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マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第11話「同室の少女達」
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11-1

 モンテスから3時間半程度で行けてしまう、首都カランカ。


 でも私は、14年間生きてきて、今日初めてここを訪れた。

 行こうと思えば、いつでも行けたと思う。だけど、今まではモンテスから出る必要性が無かったし、そもそも、そんなことを考えたことが無かったんだ。


 だから、こんなに頻繁に汽車を利用して、バラルトやエンシーナに行くようになるとは思ってなかった。まして、首都に行くなんて……。


 しかも、その首都には、見たこともないくらい人が溢れていて、見たこともないくらいの高い建物が建ち並び、そしてこんな、街なかを走る電車というものに乗っている。


 ……傭兵になると決めて以降、初めて尽くしだな。それらを記憶するために、脳が忙しなく働き続けているのを感じる。


 でも、これはきっと、自分にとっていい刺激になっているんだろうと思う。

 家計を支えるためにやむなく傭兵になる道を選んだけど、こういう点からしても、その選択は間違ってなかったと実感できる。

 わずかながらも、運命さえ感じていた。



 このまま、永遠に人工物のみの景色を眺め続けなければならないのかなと嫌気が差してきたところで、不意に、流れ行くそれが変貌を遂げる。


 眼前に広がるのは、緑。

 人工的な物では決してないそれらは、木々や草花という形で私の視界の中を流れていく。

 あれは公園か何かだろうか。きれいに整えられた緑の中を、人々が歩いているのが見える。そしてその光景は、ずっと向こうの方まで続いていた。かなりの面積だ。


「ここが、カランカの中心部です」

 隣に座るフランカの声には、緊張の響きが混じっていた。その理由は、ここまで来てもまだ遠くに見える、あの豪奢で巨大な、純白の建造物にある。


 オルトリンデ城が、その姿を誇るように、支配するように、私の視界に入り込んでくる。

 造り終えるまでに一体、どれほどの年月と人手を要したのか、見当もつかない。


 あの中に今、どれだけの人間がいるのだろうか。王や王妃は、今何を思っているのだろうか。

 フランカの、いや、フランチェスカ王女の身を、ちゃんと案じているだろうか。……そうであってほしいと祈るばかりだ。


「城が、あんなに遠い。中心部だけでも、相当な広さだね」

 巡る思考に反して、口から出たのは、その程度のつまらない感想だ。それでもフランカは、「ええ、広いです」と反応した。


 ちらりと横目にした彼女の顔には笑みは無く、逆光も相まって、どこか暗澹たる感情が貼り付いているようにさえ見えた……気がした。


 そう、そんな気がしただけだ。

 一瞬の後、私の方に向けられた彼女の顔には、暗い影は無く、ただいつもの穏やかな笑みが広がるばかりだった。




 それからしばらくして、路面電車はあのチンチンという鐘の音を響かせて、ゆっくりと停車した。

 辺りはまた、建物だらけの光景に戻っていた。


「ここで降ります。ここから少し歩けば、試験場ですから」

 フランカとレオーネが席を立ち、私もそれに続く。降りる際に、フランカが言っていた通り、レオーネが3人分の運賃を払っていた。


 それを見て、ふと、この人たちは生活費をどうやって得ているのかと気になったけど、それは声に出さず、胸にしまっておくことにした。




 鐘を響かせて発車する路面電車を見送り、フランカたちと共に通りを歩く。


 私たちの前にも後ろにも、荷物を持ち、剣を携えた人々の列ができている。

 そう、私たちは、試験場へ向かう人の列に加わっているんだ。そこを歩くどの顔を見ても、瞳は闘志をたぎらせ、足取りは自信に満ち溢れているかのように力強い。


 きっと、私とフランカも、他人から見れば同じような様相なのだろう。


「ところで、レオーネはこれからどうするの?」

 思い出したように、フランカが問いかける。


「試験場の近くに、いくつか宿があるそうなので、そこを利用しようかと」

 だから、ここまでついてきてたのか。どうするのかなって、ずっと気になってたんだよね。


「試験が終わるまで、ずっとそこに?」

「ええ。そのつもりです。まぁ、多少は外出もしますけどね」

 そこで、フランカの瞳に厳しさが宿る。


「外に出る時は、気をつけなさいよ? 本当は、あまり出歩かない方がいいのだけど」

「しかしそれでは、身体が鈍ってしまいます」

 しれっと反論するレオーネに、フランカは「まったく……」と呆れ顔。


 きっと彼女は、鬱陶しさと頼もしさの両方を、レオーネに感じているはずだ。

 鬱陶しさの割合の方がそりゃ大きいだろうけど、彼が近くにいてくれるだけで、無意識にだとしても、安心感はあると思うし。


 ……フランカがレオーネに対して、家族か、それに近い感情を抱いていればの話だけど。




 通りは次第に傾斜を増し、列の進みを緩慢にさせる。

 そして、坂を上りきった先に、それはあった。


「あれが……」

 坂を上っている時から、いや、上る前から、それは見えていた。


 見上げるほどに高い、銀色の重厚なフェンス。日の光を浴びて鈍く輝くそれは、その広大な敷地全体をがっちりと覆っている。

 その向こうに、いくつか大きな建物が見える。どれが何の施設だろう。受験者用の宿舎も、きっとあの中にあるんだろうな。


「では、私はここで。ひめ……フランカさん、試験、頑張って下さいね」

 そう言って列を外れようとするレオーネに、フランカは笑みを向ける。


「早く呼び慣れなさいね。……行ってきます、レオーネ」

「はい」

 ぴしっと返事をし、それからレオーネは、私の顔を見やる。


「フランカさんのこと、頼んだぞ。頼りにできるのは、お前だけなのだからな」

 だったら、もう少し言い方ってもんがあるだろうに。……まぁいいや。


「はいはい。分かってるって」

 そうして、フランカに「じゃあ、行こっか」と言って身を翻すと、その背に信じられない言葉がかけられた。


「お前も、頑張れよ」

「! ……はぁ?」


 今、なんつった? 思わず顔を歪めて振り返った私は、すでに踵を返して離れ行くレオーネの背を見つける。


 ……まさか、あいつに声援を送られるとはね。予想外すぎたけど、まぁ、ありがたく受け取っておこうかな。


 そして私とフランカは、オルトリンデ試験場の出入口たる巨大な門へと、歩を進めていった。

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