12-2
二次試験を行う施設の前で、集まった受験者らが何かを見ていた。
それは、施設の出入口横のガラスに貼られた、大きな紙だった。
隣の施設を見やると、そちらでは男子受験者らが、同じように人垣を作っている。
「……あれって、組分け表か?」
イライザの言う通り、確かにそれは、二次試験の組分け表だった。
女子は、全104人を、1組26人に分ける。全部で四組だ。
その四組には、それぞれA~Dの記号が振られ、A組、B組などと呼ばれる。
「お、あったあった。あたしはA組だ」
いち早く、イライザが自分の名前を発見する。そして、「あんたらは?」と私たちの方へ楽しそうな顔を向けてきた。
「C組……」
マリサがぽつりと言うと、
「あ、私はD組です」
フランカが対照的な明るい声で言った。
「お、うまくバラけたな。で、ティナは? B組だったら面白いな」
と、イライザは言うものの、その時すでに、私は自分の名前を見つけていた。
「私、C組だ。マリサさんと一緒だね」
そう言ってマリサを見ると、彼女は組分け表をじっと見て、わずかに眉根を寄せていた。
「どうしたの?」
私が問いかけた時、私たちの前にいた集団が横に移動して、前が空いた。
マリサは私の問いには答えず、組分け表の前まで進み出て、ある部分を指し示す。
「なになに?」
私たちは、彼女が指し示している箇所に視線を移動させる。
「あ」
するとそこには、さっきの2人の名前があった。
「テッサ・ヴェルレと、リュシー・ヴェルレ、か。そういや、あいつらすっげぇ似てたけど、双子かなんかか?」
その名前を眺めながら問うイライザに、マリサはコクリと首肯する。
「私が昔いた場所では、ヴェルレ姉妹って呼ばれてた。テッサが姉で、リュシーが妹」
あの2人とは顔見知りのようだけど、さっきのやり取りや今の表情を見るに、あまり良好な関係では無かったことが窺える。特に、リュシーの方とは。
“私が昔いた場所”というのも気になったけど、それを聞く前に、マリサは歩き出した。
「マリサさん。どこ行くの?」
呼び止めるつもりで言ったんだけど、その足は止まらない。
「C組とD組は、奥の2番棟でやるみたいだから」
「え? ……あ、ホントだ」
組分け表の上の方に、確かにそう書いてあった。
「じゃあ、あんたらとはここでお別れだな。あたしは1番棟だから」
イライザはそう言って、ニッと笑いながら「また後でな」と手を振る。私とフランカはそれに応え、前を行くマリサを追った。
……マリサが、わずかに不愉快そうな顔をした理由は、ヴェルレ姉妹の名前を見たからではない。彼女らの名前が、私たちと同じC組にあったからだろう。
そこで、はたと思い至る。
私、マリサやヴェルレ姉妹と戦わなくちゃいけないんだ……。
その施設は、天井はさほど高くはないものの、グラウンドといい勝負の面積を有していた。
向こうの壁が、随分遠くに感じる。直線距離にして、100メートルは軽く超えているんじゃないかな。とにかく広い場所だなというのが、ひと目見た印象だ。
そして、その床には、いくつもの舞台が用意されていた。バラルトの訓練施設で利用したのと、ほぼ同じ型の舞台だ。
私とフランカは、思わず顔を見合わせる。
その舞台の群れの中心、この施設の中心は少し開けていて、そこに受験者らが集まっているのが確認できた。
すでにそこへ向かって歩き始めていたマリサの後を追って、私たちもその集団に加わる。
「待ってたぜぇ、マリサぁ」
そこには、腰に手を当ててふんぞり返っている少女がいた。リュシーだ。斜め後ろに、テッサもいる。
またマリサに喧嘩を売るのかと思いきや、リュシーの瞳は私とフランカに向けられた。
「さっき、マリサと同じテーブルで飯食ってた奴らじゃん。なんだよマリサ、もしかしてこいつらと友達にでもなったわけ?」
「ちょっと、よしなって」
止めるテッサの手を振り払い、リュシーはこちらに歩み寄ってきた。
身長は、私よりも少しだけ小さい。だけど、その眼光は強烈で、ただ見られただけなのに、私たちは思わず後退してしまった。
それを見て、リュシーは鼻で笑う。
「何ビビってんだよ。別に、何もしねぇって。……今はな」
マリサのものとはまた別の、冷たい光。その双眸に一瞬宿ったのは、剥き出しの敵意。
そんな感情をぶつけられたことのない私は、何も言えずに立ち尽くすことしかできなかった。
「あんたらじゃあ、マリサにゃ釣り合わねぇよ」
私たちにだけ聞こえるくらいの声で囁き、リュシーはテッサのもとまで戻っていった。
……それって、どういうこと?
変だよね? それじゃあまるで、マリサの力を認めてるみたい……。
「よし。それじゃあ、C組はそっち。D組はこっちに分かれて集まってくれ!」
思考を巡らせかけたところで、協会員の声が私の意識を現実へ引き戻した。
「ティナさん。お互い、頑張りましょうね!」
D組のフランカとは、しばらくお別れだ。
「うん。頑張ろう、フランカさん!」
力強い光を瞳に宿し、見つめ合う。そして頷き合い、互いに踵を返した。
施設内にある舞台の数は、全部で40面。
中心の開けた場所を境に、奥をC組、手前をD組が使う。一組26人で、一度に13試合を行うから、使用するのは20面の内の13面のみとなる。
1試合の制限時間は10分で、試合後に10分の休憩を置き、また試合。
1日の試合数は午前と午後に分けられていて、初日の今日は、午前5試合、午後4試合の、合計9試合を行うらしい。
ちなみに、2日目と3日目はどちらも、午前4、午後4の8試合行う。
時間的には、それほど長くはかからない。
だけど、そう。だからこそ考える。昼までには、5試合分の結果が出ているんだということを。
私は、その5試合を全て勝てるのだろうか。
……いや、勝たなきゃいけないんだ!




