少女は、やたらと挑発的だ。舐めるようにマリサに視線を這わせ、ギロリと顔を覗き込む。
が、それでも、マリサは微動だにしない。全く相手にしていないというより、そこには最初から何もいないというような態度だ。
「おい、聞いてんのかよ」
あまりの無反応さに、さすがに苛立ったようで、目付きの悪い少女はマリサの肩を掴んで揺らす。
「なっ――」
そこで初めて、マリサに動きがあった。目つきの悪い少女の見る先にあるのは、マリサの凍えるように冷ややかな双眸。
「んだよ、その目は。言いたいことがあんなら言ってみろよ」
その視線に怯んでしまった愚を怒りに変えるように、少女はさらに目付きを悪くして、マリサと鼻がくっつくくらいの距離まで顔を近づけた。
「もうやめなよ。リュシー」
初めて、目付きの悪くない方の少女が口を開く。おどおどしていて、かなり気弱な感じだ。
その目が、私たちの方へ向くけど、それは何? 助けでも求めてるわけ?
……そんな目で見られてもなぁ。
「あんたは黙ってな、テッサ。あたしは今、この女と喋ってんだからさ」
「うるさい」
リュシーと呼ばれた目付きの悪い少女が、テッサと呼んだ気弱そうな少女に、半分だけ顔を向けて文句を言うのとほぼ同じタイミングで、マリサがぼそりと形のいい唇を動かした。
「……あ?」
ますます険を増した顔つきで、再度マリサを睨め付けるリュシー。
「うるさいって何だよ。またひとりぼっちになってんじゃないかと思って、わざわざ話しかけてやったのによぉ」
誰が見ても、ただ喧嘩を売りたくて来たとしか思わないだろう。
事実、リュシーの手はいつの間にかマリサの胸ぐらを掴み、そしてその物々しい様子に、周囲の受験者らが注目していた。誰も止めに入らないのは、まだ事が起こっていないからだろう。
「うるさいから、うるさいって言っただけ」
「んだとぉ!」
憤るリュシーに、マリサはゾッとするほど冷たい微笑を浮かべる。
「話なら後にして。まだ食事中だから」
「てめっ――」
全く動じていない様子のマリサに淡々と言われ、リュシーは爆発寸前だ。挑発に来たはずの彼女が、逆に憤激している。
うるさいというマリサの意見には、完全に同意だ。そろそろ、見ているこっちも辟易としてきた。事情も、わかんないしさ。
「やめなって、リュシー!」
振り上げた拳が、マリサの顔目がけて放たれそうになったその時、後ろにいたテッサが慌ててそれを握り、さらにリュシーの身体をマリサから引き剥がした。
目を丸くしたリュシーが、怒りに満ちた文句を言おうと口を開いた時には、テッサはマリサの横に進み出て、「ごめんなさい!」と言い放っていた。
「ちょっ、なに謝ってんだよ!」
怒るリュシーを無視し、テッサは、私たちや周囲の受験者らの方を向いて、もう一度「ごめんなさい」と謝る。
そして、激高するあまり顔を赤くしたリュシーをぐいぐいと押して、いそいそと食堂から出て行った。
そこからしばらくリュシーの騒ぐ声が聞こえていたけど、やがて静かになる。
「……なんだったんだ、ありゃ」
頬杖をついて呟くイライザ。見ると、すでに食事を終えている。どうやら、さっきの騒ぎには目もくれずに、食事を続けていたようだ。
「怖い方ですね」
落ち着いた口調のフランカは、今、食事を再開した。
私は、少しでも事情を知ろうとマリサを見るけど、彼女もまた、黙々と食事を続けていた。
仕方なく、手にしたままのパンを口に放り入れる。
わずかながらの影響を与えた嵐が去った後の食堂は、すでに元通りの姿を取り戻していた。
そのどこにも、動揺は無い。
朝食を終えた私たちは、二次試験を行う施設へと向かった。




