表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マーセナリーガール -傭兵採用試験-  作者: 海野ゆーひ
第05話「決意と理由」
PR
21/106

05-4

 レオーネ・オルドイーニ。フランカより3つ年上の、19歳の青年。

 城では、フランカ専属の護衛を務めていたらしい。


「レオーネのこと、どうかお許し下さい」

「んー? いや、許すも何も、別に怒ってないし」


 私とフランカは、修道院の庭にある噴水の縁に並んで腰掛けている。水は止められているようなので、このままうっかり後ろに倒れても濡れることはない。



 あの後、外の空気でも吸いに行こうと父が提案し、私たちはそれに乗った。その父は、修道院から出る前にジゼルに呼び止められ、彼女と共にどこかへ行ってしまったけど。



「でも、びっくりしたよ。いきなりだったからさ」

「……ごめんなさい」

「いいって。あの人の言ったこと、結構正しいと思うし」

 そう言ってフランカを見ると、そこには不満げな顔があった。


「……私は、傭兵を目指すのをやめたりはしません」

「ああ、ごめん。そうじゃなくて、あの人の立場だったら、ああいうのが当然なんだろうなって思っただけ。私個人としては、このままフランカさんと試験に向けて特訓したいし、一緒に傭兵を目指したいと思ってるよ」

 フランカの顔から不満の色が消え、いつもの微笑みが帰ってきた。


「……レオーネが、私のことを思ってああ言ってくれたのはわかっているんです。でも、私はそれをそのまま受け入れるわけにはいかなくて、いつも衝突してしまうんです」

 そこで言葉を切り、フランカは周囲を見渡す。


 さっきまで見かけなかった修道女たちが、今は庭のあちこちにいる。フランカを見つけて、彼女に手を振る修道女も何人かいた。


「あの人たちは、フランカさんのことを知っているの?」

 手を振り返してから、フランカは「いいえ」と首を振る。


「私の素性を知っているのは、院長と、あとは私の使用人だけです。ほかの方々には、ファミリアの襲撃で家を失い、院長を頼ってここに来た、院長の知り合いということになっています」

「ふぅん」

 なるほど。あの嘘は使い慣れたものだったわけね。


「……あ、そういえばさ、まだフランカさんが傭兵を目指す理由を聞いてなかったね」

 さっきは、邪魔が入っちゃったし。


「気になりますか?」

 そう問うフランカに対し、私は「まぁね」と笑う。


 そりゃ気になるよ。今は逃走中の身とはいえ、ずっと王女として暮らしていた人が、いきなり傭兵だよ? どうしてそんな発想に至ったのかが謎すぎるでしょ。

 まさか、……いや、とりあえず話を聞いてみよう。


「……クレイグ様に、話しますか?」

「え? まぁ、そのつもりだけど」

 するとフランカは、私から視線を外して俯く。頬は、赤い。


 こりゃあ、私の予想通りかもな。


「もしかしてさ、私のお父さんに憧れたから、とか? フランカさん、お父さんのことが書かれた新聞記事とか集めてたって言ってたし」

 顔を覗き込みながら聞いてみると、フランカはもじもじしながら「……はい」と細い声を発した。


 やっぱり、ね。


「そんなに照れることないじゃん。私、嬉しいよ。自分の父親に憧れて傭兵を目指す人がいるっていうのはさ、誇らしいもん。お父さんも、きっと喜ぶと思う」

 フランカはバッと顔を上げ、まだちょっと照れ臭そうな顔で「本当ですか?」と聞いてきた。私が「うん」と頷くと、フランカは嬉しそうに微笑む。


 ……可愛いな、この人。


 父に憧れて傭兵を目指した人は、今までも結構いたんだろう。

 でも、父が引退してからはそういう話は聞かなくなり、父もあんなことになってたから、それでも変わらず父に憧れ続けてくれる人がいたっていう事実は、単純に嬉しい。


 ……まぁ、さすがに飲んだくれになってたということを知っているのは、一部の人だけだろうけどさ。

 でもきっと、フランカにそのことを話しても、この子の気持ちは変わらない気がする。

 なんとなくだけど、そんな気がするんだ。


「でも、傭兵を目指すとなるとさ、やっぱ人の多いところに行かなくちゃいけないし、その、……怖くないの? レオーネさんも言ってたじゃん。城の人に見つかったらどうするんだって」

 フランカの顔から笑みが消え、再び不満が滲み出て、口が尖る。


「そんなに心配することないと思うんです。王女が行方不明になったら、すぐに王国騎士団が捜索に出るはずですし、新聞などでも大々的に報じられるはずでしょう? でも、あれから4ヶ月経った今でも、そのどちらも無いんですから」

 ……確かに、王女が城から脱走したなんてこと、今日まで全然知らなかった。


 言われてみれば、妙だな。普通、子供が行方不明になったら、親は必死になって探すはず。だけど、そんな気配が全く無いってことは、……もしかして、探してない?


「やっぱりお父様は、私がいなくなったことをどうとも思われていないのです。好きにしろということなのでしょう」

 そう言うフランカの横顔は、少し寂しげだった。


「ですから、私は好きにすることにしたのです」

 そう言って噴水の縁から下りたフランカは、くるりとこちらに振り返る。ふわふわの髪が、優雅になびいた。


「私、必ずレオーネを説得します。いえ、説得できなくても、私は今まで通り、傭兵を目指し続けます」

 父親に対し、意地を張っているように見えなくもない。だけど、それは彼女の決意。尊重するべきだと思う。


「ティナさん。これからも私と一緒に、訓練してくれますか?」

 噴水の縁から下りた私は、フランカと向かい合う。その瞳を、じっと見つめる。


「もちろん。これからも頑張ろう、フランカさん」

 そう言って、右手を差し出す。その手を、フランカはそっと握ってきた。


「ありがとう。……よろしくお願いします、ティナさん」

「こちらこそ、よろしくね。フランカさん」

 そうして私達は、笑い合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ