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03-2

 モンテスの南東へ汽車で1時間ほど行ったところに、バラルトという名の街がある。


 名前は聞いたことがあるけど、今まで一度も訪れたことは無い。

 父の話では、このバラルトに、ファミリアと好きなだけ戦える施設があるらしい。それと、そういった施設がある街は、国中に幾つかあるらしいことも聞いた。


 その話を聞いて1週間後の休日、私は父と共に汽車に乗り、バラルトへ向かった。




 そこは、街と言うより、“檻”と呼んだ方が適切なんじゃないかと感じる場所だった。


 汽車に乗っている時から見えていたのは、広大な敷地と、その外周をぐるりと取り囲む、堅牢そうな鈍色の壁。その中がどうなっているのかは、駅を出てからも分からないままだ。


 駅前にはいくつか建物が並んでいるけど、それは全て傭兵のために協会が用意したものだと父は言った。


「協会……」



 ほぼ全ての傭兵は、傭兵支援協会という組織に属している。


 傭兵採用試験を主催しているのもこの組織で、試験に合格して傭兵になると、自動的に協会に所属することになる。


 全ての傭兵の情報を管理しており、また、協会に入った国民からの依頼を、仕事として傭兵達に斡旋する役割も担っている。


 それに加え、大体の傭兵の動向や、居場所までをも把握しているらしい。そのために、国中に協会員が配置されているとか。

 ……それだけ聞くと、なんか怖いね。



「ここは、傭兵を目指す者たちのためだけに作られた街だ。雑貨店や食堂、それと長期滞在者のための宿泊施設もある」

 父は私の少し前を歩きながら、この街の説明を続ける。


 道行く人は、そのほとんどが帯剣している。おそらく彼らも、私と同じように傭兵を目指している人達なんだろう。


「本音を言えば、長期間この街に留まってお前に経験を積ませたいところだが、スヴェンたちを放っておくわけにはいかねぇし、お前も学校があるしな」


 速度を上げて父の隣に並び、「私は、1人でここに残ってもいいよ」と軽い気持ちで言ってみた。

 すると父は、やや強い口調で「駄目だ」と首を横に振る。


「今言ったろ、お前には学校があるって。まさか、休ませてとか言うつもりじゃないだろうな」

 目を細める父に、私は「冗談だよ」と弁解。


「ちょっと言ってみただけ。ちゃんと通うって」

 ……正直、そこまで律儀に通う必要は無いと思ってる。ミドルスクールには落第とか無いし、何もしなくても勝手に進級できるもん。


 学校に通わないことで生じる問題と言えば、授業についていけなくなるってことくらいじゃないかと思う。

 あとは、……友達が作れない、とか? まぁ、私には縁の無い話だ。


「でもさぁ、傭兵になったら行かなくてもいいよね? さすがに、勉強と仕事の両立は難しいだろうし」

 それを聞いた途端、父は足を止め、口を歪めた顔で私を見る。


「ティナ。お前は、今度の試験で絶対合格できると思っているのか?」

「え……」

 それって、もしかしたら駄目かもしれないと思ってるってこと、……だよね?


 なんか、ショック……。


「もちろん、一発で合格するのが一番いいに決まってる。それが理想だ。だがな、試験に合格するってのは、そう簡単なことじゃない。訓練を始めて2ヶ月くらい経ったが、それでもまだお前の実力じゃあ合格は不可能だ。一次試験すら、突破できるか怪しいところだろう。……お前の実力は、まだまだその程度なんだ」


 何かが、グサグサと胸に突き刺さる。そんな気分だった。


「試験までの残り3ヶ月ちょいで、確実に最終試験まで進めるくらいにまで鍛え上げてやるつもりではいる。だが、キツイ訓練を積んでくるのは、お前だけじゃあないんだぞ。ほかの受験者も、お前と同じかそれ以上の鍛え方をしてくると思え」


「……」

 私は、ただ黙って父の言葉を聞くだけだ。何も言い返せない。


 ショックだけど、父が言うんだから、それが真実なんだろうって思うんだ。


「分かってるよ、お父さん。ごめん、変なこと言って」

 私は父から目を逸らし、歩を再開する。父はすぐに追いついてきた。


「……キツイこと言っておいてなんだが、そんな顔すんな。言ったろ、全部叩き込んでやるって。今のところ、お前はよくやってるよ。だが、まだまだ足りないものがたくさんあって、試験で通用するレベルじゃないってだけの話だ。大丈夫。ここで経験を積めば、必ず大きく飛躍できる。俺を信じろ」

 歩きながら、父と目を合わせる。そして、頷く。


「うん、信じてる」

 そうだ。私は信じるしかないんだ。信じて、父の言う通りにするしかない。


 それに、絶対に合格してやるって気持ちは揺らいでない。

 ……よし。まずは、やっぱり父に認められることを目標にやっていこう。




 鈍色の高い壁に覆われた施設へ入るのには、お金がいる。利用者はもちろん、付き添いもちゃんと入場料を払わなければならない。2人合わせて、うちの食費1日分程度。


 ……結構かかるなぁ。これじゃあ、そんなに頻繁には来られないんじゃない? スヴェンたちを放っておけないとか、学校があるとか、それ以前の問題じゃんか。

 先に言ってよね、こういうことはさ。


 入場料を払うと、利用許可証がもらえる。手の平サイズの黄色いカードだ。

 これを持っていれば、今日1日は入退場自由になるらしい。


 受付の奥に進むと、頑丈そうな鉄扉の前に着く。その横にいた係員が、「どうぞ」と扉を開けてくれた。


 そして私は、そこに広がっていた光景に、思わず息を呑んだ。

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