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08-1

 エンシーナの小試験場には、エンシーナと、その周辺にある街から、受験者が集まる。

 と言っても、この辺りにあるのは小さな田舎町がほとんどで、暮らしている人間の数がそもそも少ない。

 その中でも、若者の数は特に少ない。なぜなら、多くの若者が、ミドルスクールを卒業して就労権を得ると、仕事を求めて都会へ出ていってしまうからだ。


 すると、必然的に受験者の数も少なくなる。


 もちろん中には、就職活動をせずに、最初から傭兵を目指して田舎に留まる者もいる。

 田舎住みでまともな賃金を得ようと思えば、傭兵くらいしか選択肢が無いのが現実だ。

 それでもいいと思う者、腕に自信のある者が、こういった田舎の小試験場に集まるらしい。


 これらは、全部父から聞いた話。私は、そんな事情初めて知った。




 受験申請をしに協会支部へ向かう道すがら、私はフランカと、これから撮る写真について話し合っていた。


「本当に、これで大丈夫なんでしょうか。髪を切って、メガネを掛けただけですよ?」

 両手でほわほわと自分の髪を触りながら、不安げな顔でいるフランカ。私はそんな彼女をじろじろ見ながら、「大丈夫だよ」と笑いかける。


「外に出て改めて見るとさ、やっぱ全然違うよ。絶対にバレないって」


 変身前は変身前で美少女だったけど、変身後もまた、美少女であることには変わりない。

 ……髪を切ってメガネを掛けると、妙に知的に見えるな。以前のほんわかした印象とはだいぶ違う。

 まぁ、立ち居振る舞いや丁寧な喋り方のせいで、上品な感じは全く薄れていないけど。


 でも、見た目だけならこれで大丈夫だと思う。


「お城にいた頃も、そこまで短くしたことないんでしょ?」

「ええ。幼い頃から、ずっと長かったです」

「だったら、そんなに心配することないでしょ。大丈夫だって」

 そう言ってやると、フランカは少し笑みを取り戻し、「そうですね」と頷いた。




 協会支部には、私たちのほかにも数人、同じくらいの歳の子たちが受験申請に来ていた。

 少ないなと思ったけど、今日から試験2週間前まで申請期間があるんだから、初日に慌てて申請する必要は無いんだよね。


 私たちの場合は、慌て者と言うより、こういうことはさっさと終わらせて、訓練に集中したかったから。

 うっかり忘れるってことはないだろうけど、申請しなくちゃ申請しなくちゃって考えながら訓練するなんて、なんか鬱陶しいじゃんか。


 ……まぁ、父が言ってたことなんだけどね。


「では、この書類の必要事項を埋めて下さい」

 受付で渡された紙には、「傭兵採用試験・受験申請書」と書かれていて、氏名、年齢、性別などを書く欄がずらずらと並んでいた。


「そこのペンとインクを使ってね」

 受付横の入れ物に無造作に入れられていたペンの中から一本取り、インク容器の蓋を開けてペン先にインクを付け、サラサラと名前から書いていく。


 黙々と書き進め、フランカより少し早く書き終えた。


「フランカさん。書けた?」

「あ、はい。書けました」


 ペンの入れ物の横にある、すでにちょっと汚れている布切れのきれいな部分でペン先を拭い、元の場所に戻してインクの蓋も閉じてから、「書けました」と受付嬢に提出する。


 受付嬢は、「はいはい」とインクが伸びないように慎重に受け取った後、2枚の受験申請書に目を通す。


「……ティナ・ロンベルクさんと、フランカ・アルジェントさんね。うん、書き忘れも、無し」

 受験申請書を横に置いた受付嬢は、奥に見える通路を手で示した。


「じゃあ、その奥の部屋で証明写真を撮ってきて下さい。真っ直ぐ奥に進んで、突き当たりを左ね。ドアが開いたままになってる部屋があるから、そこに行って。写真を撮ったら、帰っていいから」

 私たちは声を揃えて返事をし、長椅子に座って待っていた父へ歩み寄る。


「写真撮ってもらってくるね」

「ああ」

 私はフランカに「行こ」と言って、2人で受付から続く通路へ入った。




 短い通路の突き当たりを左へ曲がるとすぐに、ドアの開いている部屋が目に入る。


「ここかな」

 そっと部屋の中を覗くと、順番待ちをしている数人の男女と、姿勢良く椅子に座っている男の子、その対面で同じく椅子に座り、写真機を構えている男性が見えた。


 どうやら、ここで合っているらしい。

 私たちは顔を見合わせ、室内へ足を踏み入れる。


 順番待ちの子たちがこちらを一瞥するけど、すぐに前に向き直る。私たちもその列に並び、順番が回ってくるのを待つ。


 それほど広くはない静かな部屋の中、シャッター音が妙に大きく響く。あとは、人の動くわずかな音と、撮影前後の挨拶の声。

 この雰囲気は、ちょっと苦手だ。


 そうして待つうちに、順番が回ってきた。


「はい次。名前を教えて」

 落ち着いた声で聞いてくる男性に、私は自分の名を告げて椅子に座る。


「ティナ・ロンベルクさん……ね。はい、じゃあじっとしててね」

 紙に何やら書いてそう言うと、男性は写真機を構える。私は背筋を伸ばして、写真機のレンズを凝視した。


「!」

 カシャッというシャッター音と同時に焚かれたフラッシュが、私の視界を一瞬奪った。

 しまった。目、つぶっちゃったかな。


 男性は写真機から吐き出されたフィルムをしばらく眺めてから、「はい、いいよ」と言う。


 よかった。どうやら、大丈夫だったようだ。私は「ありがとうございました」と言って立ち上がると、フランカの方を見て、ドアを指差して外で待っていることを伝える。




 その後、フランカの撮影も無事に終わり、私たちは父のもとへ戻った。


「よし。じゃあ帰るか」

 立ち上がって先に歩き出した父と一緒に、協会支部を後にする。


 これで受験申請も済んだ。あとは残りのひと月、試験に向けて頑張るだけだ。

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