06-3
最初の競り合いは、20回ほど剣を交えたところで終わった。
「よーし、やめやめ」
突然、父が舞台に上がってきて止めたからだ。ちょっとした興奮状態に入っていた私たちは、気勢を殺がれて不満顔を父へ向けた。
そこにあるのは、父の笑み。
「今日のところは、軽く打ち合いをさせて終わりにしようと思ったんだが、思いのほか、2人共対人戦闘ができてるからな。最初っから実戦形式でやってみたらどうだ」
それはつまり、二次試験と同じように試合をしてみろってこと?
私はフランカと目を合わせる。
「……じゃあ、やろうか。フランカさん」
「そうですね。やりましょう、ティナさん」
そんな私たちの様子を見て、父は楽しげに「決まりだな」と笑った。
この訓練場の職員は、全て傭兵支援協会の協会員だから、当然試験のことは全て把握している。
父は近くにいた職員を捕まえ、二次試験のことについて詳しく聞いたらしく、それを私達に説明した。
試合時間は、父の時と変わらず10分間。
使用する擬似剣は特殊な樹脂製で、刀身の型は実際の剣で言うところの片刃の直刀。そして、その長さは65センチだ。重さは1キロちょっとで、柄も握りやすく扱いやすい。
攻撃有効箇所は父が言っていたのと同じで、そのポイント数は少ない順に、両腕1ポイント、両脚2ポイント、背中が3ポイントで、胸が4ポイント、そして最も高いのが頭で、5ポイント。
もし、同点のまま10分過ぎてしまった場合はそのまま延長戦に入り、先にポイントを獲得した方の勝ちとなる。
受験者らが守るルールとしては、まず、攻撃は必ず擬似剣で行うこと。つまり、殴ったり蹴ったりはしちゃいけないってことだ。
それと、目を狙ってはいけないっていうルールもある。いくら刀身が柔らかいと言っても、ふにゃふにゃってわけじゃない。目を突けば、高確率で失明だ。
まぁ、あんまり頭に血を上らせないようにしろよってことだろうね。あくまで試験。喧嘩や殺し合いじゃあない。
冷静に、冷静に……。
「だああああぁぁぁぁぁっ!」
「やああああぁぁぁぁぁっ!」
剣を打ち込んでは離れ、移動し、また肉薄し、打ち込む。それの繰り返し。
フランカの攻撃は全て防いだり避けたりできてるんだけど、全然攻撃が当たらない!
「やるじゃん。フランカさん」
「ティナさんこそ。強いです」
そしてまた、大声をあげて衝突するのだった。
……この子が、こんなに強くなっているなんて思わなかった。きっと、私との訓練以外の時間も、死に物狂いでトレーニングしていたのだろう。
そういえば、私と同じ数のマッドマンを、私と同じようにいとも簡単に倒していたっけ。
もしかしたら、この子の実力は、私と同じかそれ以上……。
「うっ!」
フランカの一閃が、私の左腕を叩く。くそっ、油断した。私は慌てて後ろへ跳んで、間合いを取る。
「ててて……」
攻撃を受けた左腕が、じんじんする。刀身が柔らかくても、適度な硬度と弾力性のせいで、叩かれると結構痛いんだよね。そのうちアザだらけになりそう。
剣を握り直した時には、すでにフランカは目の前だ。私を射抜くその眼光は、鋭い。
一瞬、ひやりとした。
繰り出される、横薙ぎの一閃。
「このっ」
それを刀身で防いだ私は、直後に前進して一気に懐に入り込むと、そこから振り上げの一撃。
「あぅっ」
それはフランカの胸を滑る。そして、フランカが引き戻した剣の下をくぐると同時に、身体を捻って剣を突き出した。
「ひゃっ」
ぐにっと、切っ先がフランカの額を触れた。よし、届いた!
フランカが後ろへ跳ぶのと同時に、私も横へ跳ぶ。そうして再び間合いを取り、向い合って呼吸を整える。
「うぅ……」
悔しげに唸って、私を睨むフランカ。私はニッと口の端を上げて、同じくフランカを睨む。
「おーい、お前ら。もう10分経ってるぞ」
父の声が聞こえた気がするけど、そんなのどうでもいい。フランカも、父の声には全く動じていない。あくまで、その目は私を見ている。闘争心剥き出しの目だ。きっと私も、同じ目をしてると思う。
だって、まだまだ戦い足りないんだもん。
呼吸は整った。私たちは剣を握り直し、構える。
「おーい」
うるさいな。ここから面白くなるんだから、邪魔しないでよ、お父さん。
「いくよっ!」
「はいっ!」
そうして私たちは、その後も父の声を全て無視して、戦い続けた。
……冷静に? 無理だね。




