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08-2

 受験申請から、あっという間に2週間が経った。


 その間、私とフランカは相変わらず二次試験の演習に没頭。気付いたら、今日までで通算101戦もしてた。

 ちなみに、私が51勝50敗で勝ち越している。


 これだけ戦っていれば、もうお互いの手の内は把握済み。しかも、相変わらず実力は互角のままだから、勝敗数に全く差が出ない。

 毎回、運が悪い方が負けてるって感じ。



 フランカは、受験申請の時に撮った写真のことを、1週間くらい気にしてたみたい。

 気持ちは、まぁ分からないでもないんだよね。


 彼女は、城から脱走して、行方をくらませてから受験申請をするまでの間、写真を一枚も撮ったことが無いらしい。


 あの一枚が、何かの原因にならないとは言い切れないのは事実。

 そして、それに対して必要以上に不安を覚えてしまうのは、仕方がないと言えるだろう。


 だけど、私は言ってやったよ。


「今までさ、ほら、髪を切ったりする前からさ、あれだけ外出してたのに、大丈夫だったじゃない。だから今後も大丈夫……とは私も言えないけどさ、そこまで心配することないと思うよ」


 そしたら、フランカは硬かった表情をちょっと和らげてくれた。


「あの写真だって、王族とか、城の関係者が見るとは限らないじゃない。ていうかさ、そもそも、受験者なんて何千人もいるわけだし、いちいち見てらんないでしょ、そんな数。せいぜい、協会の人がちらっと見るくらいだよ」


 これだけ言葉を重ねて、ようやくフランカは「そうですよね」と笑みを取り戻した。


 もちろん、フランカの写真を王族らが見ない保証はどこにも無くて、写真を見てフランチェスカ王女だとバレない保証だって無いんだけど、私は何の根拠も無く、大丈夫なんじゃないかなぁと思っていた。


 この子って、1人で外出して、エンシーナからバラルトまで来たりするもんだから、あんまり怖がっていないのかなって思ってたんだけどさ、やっぱ結構悩んだりしてるんだね。


 ……まぁ、王様が本気を出してたら、きっとフランカたちはすぐに見つかってたと思うんだよ。

 本人もそう思ってるみたいだけどさ。


 だから、あんまりこういうこと言いたくないんだけど、王様のフランカに対する関心が薄くて良かったなって思うよ。


 フランカがそう言ってるだけで、本当に王様がフランカに対して関心が無いかどうかなんてわからない。

 だけど、フランカが城を出てからもう半年以上経ってるってのに、王族に動きは無いみたいだし、街でお城の騎士なんかを見かけたりもしないわけで、やっぱ探す気が無いのかなぁって思っちゃうんだよね。


 ……悲しいことに。




「よーし、今日はこのくらいにするか」


 いつものように、日が暮れる頃、父の声で訓練は終わる。

 そしたらもう、どっと一気に疲れが出てきて、身体がびっくりするくらい重たくなるんだよね。

 でも、そのままへたり込んでるわけにもいかないから、わずかに残った気力を振り絞って片付けした後、訓練施設を出る。


 先に階段を下りていく父の後を、私とフランカはふらふらしながら続く。体力はかなりついたと自負してるけど、フランカとの激戦の後は、さすがに空っぽだ。


 そうして階段を下り切った私たちの前で、父は歩みを止めて振り返った。


「今やってる訓練は、今日で終わりだ。と言うより、バラルトでの訓練が終わりだな」

「え? まだ試験が始まるまで2週間ちょっとあるのに?」

 こんな中途半端な時期に終わらせていいのだろうか。


「ずっと休まずに訓練しっぱなしだったからな。お前らに自覚があるかは知らんが、そろそろ肉体的にも体力的にも限界のはずだ」

 私はフランカと目を合わせてから、「そんなことないよ」と反論する。


「寝れば疲れは取れるし、体力だって元に戻るもん」

「そりゃあ、お前らは若いからな。当たり前だ」

 父は口の端を上げてそう言った後、「だがな」と続ける。


「万一ってことがあっちゃいけねぇ。大丈夫だと思っていても、意外と気付かないところにガタが来てるってこともある。何にせよ、休養ってのは必要なもんさ」

「でも……」

 もう少し食い下がるつもりだったけど、「休むことも訓練の内だ」なんて言われたらさ、従わざるを得ない。


「そんな深刻な顔すんなって。お前らはもう、いいとこまで行ける実力を持ってるよ」

 そう言って笑う父に、私は「いいとこって?」と口を尖らせる。


「合格できるかどうかは、わからないってことでしょうか」

 やや感情的に言って、父に詰め寄るフランカ。父は、そんなフランカと私を交互に見てから、「まぁな」とあっさり認めた。


「もちろん、傭兵になるために必要なことは、全力で叩き込んでやったつもりだ。お前らも、散々音を上げながらもよくついてきてくれた。大したもんだと思ったよ」

 父は笑みを薄め、「でもな」と続ける。


「死ぬほどキツい訓練なんて、受験者全員がやってるんだ。それこそ、年単位で続けてる奴もいるだろう。そんな奴らと競ってどこまで行けるかって考えたら、まぁ、いいとこまで、なんて曖昧なことしか言えんわな」


 分かってるよ、そんなことは。

 それでも私は、絶対に合格できるよって言ってほしかったんだ。


 ちらりとフランカの顔を見ると、やっぱり不満げだ。きっと、私と同じようなことを考えているに違いない。


「……だが、中には、たった数ヶ月の訓練でびっくりするくらい実力をつけちまう奴もいる。俺はな、お前らがまさにそれだと思ってるんだ」

 頭の中で、「え?」という声が漏れた。


「考えてもみろ。半年くらい前まで、お前らは戦い方どころか、剣すら握ったことがなかったんだ。それがどうだ。お前らは、俺が教えたことをすぐに吸収して、どんどん自分の物にしちまった。今では、立派な剣士さ。正直、ここまでになるとは思ってなかった。才能があったんだろうな、お前ら2人共」


 ……これって、褒められてる? 私はフランカと顔を見合わせた。


「だから、まぁ、現実はどうあれ、俺自身は、お前らは合格できると信じてるよ。女子受験者のレベルがどんなもんか知らねぇけど、実力的には充分だと思う。問題があるとすれば、その実力を本番で発揮できるかってことだな」


 よかった。

 なんにせよ、私達が合格できるって思ってくれているんだ。信じてくれているんだ。

 ホッと、安堵の吐息が漏れた。


 ……実力、か。ちゃんと発揮できるか、正直不安だ。でも、やるしかない。




 来週、エンシーナの修道院に行く約束をして、私と父はフランカと別れた。

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