第25話 この理不尽な状況、完全にホラーゲームじゃねえか!(第1部)
「よし、契約を破棄して、ついでにここから一刻も早くトンズラさせてもらうぜ」
「え、えっ? し、しかしお友達は……? 見捨てるおつもりで?」
「ああ、それが俺のパーフェクトな作戦だ」
エドワードのあまりにも直球なクズ発言に、領主はポカンと口を開け、その男気の無さに完全にフリーズした。
冗談かどうかを聞き返すことすら躊躇われた。
「おいおいエドワード! 俺がエリザベスちゃんと事に及ぶのを拒否したのは、サンズがいないからだってのに!」
「現実を見ろ、マイク……。あいつは十中八九死んでるか、あのイカレ女と一緒に閉じ込められてる。もし俺に助ける力があるなら、とっくの昔にやってるに決まってんだろ!」
冷酷な作戦とは裏腹に、エドワードの言葉からはどうしようもない無力感が滲み出ていた。
友の悲痛な叫びを聞き、マイクでさえ悔しそうに拳をギリィッと握りしめた。
「『ナンバー7』の時のようにやってみるのはどうだ? 俺がスキル『天の呼び声』でお前らにバフをかける。そうすりゃ、エリザベスとも互角に戦えるんじゃないか、エドワード?」
「限りなくゼロに近いな……。サンズも、あいつの底なしの魔力をチューチュー吸い取るためのタリスマンも無い今、強力な攻撃をブッ放すなんて物理的に不可能だ……」
状況は絶望的だった。システムのエラーのような規格外のバケモノを相手に、あの手この手の卑怯な戦法を編み出してきた3人の悪知恵をもってしても、今回ばかりは打つ手がなかった。
この理不尽なファンタジー世界にやって来て初めて、彼らはついに『厳しい現実』を受け入れようとしていた……。
そんな中、豪華なソファの背もたれにへたり込んでいる領主の元へ、ゆっくりと近づく足音があった。
「ナハトヴァルト卿。あんたに一つ聞きたいことがある」
「は、はい。何でしょう?」
「なんで他の奴らじゃなくて、俺たちにこの依頼を持ってきたんだ?」
エドワードの質問は、一見するとバカげている。彼らが選ばれた理由なんて「アホでチョロそうなカモだから」に決まっているではないか。
だが、その真剣な眼差しは、何か核心を突いているようにも見えた。領主は一つ、短く息を吸い込んだ。
「実を言うと、君たちを指名したのは他でもない、エリザベスなのだよ。私なら、娘の遊び相手にこんな無能……ゴホンッ、君たちのような者を選ぶはずがないからね。だが、娘は特別だ。生まれながらにして周囲から恐れられ、長い間、外の世界から完全に隔離されて生きてきた」
(なるほど……それならあんな奇行に走るのも無理はないか……。むしろ、俺たちみたいな連中に少しでも寛容な態度を見せたこと自体が驚きだな……)
「しかし、ヘスティリアの大都市で、スディスタ村の『4人の新入り』に関する裁判があったと聞いてから、彼女の様子が少しおかしくなった。どうして村中がその新入りたちをそこまで忌み嫌っているのか、非常に興味を惹かれたようだった」
(そりゃそうだろうな……。俺たち、盛大にやらかしてこの世界の厳しい現実にボコボコにされたからな。だが、あんなお上品なご令嬢が、なんで俺たちみたいな負け組の落ちこぼれに興味を持ったんだ?)
「だが、彼女が最も興味を示したのは、アントワネット家のご令嬢が我が家を訪れた時のことだ。彼女は『親切な新しい従業員』の話をしてね。店の手伝いをしてくれる優しい魂の持ち主をようやく見つけたと嬉しそうに語っていたよ。確証はないが、おそらくあの時、エリザベスはアンネステリアに嫉妬し始めたのだと思う。彼女が、君たちのあの『愉快な冒険譚』を語って聞かせたからだ」
(いかにもアンネステリアらしいな。エリザベスが嫉妬するのも無理はない。なんせ俺たちは、この村で最も力を持つ最強の冒険者パーティーだからな)
領主の説明を聞きながら、3人は誇らしげにウンウンと頷いた。
結局のところ、世界を終わらせるほどの力を持っているとはいえ、彼女もただの自分たちの熱狂的なファンだったのだ。
「そしてエリザベスは、私に一つのお願いをしてきた。彼女は元々多くを望むような子ではない。あんな風にねだられたのは初めてだった。彼女はこう言ったのだ。『社会から見放されたそのグループと、一緒に時間を過ごしてみたい』と」
(まさにその通りだ……って、ん? 今なんて?)
「娘はこう言っていたよ。理由は分からないが、アンネステリアから君たちの『あまりにも惨めで底辺な村での生活ぶり』を聞いて、自分とひどく似ていると感じたと。社会から見放されることの辛さを理解したのだそうだ。さらには、君たちが老若男女問わず、女子供相手でも容赦しない平等なクズであり、魔王の欠片を前にしても情けないほど無様に振る舞うと聞いて……娘の好奇心は最高潮に達したらしい。まぁ、そういうわけで、私は君たちにこのクエストを依頼したのだよ」
シーーーーン……。
部屋の中は、完全な沈黙に包まれた。
3人は前髪で顔を隠し、微動だにしない。ただ、プルプルと震える拳をギリィッと握りしめる音だけが響いていた。
そして、その隠された顔には、一筋の涙が頬を伝っていた。
『クソッ……アンネステリアの野郎、次会ったら絶対にあの事実無根の誹謗中傷のツケを払わせてやる!!!』
プライドを粉々に打ち砕かれた3人の男たちは、怒りとも屈辱ともつかない声を心の中で張り上げていた!
ドゴォォォンッ!!!
突然、ドアが凄まじい轟音と共に吹き飛び、枠組みごとポッカリと巨大な穴が開いた!
そこに立っていたのは、エリザベスだった。
だが、その姿は先ほどまでとは完全に異なっていた。有名なソシャゲのガチャから飛び出してきたかのような、神々しいまでの美しさと、圧倒的なまでの絶望感。あまりにも異質で、不気味だった。
彼女は迷いなく足を踏み入れ、部屋の隅々まで鋭い視線を巡らせた。
一方、領主と3人のバカたちはというと――すでにそれぞれ別の場所に完璧に隠れ終えていた。
アドレナリンの分泌量が限界突破した結果、彼らはコンマ数秒で自分にぴったりの潜伏先を見つけ出していたのだ。
イツロウはソファの巨大な掛け布団の下で芋虫のように丸まり、
マイクはカートゥーンアニメのようにテーブルの真上の天井にへばりつき、
エドワードは家具の裏に虫のようにうずくまり、
そして領主に至っては……クローゼットの中に引きこもっていた。
彼らの頭の中には、ただ一つの言葉だけが浮かんでいた。
『生き残る(サバイブ)』――と。
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