06-4
あの日以来、私たちは会うたびに二次試験のための演習を繰り返した。
勝ったり負けたりだけど、この半月で73戦やって、今のところは、私が37勝36敗で勝ち越している。
正直、フランカのことを侮っていた。初めて会った頃の彼女の戦いの印象が残っていて、今でもまだ自分の方が上だと、勝手に思い込んでいたんだ。
……恥ずかしい。
フランカは、私と一緒にいない時もしっかり努力をしているんだ。そんな彼女が、いつまでもあの頃のように弱いわけがないじゃない。
だからこそ、焦る。
私とフランカの力の差は、ほんのわずかだ。まさか、こんなに早くここまで差を詰められるとは思ってなかった。
おそらく試験では、フランカは強力なライバルになるだろう。
もちろん、ほかにも、私と同じかそれ以上の実力を持つ受験者もいると思う。でも、そんな中でも、実力が拮抗しているフランカのことを、私は強く意識するんじゃないだろうか。
きっと、フランカもそうだろう。
強くならなきゃ。フランカよりも、誰よりも、強く……。
噴き出す汗。言うことを聞かない身体。それでも私たちは、互いを睨み、駆け、構えた剣を振る。
「ぐっ!」
「うぅっ!」
弾き、振り上げ、振り下ろす。刀身は柔らかいけど、鍔は固い。私とフランカは幾度となく鍔迫り合いを繰り返し、互いの剣を弾いては間合いを離して移動し、再びぶつかり合った。
自分の呼吸音が、大きくはっきりと聞こえる。そして、対峙するフランカの荒い呼吸音も届く。
私たちの身体は、もうとっくに限界を超えていた。それでも、戦い続ける。
「くぅ!」
一瞬の隙を突かれ、背後に回り込まれて背中に一撃をもらう。
「くそっ」
一撃食らったら、一撃返す! 瞬時に身を翻した私は、その勢いを乗せて横に一閃。後ろへ跳んだフランカをすぐに追い、体勢を整える前に剣を斬り上げる。
「あっ」
その一撃は、フランカの右脚を叩き、そのまま前進した私は、彼女が構え直した剣を突撃の勢いで弾いて、間髪入れずに胸を一閃。
しかしフランカは怯まない。胸に一撃を食らうと同時にぐるりと身体を捻って剣を引き戻し、そのままの勢いで袈裟懸けに振り下ろした剣で、私の後頭部に反撃の一撃。
鈍い衝撃が私を襲う。
ここで一旦間合いを取り、数秒の後、同時に駆け出す。
剣を横溜めにすると、フランカも同じ構えを取った。……面白い!
「ああああぁぁぁぁっ!」
「ああああぁぁぁぁっ!」
同時に叫び、身体ごと衝突させるつもりで剣を突き出す。
「――!」
剣から手に伝わる柔らかな感触は、額に受けた感触とほぼ同じ。
私が放った刺突も、フランカの放った刺突も、互いの額にぶつかって止まっていた。
「よしっ、そこまで!」
父の声に、私たちは大きく息を吐きながら、その場にへなへなとへたり込む。顔からぼたぼたと汗が落ち、舞台の床を濡らした。
……もう駄目。もう一歩も動けない。
「64対60で、フランカの勝ちだ。最後の方で一気に稼いで逆転したな」
舞台に上がって私たちのもとまでやってきた父が、試合結果を告げた。
私はそれを聞いて「負けた~」とさらに肩を落とし、フランカは少し顔を上げて「勝ちました」と弱々しく微笑んだ。
「これで、37勝37敗同士だな」
父は楽しげにそう言ってから、口元に笑みを残したまま私を見下ろす。
「……どうだ、ティナ。追いつかれた気分は。お前、ずっとフランカのことを下に見てたろ。相当悔しいんじゃないか?」
「え……。そうなのですか、ティナさん」
「……」
余計なことを。……でもまぁ、それは事実だ。お見通しだったんだな。
「ごめん、フランカさん。会ったばかりの頃、この子は大したことないなって思ってた」
顔を上げると、そこにあったのは穏やかな顔。それを見て、私は再び自分の幼さを痛感したけど、もういい。とにかく、言葉を続けよう。
「でも、みるみる差が縮まっていって、手合わせすれば競り負けるようになって、今では勝ったり負けたり。もう完全に同じレベルだよね。だから、……正直ね、かなり焦ってるんだ」
フランカは、表情を変えずに黙って聞いている。
「負けるのは悔しいし、焦りも強くなる。だけどそれ以上に、もっともっと強くなりたいって気持ちも大きくなる。だから、フランカさんに私と同じかそれ以上の剣の才能があって良かったと思ってるんだ。相手が強ければ強いほど、燃えるからさ」
そう言い切ると、フランカの顔に笑みが広がった。そして、横から差し出される父の手。
それを掴むと、ぐいっと引っ張り上げられた。その父も、笑ってる。私は頷き、フランカの方に向き直ってから、手を差し出した。
そうして立ち上がった私たちは、向かい合い、笑い合った。
先に口を開いたのは、フランカだ。
「私も、ティナさんが強いお方で良かったと思っておりました。ずっと、ティナさんに追いつこう、そして追い越そうと思っていたからこそ、ここまで頑張ってこられたのですから」
……そうだったのか。私はてっきり、父の存在があったからだと思ってたんだけど。
でも、そっか。そう言ってもらえると、純粋に嬉しいな。
「むしろ、心配していたんですよ。私の剣で、ティナさんの相手が務まるのかなって。……でも、良かった。嬉しいです。私、ティナさんに認められていたんですね」
嬉しそうに微笑むフランカ。
その顔を見て、私はこの子との距離が急激に縮まったのを感じた。きっと、フランカも同じように感じてくれているはずだ。
そう、信じたいな。




