08-3
傭兵支援協会から、1通の封書が自宅に届いた。
中に入っていたのは、小試験の受験票。それと数枚の書類。いずれも、試験関連のものだ。
手の平サイズの受験票には、私の名前や年齢、性別、住所などが書かれていて、その下に小さく「受験番号:21」と記されていた。父によると、受験番号は申請順に振られるらしい。
ってことは、一緒に申請したフランカは、20番か22番だね。
書類の方に目を通すと、そこには、小試験たる一次試験の詳細が書かれていた。
……うん、父に教えてもらった通りの内容だ。
あとは、受験日と、集合時間と、持ち物についてなどが書いてある。
「へぇ、田舎にしちゃ随分集まったんじゃないか。あの小試験場で、101人だとよ」
父が見ていた書類には、エンシーナ小試験場に来る受験者数が載っていた。男子74人、女子27人で、計101人。
小試験場は国の各地にあるけど、当然ながら、都会に近いほど集まる人数は多くなる。
だから、この辺りでこれだけの数が集まるのは珍しいようだ。
「女子は27人か。何人が本試験に進めるのかはわからねぇが、まぁ、ここは余裕だろ」
以前から、父はそう言っている。だけど、実を言うとちょっと不安なんだ。
本当に、一次試験を余裕で抜けられるほどの実力を、私は身に着けられたのだろうか。
そりゃあ、絶対に本試験に行ってやるっていう意気込みはあるよ?
でも、ここに来て、なんだか妙に心配になってきた。
そして、その不安を抱えたまま休日を迎え、私は父と一緒にエンシーナへ向かった。
エンシーナに着くと、駅前広場でフランカが待っていてくれた。その傍らには、相変わらず無愛想なレオーネの姿もある。
フランカは、私たちに挨拶をすると、自然に父の隣を陣取り、2人で並んで先に歩き出した。
結果、私はレオーネと歩くことになる。だってほら、あからさまに避けるのも変だしさ。
……しっかし、フランカはホントに嬉しそうだ。父からプレゼントされた赤縁のメガネも、しっかり掛けているし。
父に会える日を、毎週楽しみにしてるんだろうな。
「……」
さてと。こっちはこっちで、ちょっと会話してみるか。そう思い、レオーネを見上げると、彼も父とフランカの様子を眺めていた。
仏頂面なんだけど、フランカと父が並んで歩いていることに、反感を抱いているわけではない感じ。
「気になるの?」
声をかけてみると、レオーネは面倒くさそうに私に視線を移してきた。なんか嫌味でも言うのかと思いきや、その口から出てきたのは、「まぁな」という素直な言葉だった。
「あのように幸せそうな姫様を見るのは、初めてだからな。……いや、初めてではないか。城にいる時も、クレイグさんのことを語られる姫様は、いきいきとしておられた」
「へぇ~」
そういえば、父のことが書かれた新聞記事とか集めてたんだっけ。
なるほど。その頃から、父のことが好きだったわけだ。
異性として。
「だが、いかに姫様が想いを寄せられようと、身分が違う。王族と平民では、うまくいくわけがないんだ。……姫様は、それを理解しておられるのだろうか」
身分、ね……。
これが、ただの裕福な平民と貧乏な平民の恋なら、まだ可能性はあったかもしれない。
だけど、どこの国にも身分というものがあって、異なる身分の間には、決して越えられない壁がそそり立っている。
しかもそいつは、直角ツルツルの断崖絶壁だ。登れると思う方がどうかしている。
歳の差は越えられても、身分ばかりはどうしようもないよね……。
「……王族などに生まれなければ、望むように生きられただろうに」
それは、思わず口をついて出てしまった言葉だったのか、レオーネは慌てたように顔を背け、それ以降、喋ることはなかった。
……本当に、フランカのことを大切に思っているんだな。
でも、この人のは恋心じゃない。純粋に、従者として主君の幸せを願ってる。そんな感じだ。
王族に生まれなければ、か。
フランカにとっては確かに、そっちの方が幸せだったかもしれないな。
少なくとも今、フランカが置かれている状況を見る限りはね。
修道院に着くと、私たちはいつものように客間に通された。
フランカは、修道院の離れにあるという自室へ行って、私と同じ日に届いたという受験票を見せてくれた。
フランカの受験番号は22番。私の一つ後ろだ。
呼んでもいないのにぞろぞろと集まってきたジゼルたちも交え、父は私とフランカにある話を聞かせた。
それは、二次試験の次。最終試験の話だった。
「二次試験までの訓練は、充分過ぎるほどこなしてきた。だが、対ファミリア戦となる最終試験に関しては、ほぼぶっつけ本番と言っていい。お前たちは、バラルトでマッドマンと戦ったが、あれはあくまでファミリアと戦う練習であって、奴らは最終試験で戦うことになるファミリアとは、レベルそのものが違う」
そして、「こればっかりは、訓練させてやる手段がなかった。だけどそれは、ほかのほぼ全ての受験者も条件は同じだろう」と、父は続けた。
……数ヶ月前の、ファミリアによるモンテス襲撃。ああいったことでもない限り、一般人がファミリアと対峙するような機会は無い。
だから大丈夫ってわけじゃないけど、条件が同じなら、やっぱり実力が物を言うってことだ。
父の言葉を聞き終わり、私はフランカを見やる。
けれどフランカは、父の顔を見るばかりで、私の視線には気付いてくれなかった。
その後、ジゼルとレオーネはどこかへ行き、私はキアラとロザリーに連れ出されて、また噴水のところで会話をした。
もちろん、客間で2人きりになった父とフランカについてだ。
まぁ、盛り上がっていたのは、彼女たちだけだったけど。
そして空に赤みが差す頃、私たちはまた来週も来ると約束し、修道院をあとにした。
汽車の中、私はフランカとどんな話をしたのかと父に聞きたかったけど、結局聞くことができず、特にこれといった会話をすることもなく、次第に色を変えていく空を眺めながら過ごした。
心の中に巣食う、うまく言い表せない感情の蠢きに耐えながら……。




