11-2
オルトリンデ試験場の門の前にも、受験者たちの列。
門の前に受付があり、そこで何やらやり取りをしてから、1人ずつ門をくぐっていく。
「いよいよですね」
「そだね。なんか、ドキドキしてきた」
「私もですよ」
などと、少しでも緊張を解そうと、互いに言葉を交わし続ける。そうしている間にも列はどんどん前へと進み、ついに私たちの番がやってきた。
受付と言っても、ちゃんとした建物があるわけじゃない。年季の入った長テーブルが置かれ、それを隔てて数人の協会員が立っているだけだ。
「はい、次の人。受験票を提示して下さい」
私は、あたふたしながらバッグから受験票を出して、受付の協会員に渡す。
「ティナ・ロンベルクさんね。受験番号は、2079番」
協会員はそう言って、受験票を隣の協会員に渡す。そして、それを受け取った協会員が、何やら書類と私の受験票を照らし合わせ、「はい、確認しました」と抑揚のあまり無い声で発した。
実に、事務的。お役所仕事って感じ。
「では、係員の指示に従って進んで下さい」
手で門の奥を示した協会員は、すぐに次のフランカの対応へと移る。
……あれ? 受験票は返してくれないんだ。あれが通行証みたいなものだったのかな。
私はフランカに目配せしてから、見上げるほどに巨大な門をくぐった。
敷地内のところどころに協会員が立っていて、彼らは私たち受験者を、まず宿舎の場所へと誘導した。
とりあえず、部屋に荷物を置きがてら、同室の者と挨拶を済ませておけということらしい。受験者全員が試験場に入ったら、グラウンドへの集合がかかるとのこと。
協会員の誘導に従って進んで行くと、二階建ての、集合住宅のような質素な建物がいくつも平行に並んでいる場所に辿り着いた。これらが、受験者用の宿舎のようだ。
さすがに男子の方が人数が多いだけあって、宿舎の数も女子のそれより多めに用意されている。男子が六棟あるのに対し、女子はその半分の三棟しかない。
だけど、本試験の受験者数を見るに、その全てが使われるわけではないようだ。現に、一番手前にある3番女子棟は施錠されているらしく、出入口は閉じられ、誰一人として姿は無い。
男子棟と女子棟の間には少し距離があり、その中央を緑のフェンスが仕切っているのが見えた。宿舎の向きも、互いに向かい合う側の壁に窓が来ないようになっている。最低限の配慮はされているようだ。
宿舎の横の通路から奥に入り、女子2番棟の前に立つ。
開けっ放しの玄関から、すでに来ている受験者らの話し声が漏れて聞こえる。
「行こっか」
「ええ」
私たちは顔を見合わせ頷き合い、恐る恐る宿舎の中へ足を踏み入れた。
宿舎に入って、まず視界に飛び込んできたのは、ほかの受験者たちの姿だった。
入ってすぐの場所は開けていて、長椅子がいくつか置かれている。左右に通路が伸びており、奥には2階へ続く階段が見える。
「……」
まぁ、予想はしていたけど、実際目にすると、やっぱり怖いな。
そんなに広くはないエントランスホールのあちこちにいる受験者たちは、そのほとんどが逞しい肉体を持つ、血の気の多そうな……女の子。
うん。かろうじて、女の子だと思う。
宿舎に入った私たちに、ほんのひと時だけ集まった視線。その一瞥に、全てが込められていた気がする。
……品定めと、敵愾心。
今の一瞬で、実力の全てを見透かされた気がして、思わずゾッとした。
「ちょっと。邪魔なんだけど」
完全にその場の雰囲気に呑まれていた私たちの背中に、突如としてぶつかる声。振り返った私たちの眼前に、筋骨逞しい少女。
そ、そうだ。私たち、玄関で立ち止まったままだったんだ。
「ご、ごめんなさい」
慌てて道を開けると、その少女はフンと鼻を鳴らして、ずかずかと中に入り、そのまま右の通路へ消えた。
私たちも、自分の部屋に行こうとすぐに決め、そろそろと受験者らの間を抜けて左の通路へ。
通路の両側にドアが並んでおり、奥から101、102、……と部屋番号が割り振られている。
私たちの部屋は、ここ2番女子棟の101号室。通路最奥の、右手にある部屋がそれだ。
「! 2001番……」
部屋の前に立ち、ドアのすぐ横にあるプレートを見た私は、目を疑った。
それは、各部屋のドアの横にあるもので、その部屋に入る4人の名前と受験番号が記されている。
「2001番って、……小試験で、1716人中1位だったってことですよね?」
「……」
驚きと、その後すぐに湧き出してきた緊張に、鼓動が早まる。
いや、順位が付けられる以上、1位の人がいるのは当然で、それは理解してたよ。
だけど、その人がまさか同じ部屋に入ることになるなんて、信じられない。これもまた、びっくりするくらいの偶然だよね。続くなぁ……。
同室なのは、2001番の人と、2030番の人か。どっちも、私たちより遥かに上だ。
うわ~、怖い怖い。
さっきエントランスで見たような人たちよりも、ゴツい人たちだったらどうしよう。
「……話し声がします」
「えっ、じゃあ……」
もう、中にいる? 話し声ってことは、2人共……。
私とフランカは、顔を見合わせる。これでもう何度、彼女と目で会話しただろうか。
いやいや、そんなことはどうでもいい。とにかく、入らないと。だって、ここが私たちの部屋だし……。
「行きましょう。ティナさん」
「えっ、……うん」
先に意を決したのは、フランカだった。私が返事をした時には、すでにドアをノックしている。
どういう反応が返ってくるのか待っていたら、声の代わりにドアが開けられた。
「お。もしかして、あんたらがティナとフランカ?」
ドアの向こうから現れたのは、背はフランカよりちょっと高いくらいだけど、やっぱり肉体は逞しい、紅褐色の短い髪が印象的な女の子だった。
私たちが揃ってコクコクと頷いて見せると、その女の子は弾けるような明るい笑顔を浮かべて、「これで全員揃ったな。さ、入りなよ」と横に避け、私たちに入室を促した。
……怖い人ではなさそうだ。私はそう感じながら、フランカに続いて部屋に入る。
そして、部屋の奥にある二段ベッドの縁に座っていたもう1人の少女と、目が合った。
その双眸はとても静かで、冷たささえ感じた。




