03-3
頑丈そうな鉄扉の向こうには、これまた丈夫そうな鉄のフェンス。そのフェンスの網目の向こう側に、その光景はあった。
剣を持った人たちが、ぐねぐねと蠢く土色の化け物相手に戦っている。
50人以上はいる剣士たちに対し、その化け物はざっと見ただけでも倍以上はいると分かる。
化け物たちは、腕を伸ばしたり振り回したりして、剣士らに襲い掛かる。それらの攻撃を、剣士たちは斬ったり弾いたり躱したりして対処していた。それが、この閉ざされた空間のそこかしこで行われている。
壁とフェンスの間にはちょっとした距離があり、ずっと向こうまで続く通路になっている。おそらく、ぐるりと一周しているんだろう。
見れば、ところどころに長椅子がいくつか設置されていて、フェンスの向こう側で戦う剣士に向けて声を荒らげたり、声援を送ったりしている人たちの姿がある。
「この向こう側に入れるのは、武器を持っている者だけだ。俺は持ってきてないから、お前1人で入れよ」
「えっ?」
振り返ると、口の端を吊り上げた父の顔があった。
「何驚いてんだ、そのために来たんだろうが。心配すんな。ここにいるファミリア相手に殺されることはねぇから。だが、油断すんなよ?」
確かに、私の腰には父からプレゼントされた剣がある。そして、ここにファミリアと戦うために来たんだってことは、充分に理解してるよ。
……けど、急激に恐怖が湧き出してきた。
そんな私の気持ちなど知らず、父は私の背中をぽんと叩く。
「ほれ、行ってこい。時間を無駄にすんな」
「……うん」
やるしか、ないよね。
係員にフェンスの戸を開けてもらい、中に入る。
「……」
遮る物がなくなっただけで、こんなに見える光景が違ってくるなんて。
目の前で、左で右で、戦いが繰り広げられている。思わず、「お父さん」と呟き後ろを振り返った。
「あいつらは、練習用に協会が用意したマッドマンって名前のファミリアだ。その身体を構成している核を破壊しない限り、腕を斬ろうが頭を斬ろうがすぐに復活するぞ」
い、いやいや、そんな説明が欲しいんじゃないよぉ。
「移動はほとんどしないし、攻撃も遅い。今のお前なら楽に対処できるはずだ。斬っても斬っても復活するから、訓練には持ってこいのファミリアだぞ。……お、来た来た」
「えっ」
振り返ると、地面がもぞもぞと蠢き、すぐにぐにゃ~んと盛り上がったかと思うと、両目と口と思しき凹みが頭部らしき場所に生まれ、次いでぐにゃぐにゃの両腕が胴体から生えてきた。
「ぼさっとするな。さっさと剣を抜け」
「はっ、はい!」
私は慌てて剣を抜き、マッドマンに向けて構える。心臓の鼓動が激しい。激しすぎて、苦しい。呼吸が自然に荒くなっていく。まだ何もしていないのに、疲れてきた。
「来るぞ!」
「――!」
父が声を発した直後、ぐにゃっとしなったマッドマンの右腕が、ぐんっと私目がけて伸びてきた。
「わっ!」
横に跳んだ直後、私の横をマッドマンの腕が通っていく。……ギリギリだ。危なかった。
「ティナ! どこ見てんだ!」
「えっ」
ぐにゃっという音が聞こえた時には、もう遅かった。敵の方に向き直るのとほぼ同時に、マッドマンの左腕が伸び――
「がっ……」
額に強烈な衝撃、そして激痛。
自分の身体が後ろに倒れていくのを感じながら、そこで私の意識は暗転した。
「……ん」
目を覚ますと、薄灰色の天井。そして、薬っぽい臭いが鼻を突き、それから、自分がベッドに寝かされていることに気付く。
「……いたた」
身体を起こすと、額がズキッとした。触れてみると、ちょっと膨らんでいるのが分かる。
「……」
そうして、マッドマンの攻撃を食らったことを思い出した。
「おう、気がついたか」
「……お父さん」
ベッドの周囲を覆う白いカーテンを開き、父が姿を現した。父は椅子を持ってきて、ベッドの横に腰掛ける。
「お父さん。ここはどこ?」
「ん? ああ、さっき俺達がいた訓練場の近くの医務室だ」
父の話によると、私はマッドマンのパンチをきれいにもらって気絶したらしい。気絶とたんこぶだけで済んだのは、マッドマンが殺傷能力の低い、弱いファミリアだったからに他ならない。
もう少し強いファミリアだったら、私は確実に重傷、もしくは死んでいただろう。
「まだ痛むか?」
父は私の額を見てちょっと笑ってる。あんまり心配はしていないようだ。
まぁ、こんな負傷で大袈裟に心配されても、それはそれで鬱陶しいだけだからいいけど。
「大丈夫だよ。……ねぇ、お父さん。まだあそこ入れるよね?」
このまま終わるなんて冗談じゃない。
「ああ、もちろん。今日1日は出入り自由だからな」
「じゃあ、行こう。今度はもう油断しないから」
そう言ってベッドから下りる私に、父は「その意気だ」と立ち上がった。
とにかく、まずは確実にマッドマンを倒せるようになろう。
……あ~っ、悔しい。絶対叩き斬ってやるんだから!




