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宿舎を出て、長い通路を歩いた先にある広大なグラウンドに、全受験者が集合した。
そこからは、試験場敷地内のほぼ全ての施設が見渡せる。視線を巡らせるうち、自然と気持ちが高まってきた。
今日から、ここで試験を受けるんだ。その現実が、いざその場に立ってみて、より一層意識に浸透し、気迫へと変わっていく。
「それにしても、少なくなっちまったもんだな。6千人近くいたのが、もう300人ちょいだぜ? こっから、二次試験でさらに落っことされるんだろ? ……なんか、怖ぇよな」
ちっとも怖くなさそうな表情で、イライザが言う。それどころか、自信満々にしか見えない。
だから私は、「そだね」と曖昧な反応しか返せなかった。
協会員たちの指示に従って列が作られていく中、私たち4人は固まってそこに加わった。
受験番号順に並ぶのかなと思ってたけど、そんなことはなく、ちゃんと並んでいればどこにいてもいいというような感じだった。
……そう。確かに、イライザの言う通りだ。広いグラウンドの中、300人余りの人数では、余白が多すぎる。
試験は、このグラウンドでやるのだろうか。でも、遠くにいくつか大きな施設が見えるし、あれらも使うんじゃないかと思う。
だけど、こうもグラウンドが広く見えるほどだと、もうここだけで全部済ませられるんじゃないかとも思えてくる。
でも、それは今から説明を聞けば分かることだ。
綺麗にとは言えないけど、それなりに整列した全受験者の前に、白髪をオールバックに固めたガタイのいい男性が進み出てきた。
多分、お偉いさんだろう。そんな雰囲気だ。
健康的な色黒の肌、その顔にはわずかにシワも見えるけど、歳はどのくらいなんだろうか。私の父よりは、上だと思うけど……。
「……さて。これで全員かな」
低くよく響く、渋い声だ。白髪の男性は、首をゆっくりと巡らせて、私たち受験者を眺める。
「これより、第132期・傭兵採用試験・本試験の説明を始める。……と、その前に、私の話を聞いてもらおうか」
それほど力を込めているわけでもなさそうなのに、どうしてこんなに声がよく聞こえるんだろう。なんかこう、ぐわ~っと聴覚に響くんだよね。
「傭兵支援協会・オルトリンデ本部・本部長の、ルーカス・ペイフェールだ。まずは、小試験通過に対し、諸君らに賛辞を贈ろう。よくぞ勝ち残った。諸君らは、はじめの一歩を踏み外すことなく、見事にここまでの道のりを進んできたわけだ」
そこで言葉を切り、再び受験者たちを眺めるルーカス。
「だが、小試験を通過したくらいで満足していたら、この先は無いと思えよ。本試験の厳しさは、小試験の比ではない。ここに集まった336名は、5806名の受験者の中から勝ち残った実力者たちだ。周りは強者ばかり。小試験では余裕があった者も、さぞ苦しむことになるだろうな」
そんなの、わかってるよ。そうは思っていても、いざ言葉として聞くと、緊張感という形で、心に重くのしかかってくるね。
ドキドキしすぎて、気持ち悪いくらいだ。
「しかし諸君らは、その強者たちを押し退けて、さらに上を目指さなくてはならない。一度でも心が折れれば、おそらくそこで終わりだ。だが、諸君らには、ここまで来たという自負があるはず。その心を折ることの無いよう、努めたまえ」
自負、か。
……自分の力がどこまで通用するのかは、まだわからない。だけど私は、誰にも負けない。試験が終わるまで、その覚悟を抱いて戦い続けてやる。
でもおそらく、ここにいる全員も同じ思いだろう。
それを考えると、武者震いが止まらない。
「……諸君らも、おそらくわかっていることだろうが、あえて言っておく。今回の合格者の人数は、男子41名、女子17名の、合計58名となる。男女それぞれ、その中に入れるように、全力で試験に臨みたまえ。……以上」
そう言い終わると、ルーカスは身を翻し、後方に控えていた部下らに何やら指示を出してから、どこかへと歩き去って行った。
その後、ルーカスの部下である協会員たちによって、本試験の詳細が私たちに伝えられた。
明日から始まる二次試験。
そのルールは、訓練でやったのと同じだ。フランカと散々戦ったからね。もう身体に染み付いてるよ。
二次試験は、このグラウンドではなく、ここから見える大きな四角い施設の中で行うらしい。
二次試験用の施設は五つあり、男子には三つ、女子には二つ割り当てられる。
男子は29人で一組、女子は26人で一組となり、各組で総当たり戦を行うようだ。どの組に入るかは、明日のお楽しみ。
……えっと、つまり、女子は1人25戦あるってことか。
二次試験の日程は6日間。1日おきに休日が入るみたいだから、実質3日間だ。
結果によっては予備日が追加されるそうだけど、3日で25戦って、相当キツそうだな。
う~、でも、早く戦ってみたい。早く明日になんないかな。
ちなみに、二次試験から何人が最終試験に進めるのかは、教えてくれなかった。
そして、その最終試験は、ファミリアとの実戦だ。
こちらも6日間の日程で、1日おきに休日が入る。どんなファミリアが相手になるかは教えてくれなかったけど、日を追うごとに強くなるのは確実のようだ。まぁ、そうでなきゃ面白くない。
ただ、最終日の相手となるファミリアは、低ランクの傭兵が、仕事で相手取るくらいのレベルらしい。
つまり、本当の意味で実戦になるわけだ。
それを聞いた時はさすがに、ちょっと不安が脳裏をよぎったよ。
下手をすれば、命の危機に陥る可能性もある。
だから、本当に危なくなったら、近くの協会員に助けを求めるように、とのこと。
もちろん、協会員の手を借りれば減点だけど、もしそれを嫌って本当に命を落とすようなことになっても、協会側は何ら責任に問われない。
……そう。もしも試験で命を落としても、それは受験者の自己責任として処理され、協会側は責任を問われず、賠償も一切行われない。
確かに、受験票と一緒に送られてきた書類の中にそう書いてあった。
傭兵になれば、仕事中に命を落とすこともある。常に危険と隣り合わせの職業なんだ。
そんな世界に首を突っ込むんだから、こんな条件は呑んで当たり前ってことなんだろう。
現に、私たちはこうしてここに集まっている。
全員が、その条件を呑み、承知の上でここに来た証拠だ。
本試験の説明を終えた協会員たちは、私たちに、宿舎に戻る前に敷地内の施設を巡るようにとの指示を出した。今日中に、主要施設のことを覚えておけということらしい。
私は、同室の3人と一緒に、各施設を歩いて回ることに。
協会員たちが詰めている事務所、食堂などが入っている建物、二次試験用の施設と順に見て行き、最後に、この敷地の外れにある最終試験用の施設へと向かった。
そこは、高い壁で囲われた場所で、中は見せてもらえなかった。
一通り見て回った私たちは、やや遅い昼食を摂るために、食堂へと足を運ぶことにした。




