06-1
前後左右をマッドマンに囲まれた状態で、私は剣を構える。
敵はいずれも、身体をぐねぐねさせて私の様子を窺っている感じだ。
……とっとと攻撃してこいってんだ。
「!」
私の気持ちが伝わったのか、4体のマッドマンはほぼ同時に攻撃を仕掛けてきた。
私目がけて伸ばされた4本の腕を、瞬時にしゃがんで躱し、その体勢のまま地を蹴って前へ。そして、左斜め下に構えた剣を振り上げる。
ずばっとマッドマンの胴体が斜めに両断され、地面に落下。でも、首の核を破壊しない限り、こいつは死なない。二つになったマッドマンは、すぐに身体を再生しようと蠢くけど、そうはさせない。
剣を引き戻し、地面に横たわるマッドマンの半身、その首もとに上から剣を突き刺す。うまく首の中心を貫いた剣を引き抜くと同時に、マッドマンの身体はどろりと崩壊した。
あと、3体。
背に当たる音だけを頼りに、私は再び身を低くし、直後上を通り過ぎたマッドマンの腕を冷静に眺める。不安定な体勢のまま身を翻し、伸びきった腕をかいくぐりつつ剣を振れば、その腕はバラバラだ。
次に、攻撃を仕掛けてきた向かって左の奴ではなく、右の奴に狙いを定める。そいつは今まさに腕を伸ばそうとしているところで、私が駆け出すと同時に左右両方の腕を一気に伸ばしてきた。
「よっ」
少しでもタイミングをずらせばまだ芸があったんだけどね。同じタイミングで放たれた攻撃など、何も怖くはない。
軽く右へ跳んでやりすごし、速度を上げて敵の懐に潜り込み、首へ一閃。そいつの身体が崩れ始めた時にはすでに、次の敵へ駆けている。
遅すぎる。
私の接近に反応して腕を伸ばしてくるけど、避けるまでもない。もうこいつらじゃ、訓練にはならない。
宙を首が舞い、大地に残った肉体と同時にぐちゃりと崩れて落ちる。
あと、1体。
伸ばされる腕。左も右も斬りまくってやる。しかし、それでも怯むことすらできない哀れな泥人形の首に、走る速度を乗せた刺突を食らわす。刀身は根本まで潜り込み後ろへ貫通し、マッドマンの身体は泥に還った。
……遅いし、弱い。1ヶ月前は3体相手で息が上がっていたのに、今は4体同時でも、身体が少し温まる程度だ。
「……」
数メートル離れたところにいる少女に目をやる。彼女もまた、私同様、軽々と4体のマッドマンを屠って立ち尽くしていた。
「よぉし、よくやった。2人とも、外に出ろ」
呼ばれ、私とフランカは剣を鞘に収めて、フェンスの向こう側で待つ父のもとへ向かう。
そこには、フランカの護衛、レオーネの姿もある。
私と父が、フランカに会うために修道院へ行ったあの日以来、フランカはずっとレオーネを説得し続けてきた。
だけど結局、レオーネがフランカの決意を認めることはなかったそうだ。
それでも彼は、あれ以来ずっと、私たちの訓練に同行している。そして、特に何を言うでもなく、フランカの戦いぶりを眺め続けているんだ。
だからきっと、心の中ではフランカの意志を受け入れているんだろうと私は思う。意地を張っているのか、口に出しては言わないけど。
あからさまに反対しなくなったのが、その証拠だろうな。
「もう、マッドマンじゃ相手にならんな」
訓練場の外、階段に座って休む私とフランカに対し、父はそう言った。
私は、もちろん同意見。フランカも同じことを考えているだろう。
「……そろそろ、試験を想定した訓練に切り替えるか」
「試験を想定した訓練?」
私が問うと、父は「ああ」と頷く。
「でも、確か一次試験って、身体能力とか筋力とかを見るんだよね? だったら、私たち毎日やってるじゃん。それとも、何か特別なことをやるの?」
すると父は、「いいや」と首を振る。
「一次試験のことはいい。今のお前たちなら、余裕で通過できるだろうからな」
「え、そうなの?」
「俺が鍛えてやってんだ。当たり前だろ」
父は自信に満ちた笑みを見せる。私はフランカと顔を見合わせて、笑った。
「だから、やるのはその先、二次試験のための特訓だ」
「二次試験……」
確か、二次試験は対人戦、……だったよね。
「もうお前達も知ってると思うが、二次試験では受験者同士で剣を交えることになる。剣と言っても、さすがに本物は使わないが。……あの試験は特殊だからな、今のうちに戦い方を覚えておいた方がいい」
「特殊?」
首を傾げる私たちに、父は「ああ」と言って、説明を始める。
「特別な樹脂で作られた擬似剣を武器とし、相手の頭、両腕、胸、背中、両脚の7箇所を狙う。その7箇所のどこでもいい、当てれば当てた奴のポイントになる。そうして、制限時間内にどれだけのポイントを稼げるかを競うんだ」
簡単そうだけど、攻撃の有効箇所が限定されているとなると、結構面倒かも。
「制限時間は確か、俺の時は1試合10分だったかな。今は知らんが、おそらく変わってないだろう。それから、獲得できるポイントは攻撃箇所によって違うはずだ。両腕が一番ポイントが低くて、次いで両脚、背中、胸、頭の順にポイントが高くなるはず」
そこまで説明して、父は私とフランカの方を向いた。そして、訓練場を指差して見せる。
「いろいろと聞きたいことはあるだろうが、実際にやってみるのが一番いい。とにかく実戦あるのみだ。行くぞ」
「え? ここでできるの?」
すたすたと階段を上っていく父の背中に、声をぶつける。父は振り返らずに、「できるから行くんだろ」とだけ答えて階段を上り終えた。
そして、立ち上がった私たちを振り返る。
「ほれ、行くぞ。ぐずぐずすんな」
そう言って訓練場に入っていく父を見て、私とフランカは顔を見合わせる。そして頷き合い、父の後を追って階段を駆け上がる。
その後ろを、レオーネが無言でついてきていた。




