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03-4

「お願いします!」

 そう言って、私は剣を構える。


 係員は、「行くよ」と赤く小さな球を私の前に放る。ややあって、その赤い球はずぶっと地面に潜り込んでいき、数秒の後にその場所が盛り上がる。


「……」

 目の前で、マッドマンが生まれつつある。


 さっき係員が投げたのは、マッドマンの核だ。それが地面の土を吸収して、ファミリアとしての生を受けるというわけ。


 誕生したマッドマンは、すぐさま眼前にいる私を敵と認識し、攻撃に移る。こいつの攻撃方法は、伸ばした腕によるパンチのみ。

 もう、さっきみたいなヘマはしない!


 マッドマンが身体を捻って右腕を構えるのを見ながら、私は駆け出す。

 直後、風切り音を帯びたパンチが繰り出されるけど、私は走りながらわずかに横にステップしてそれを躱し、スピードを上げる。そして一気に敵の懐に潜り込むと、横に構えていた剣で一閃。


 ぐにっと弾力のあるマッドマンの胴体に、刀身がずぶっと入っていくけど、両断するところまで行かない。いや、行けない。

 単純に腕力が足りないんだ。剣を振る速度にも、敵の肉体を斬るのにも、腕力が関係している。


 胴を半ばまで斬られて痛いのかなんなのか、マッドマンは身体を大きくうねらせ始めた。

 急いで剣を引き抜き、後ろに跳んで間合いを取る。


「止まるな! 後ろに回り込め!」

 背中に、父の言葉が衝突する。私はすぐに足を動かし、マッドマンの向かって右側から背後に回り込む。


 そして、私の動きに反応して振り返ろうと蠢いているマッドマンに近づき、今度は首らしき部分に剣閃を吸い込ませた。

 身体の捻りから生み出される勢いを借りたその一撃は、マッドマンの首をすぱっと斬り飛ばし、宙を舞った頭部は地面に落ちて土に還った。


 直後、残された胴体もどろりと溶けるように普通の土に戻っていく。

 うまく、核を破壊できたようだ。


「よぉし、よくやった」

 嬉しそうな父の声に、私は父を振り返って笑顔を返す。


 けれど、直後に「じゃあ、次は2体同時に相手してみろ」という言葉をかけられ、私の笑顔は霧散した。

 ……余韻も何も、ありゃしない。




 係員が2つの核を投げ、私の前に2体のマッドマンが現れる。


 弱いファミリアには、自分の生命を維持するための必要最低限の知能と、殺人衝動しか無いと聞いたことがある。

 だからこいつらは、複数体いたとしても、戦闘中に連携を取ったりはしない。ただ、目の前の敵を攻撃し続けるだけだ。


 2体のマッドマンは、ほぼ同時に攻撃動作に入った。向かって左の奴が左腕、右の奴が右腕を伸ばす準備をする。そして、私の近くにいるのは、向かって左の奴だ。


 ――だったら、どうするかは決まってる。


 地を蹴り、向かって左のマッドマンに向かう。と同時に、そいつが左腕を伸ばしてきた。

 なかなかいいタイミングだ。私は頭を下げて体勢低くそのパンチを躱す。

 直後、向かって右にいたマッドマンが、こちらに向けて右腕を伸ばしてきた。


 が、すでに私はそいつの隣にいるマッドマンの影に入っている。標的を見失った右腕は、隣にいたマッドマンに直撃し、その衝撃で身体が揺らぐ。


 2体のマッドマンがバランスを崩したのを確認し、攻撃に転ずる。


 敵の影から飛び出し、まずは私の盾になってくれたマッドマンの背後に回り込み、斜め下から振り上げの一閃。戻しかけだった左腕から頭部にかけてを斬るつもりだったけど、やっぱり途中で止まっちゃう。

 剣を引き抜き、瞬時に身体を回転させて勢いをつけ、今度は首だけを真っ二つにした。


 崩れゆくマッドマンから離れ、もう1体を見やる。そいつはすでに、伸ばした右腕を戻していたけど、まだ私の方を向いていない。

 そして、それを待ってやるつもりは無い。


 剣を構えて走り、そいつがこちらに身体を向けるのと同時に跳び上がって、頭上に振り上げた剣を、身体を反った勢いと落ちる勢いを乗せて一気に振り下ろす。

 全体重を乗せた袈裟懸けの一撃は、そいつの頭部からめり込み、ずばっと右横腹から抜けた。


 両断した部位がそのまま後ろに落下するけど、こいつはまだ死んでない。着地した私は、すぐに体勢を整えて剣を振り上げ、じたばたしているマッドマンの首を貫く。

 そいつは絶命し、ぐにゃりと溶けて消えた。


 呼吸を整え、父の方を向く。手招きしていたので、剣を鞘に収めて父のもとへ。


「なかなかいい戦いだったぞ。ちゃんと足も使えていたし、敵の攻撃を利用する判断も良かった」

 父の褒め言葉は嬉しかったけど、自分の戦いぶりにやや不安は残る。


「……ただ、やっぱり攻撃の威力が足りないな。身体の捻りや体重を乗せないと、まともに敵の身体を斬れないってのは、ファミリアとの戦闘においては致命的だ。威力を上げるためのそれらの動きのせいで、隙も大きくなるしな」

「うん……」

 全部、分かってる。だけど、そんなのすぐにどうこうできるものじゃないことも分かってる。


 それより、父がちゃんと私を理解してくれていることが、嬉しかった。


「どうした、ティナ」

「え? ううん」

 無意識に笑っていたみたいだ。私はすぐに笑みを抑え、係員に「次、お願いします」と言って、父に背を向ける。


「休憩しなくていいのか?」

 父の問いに、私は振り返らない。


「大丈夫。それより、もっともっと戦って、早く慣れたいんだ」

 土が盛り上がり、ファミリアが2体形成されていく。


 剣を構える私の後ろで、「そうか。頑張れ」と呟く声が聞こえた。

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