06-2
私たちが今まで利用していたスペースは、このバラルトの訓練施設全体の3分の2。
核に泥を触れさせることで復活するマッドマンのため、その3分の2には泥が固めて敷き詰められている。利用者も多いため、面積も広大だ。
そして私たちは、残りの3分の1にある別の訓練場に足を踏み入れた。
「ここが……」
長い通路の先にあった部屋の中、そこには、いくつもの“舞台”が並んでいた。
「よし、空いてるな。ティナ、フランカ。上がってこい」
先に舞台に上がった父に呼ばれ、私たちも舞台に上がる。
形は、おそらく正方形。大きさは、一辺10メートルあるかどうかってくらいかな。立ってみて分かったけど、結構狭い。
「お父さん。二次試験も、こんな感じの舞台の上で戦うの?」
聞いてみると、父は「ああ、そうだ」と言った。
「ちなみに、舞台の外に出たら減点だぞ」
……こんな狭い舞台の上で、1対1で剣を振り合う。攻撃、回避、移動、どれをするにも、相当注意して動かないと駄目だな。
「……」
運良く空いていたこの舞台以外は、全て使用中。舞台の上で戦う2人、そしてそれを周囲で見ている人たち。見渡せば、この部屋には多くの人間がいる。
おそらく、試験の時もこんな感じなんだろう。ここで訓練すれば、いい予行演習になりそうだ。
「ティナ。フランカ」
呼ばれて振り返ると、いつの間にか舞台を下りていた父が、何かを持ってこっちに歩いてくるところだった。歩み寄ると、父は私たちにそれを差し出した。
「こいつが、さっき言った擬似剣だ。持ってみろ」
父の左手にまとめて握られていたそれを、私たちはそっと手に取る。
「……軽い」
「それに刀身が、……柔らかいです」
感想を言い合ってから、父の顔を見る私とフランカ。
「軽いのはできる限り扱いやすくするためで、柔らかいのはできる限り怪我を防ぐためだ。俺の時はもう少し重くて固い素材だったが、随分安全になったもんだな」
昔を懐かしむように笑う父。
父は16歳の時に傭兵採用試験を受験した。そして、私も同じ道を通るんだ。
……なんだかすごく、今まで以上に頑張ろうって気持ちになった。
「よし。じゃあ今から、お前達たち敵同士だ」
父の言葉に、私たちは揃って「えっ?」と発した。
「何驚いてんだ。これは2人いなきゃやれない訓練だぞ。試験を受けるのはお前たちで、お前たちは2人だ。だったら、お前たちが戦うしかないだろ」
私とフランカは、静かに顔を見合わせた。
……フランカと、戦う? いや、でも、そうか。それしかない、……っていうか、それが一番いい。
フランカも同じ思いに至ったのか、口角を引き上げる。私も、きっと同じような顔をしてる。
「試験が始まるまで残り1ヶ月半。時間の許す限り、2人で戦うんだ。いいな」
父に向き直った私たちは、「はい!」と元気よく返事をして、一瞬注目を浴びた。
今から1ヶ月半、フランカは敵。フランカにとっては、私が敵だ。
望むところだ、やってやる!
狭い舞台の上、私とフランカは擬似剣を握り、向い合って構える。
……初めてなんじゃないだろうか。フランカにとって、人と対峙するのは。
私は、木刀を持って父と対峙した経験がある。でもきっと、フランカにはそれが無い。
だから、私とフランカでは、今感じている不安の大きさが違うはずだ。現に、私と対峙しているフランカの顔は、強張っている。余計な力が入っている証拠だ。
「……」
よし。こっちから攻めよう。二、三発受けさせれば、いつものリズムを取り戻せるはず。
「いきますっ!」
「――ぅえっ?」
さて突撃しますかと考えるより先に、フランカが駆け出す。そして一気に間合いを詰めると、剣を振り下ろしてきた。
「ちょっ……!」
慌てて剣を振り上げて受け止めるけど、体重が乗った攻撃の威力を抑えることはできず、弾かれてしまう。
「やぁっ!」
「うっ!」
弾かれた剣を戻すより先に声が発し、次いでぐねっとした衝撃が額を襲った。
「……ぁ?」
一瞬、何が何やらわからなかったけど、私目がけて腕を伸ばしているフランカ、そして、額に触れる弾力性のある感触に、全てを理解する。
やられた!
「ほぉ。やるじゃねぇか、フランカ」
「えへへへ」
父に褒められ、デレデレしながら後ろに下がるフランカ。
「おい、ティナ。ぼーっとしてんなよ」
「……う、うん」
どうやら、要らぬ心配だったようだ。この子は、緊張なんかしてない。
よぉし、だったら心置きなくやってやる!
「ごめん、フランカさん。ちょっと気を抜いてた。でも、もう大丈夫」
ぎゅっと剣を構える私に、「はい」と言って笑みを作るフランカ。その瞳はやる気に満ちて輝き、私の動きを注意深く観察している。
「いくよ!」
私の声が合図となり、全く同じタイミングで相手に向かって駆ける。あっという間に、フランカの顔が目の前に迫る。
そして私たちは、ほぼ同時に攻撃体勢に入り、ほぼ同時に剣を振った。




