第25話 この理不尽な状況、完全にホラーゲームじゃねえか!(第2部)
部屋の空気は張り詰めていた。彼らの人生において最も長く、そして(笑えない冗談抜きで)首の皮一枚で繋がっている数分間だった。
エリザベスはゆっくりと、マイクが身を潜めているテーブルへと歩み寄り――その上に腰を下ろした。
テーブルの下で息を殺すマイクの視界には、彼女の美しい脚がブラブラと揺れているのが見えた。
『健全なる精神は健全なる肉体に宿る! 健全なる精神は健全なる肉体に宿る! パーティーの生存が最優先! パーティーの生存が最優先だ!』
マイクはひたすらお経のように心の中で唱え続けた。
数秒後、エリザベスはテーブルから立ち上がった。今度はソファへと近づき、冷たく退屈そうな表情でどかっと腰を下ろした。
「おかしいですわね……確かにここに4人の気配を感じたはずなのに」
彼女は小さくため息をついた。自分の直感が外れたことに少し落胆しているようだったが、実際には彼女の直感は1ミリも狂っていなかった。
『父さん、母さん。俺をこんなに小柄に産んでくれてありがとう。もし俺が175センチもあったら、とっくにバレてたよ。マジでありがとう、父さん、母さん』
掛け布団の下で、イツロウはただひたすらに両親に感謝していた。
エリザベスの視点からすれば、掛け布団が不自然に盛り上がっているその部分は、ただの大きなクッションが隠れているようにしか見えなかった。
一方、家具の裏に張り付いているエドワードからは、何も見えなかった。
『音さえ立てなけりゃ、バレるこたぁねえ……。それにしても、あいつ、俺たちを捜すのを完全に楽しんでやがるな……。とにかく、動かなきゃいいんだ。俺の魔力量がクソ雑魚なおかげで、あいつのレーダーにも引っかからねぇ。この低燃費ボディに感謝だな……』
エリザベスがソファから立ち上がった。その時、部屋の中央から微かに、すすり泣く声が聞こえてきた。
「また、全部台無しにしてしまいましたわ……私って、一体何がいけないのかしら? 社会から見放されたような方々にさえ、また……拒絶されてしまうなんて」
『可哀想に……もし俺たちがここまでクズじゃなかったら、今すぐ隠れ場所から飛び出して慰めてやってたかもしれないな』
「マイクさんと遊ぶことも、もうできませんのね……。彼が村の他の女性たちにするように、私にもひどい扱いをしてくれるおかげで……私、自分が『普通の女の子』になれたような気がして嬉しかったのに……」
……。
3人のバカたちの思考が、完全に停止した。
「イツロウさんは、ほんの少ししかお会いしていませんけれど、あれが彼の本来の性質だから逃げただけですわ……。私のことを恐れて、無理に自分を取り繕ったりしなかった。普段通りの、あの態度で接してくれましたの」
エリザベスの震える声に、3人は完全に言葉を失った。
彼女はついにその場にへたり込み、自分の両肩を抱きしめながら、ひどく思い詰めた様子で泣き崩れてしまった。
「そして最後に……私の可愛くて優しい弟。ほんっとうに豚のような性格で、自己顕示欲の塊で、想像もつかないような欠点だらけですけれど……彼は私を『怪物』扱いしませんでしたわ。私がしたことに対して『平気だ』なんて嘘もつきませんでした。彼は私に、最も人間らしい反応を返してくれた……。それなのに、またしても私が全部、ぶち壊してしまいましたのよ!」
エリザベスは堪えきれず、手の甲で涙を拭いながら号泣し始めた。
領主は今すぐ飛び出して娘を慰めたかった……が、彼自身も娘が恐ろしすぎて動けなかった。
彼女から放たれる感情の波が部屋の空気を窒息しそうなほど重くしており、彼は『呼吸するだけで見つかって殺されるんじゃないか』と本気で怯えていたのだ。
しかし、マイクとエドワードの二人はというと――必死に歯を食いしばっていた。この二人は、ただ単に『爆笑するのを堪えるため』に全力を尽くしていたのだ。
『プッ……』
掛け布団の下から、微かに吹き出すような音が漏れた。
エリザベスの泣き声がピタリと止まった。
彼女は最後の涙を拭うと、今聞こえた音の正体を探るように怪訝な顔で眉をひそめた……。
次の瞬間、目にも留まらぬ超絶スピードで彼女が動いた。その移動だけで発生した突風が、ソファの掛け布団を勢いよく吹き飛ばした!
そこには、イツロウの姿があった。
「あー……気にしないでくれ。ちょっとトイレを探してただけなんだ……」
純粋に不思議そうなエリザベスの視線を浴びながら、イツロウは滝のような冷や汗を流し、枯れ葉のようにガタガタと震え――そして、完全に股間を濡らしていた。
しかし、エリザベスはなぜかポッと頬を染め、とてつもなく愛らしい表情を浮かべていた。彼女の頭の中には無数のハテナが浮かんでおり、ただ純粋に驚いていたのだ。
「イ、イツロウさん……?」
彼女の口から出たのは、思いがけないほど優しく、そして戸惑いに満ちた声だった。
依然として隠れ続けている二人は、この状況を全く別のベクトルで受け取っていた……。彼らはさらに息を潜め、完全に気配を消した。
『悪ぃな、イツロウ。パーティーのために、お前はここで尊い犠牲になってくれ……』
部屋の静寂は、恐怖で顔を引きつらせるイツロウを見つめながら、どんどん顔を赤くしていくエリザベスの荒い息遣いだけによって破られていた。
そして、長い沈黙の後――
「おいお前ら、どうやら見つかっちまったみたいだぞ」
「「はぁッ!?」」
エリザベスは目を丸くした。イツロウの突然の言葉に、彼女はさらに困惑した。
「お前ら……? まさか、マイクさんとエドワードさんもいらっしゃるのですか!?」
『このクソ裏切り者がァァァ!!!』
「ああ、マイクはそこのテーブルの裏に蜘蛛みたいに張り付いてるし、エドワードはその家具の真裏だ。いいぞお前ら、もう隠れなくていい。完全にバレちまったからな……」
エリザベスが家具の方へ振り向こうとしたその瞬間、エドワードがノーモーションで飛び出し、イツロウをビシィッと指差した。
あまりにもシュールな光景に、エリザベスは思わず「ヒュッ」と変な声を出してしまった。
「この人間のクズが! なんで俺たちまで売ってんだよ!!」
「えっ、俺のせいか!? 残念ながら、俺たちは揃いも揃って素人みたいに完全包囲されてたんだよ!」
「どこが『俺たち』なんだよ!? ふざけんな!」
マイクもテーブルの下から這い出してきた。これまでの隠密努力が全て水の泡になり、完全にウンザリした顔をしていた……。
『はぁ……あの日和見主義者のせいで、俺たち全員ここで仲良くお陀仏か……。ま、死ぬ前にエリザベスちゃんの美貌を拝めただけマシとするか』
マイクは心の中でそう結論づけた。
「あ、あ、あなたたち……こんな所で一体何をしていますの!? きゃっ!」
「何って、決まってんだろ。お前から隠れてたんだよ」
エドワードが至極当然のように言い放った。
エリザベスの限界が突破した。彼女は真っ白だった肌を、恥ずかしさでトマトのように真っ赤に染め上げていた。
『さっきの私の本音、全部聞かれてましたの!? 恥ずかしすぎますわ!! でも、少し嬉しいような……いや、やっぱり死ぬほど恥ずかしいですわ!!!』
エリザベスは内心でパニックに陥っていた。
一方、領主は目の前で繰り広げられた惨状に、まだショックから抜け出せずにいた。このグループに関する最悪な噂が、たった今、彼の目の前で見事に証明されたのだ。
しかし同時に、この無能集団が屋敷に来てからというもの、娘が今まで見たこともないほど生き生きとしている事実を喜びもしていた。
「ナハトヴァルト卿。あんたも出てきていいぜ、完全にバレちまったからな!」
エドワードが余計な一言を付け足した。
『こ、このクソガキィィィ!!!』
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