第24話 一体どういう作戦だ?(第2部)
「お褒めに預かり光栄ですわ、マイク。ですがおっしゃる通り、私の育ちの良さと謙虚さは最大の長所。うちのメイドたちに付き纏う発情した豚のように、いつも振る舞うわけにはいきませんもの」
彼女は妖艶で、どこか挑発的な声で答えた。マイクの目を真っ直ぐに見つめながら、妙に色っぽいポーズまでとっている。
(こ、こいつ、マジでマイクを行かせようとしてるのか!? マイク、罠だぞ! 騙されるな!)
イツロウは恐怖に震えながら心の中で叫んだ。
「に、二度は言わねえぞ……サンズはどこだ!」
マイクは弱々しく拳を握り、自分の腕を強く抱え込んでいた。まるで、サンズへの『忠誠心』と、あからさまな誘惑への『性欲』の間で、ギリギリの精神的闘争を繰り広げているかのようだ。
「俺たちを誤魔化そうとするんじゃねえ、このクソ女!」と、エドワードが吠えた。
「クソ女? 私はあなたより年上だし、背もずっと高いですわよ、『弟くん』?」
エリザベスは口角をニヤリと吊り上げる。
「俺を見下すんじゃねええ!」
飛びかかろうとするエドワードを、イツロウが慌てて羽交い締めにし引き留めた。
(マズイぞ)と、イツロウは冷や汗をかく。(こいつ、俺たちをわざと怒らせて弱みを握り、脅迫しようって魂胆か? 普通ならエドワードが得意とするようなマインドコントロールの手口だ。こいつ、俺たちの弱点を全部把握してやがる……クソッ!)
エリザベスは自制心と戦い続けるマイクを完全に無視し、エドワードへと歩み寄った。その顔には、幼い子供に向けるような、優しく甘い笑みが浮かんでいる。
エドワードはピタリと固まり、動けなくなった。
エリザベスの手が伸び、エドワードの髪にそっと触れる。計算し尽くされたような優しい手つきで、彼女はエドワードの頭を撫で始めた。
「いい子ですわね」
「痛てっ!」
「え? ごめんなさい、弟くん? 今、なんて——」
「痛ええええええッ!!!」
部屋にいた全員が衝撃を受けた。
自室のデスクから静かにその光景を眺めていた領主(ナハトヴァルト卿)は、ただそっと目を閉じ、完全に無の境地へと至っていた。
「頭が! 頭が割れたああ! 痛ええええっ!」とエドワードが絶叫する。
「ヒッ!?」
エリザベスは驚きのあまり変な声を上げた。エドワードが床をゴロゴロと転げ回り、死に物狂いで叫び始めたのを見て、彼女は自信なげに一歩後ずさりする。
「じ、冗談でしょう!? 私、ほんの少し触れただけで……!」と彼女がうろたえる。
「今、触れたって自白したな! 同意なしで俺に触りやがった!」床に転がったまま、エドワードが指を突きつける。「法廷でどう釈明するつもりだ、ええ!?」
エリザベスは頬をプクッと膨らませ、完全にフラストレーションを溜め込んでいた。今にも泣き出しそうに両拳を固く握りしめている。
その瞬間、ドッと空気が重くなった……。
「なんてことだ! エドワード、お前の頭が!」イツロウがこの詐欺劇に便乗する。「こいつ、不意打ちで暴力を振るった上に、お前の身体的特徴をバカにしやがったぞ!」
「ち、違いますわ! そんな言いがかりはやめてください!」エリザベスが声を震わせる。
エドワードは顔を覆ってウソ泣きを続けていた……が、実際には嬉し泣きだった。(やったぜ! 今回ばかりは俺たちが『被害者』として裁判に勝てる!)
とはいえ、エリザベスは極度に感情的になっていた。
この濡れ衣にひどく傷ついたようで、彼女の周囲の気圧がさらに重く、濃くなっていく。まあ、大したことはないだろう……少なくとも、彼らはそう思っていた。
「少年たちよ……その話題にはこれ以上踏み込まないことをお勧めするよ」
領主が感情の籠もらない声で警告した。
よく見ると、彼はこっそりと自分の執務室のドア枠に向かってすり足で移動している。まるで逃亡の準備をしているかのようだった。
「何とでも言え! サンズを拐った(さらった)だけじゃ飽き足らず、エドワードにまで手を出したってわけか!」と、マイクがさらに油を注ぐ。
エリザベスはますます打ちのめされた様子で、床のエドワードをじっと見つめていた。当のエドワードは、伏せた顔の隙間から彼女の反応をチラチラと伺い、彼女が見ていない隙にアッカンベーと舌を出して挑発している。
やがて、エドワードは名女優顔負けの演技で、ゆっくりと立ち上がった。
わざとらしく打ちひしがれ、深く傷ついたような顔でエリザベスに近づき、彼女が自分を見下ろすよう仕向ける。
「その罪悪感こそが、俺たちの正しさを証明してるぜ! 俺たちを唆し(そそのかし)、脅迫しようとしたんだろ! その手口、魔王かそれ以上に胸糞悪いぜ!」
それは、言ってはいけない決定的な一言だった。
感情のダムを決壊させる最後の一滴。エドワードのその言葉は、彼女の逆鱗に完璧に触れてしまったのだ……。
(……やべ、さすがに言い過ぎたか?)
「……クソガキが」
「え?」
「私の我慢も、ここまでですわ」
エリザベスの声には、もはや先ほどの優しさも、フラストレーションも微塵も残っていなかった。ただひたすらに、絶対零度の氷のようだった。
「あなたたち、そんなにあのサンズのことが心配なのですね? ならば、彼と『全く同じ目』に遭わせてあげましょう!」
奇妙なことに、3人はすぐに身の危険を感じたわけではなかった。彼らにとってこの手の修羅場は日常茶飯事だからだ。だが同時に、恐ろしいほどの『既視感』に襲われていた。
(あ、そういえば……)と、彼らは思い出した。
(銀髪碧眼で、しかも名家出身の若くて美しい貴族令嬢。おまけに誇り高いブルジョワジー……)
(大抵こういうキャラは、完璧な基礎魔法を使いこなし、規律を重んじる貴族特有の格闘術を修め、おまけに超人的な怪力を持っているのがお約束だ)
通常、物語においてこの手のキャラクターは主人公をサポートしてくれる頼もしい味方だ。しかし悲しいかな……彼らは決して、異世界漫画の真っ当な主人公などではなかったのだ!
エリザベスが、震える足で立つエドワードの顔を覗き込んだ。
「おい、ガキ」
「お、俺!?」
「そうよ弟くん。ここまで性根の腐った人間に、本気で腹を立てたのは初めてですわ! あなた、最低のクズね」
「ち、違うし!」
「でも、私は慈悲深く思いやりのある優しいお姉ちゃん。もしあなたが大人しく、永遠に『弟』の役割を全うするなら……許してあげないこともなくてよ」
(このクソ女……!)
彼女の手が再び、ゆっくりとエドワードの髪へと伸びていく。
エドワードは今度こそ、あの『お坊ちゃん服』を着せられた時のような、本物の恐怖で泣き出しそうになっていた。
パンッ!!
「気安く触ってんじゃねえ!」
マイクだった。エドワードの頭に乗ろうとしていたその手を、強引に、かつ威圧的に叩き落としたのだ。
イツロウも一歩前に出て、なぜか妙に自信満々な顔を浮かべている。
一方のエリザベスは、真正面から拒絶されたことを脳がうまく処理しきれず、完全にバグっていた。
「マイク! イツロウ! お前ら、マジで最高のダチだぜ!」とエドワードが歓喜する。
「安心しろエドワード! どうせ3人がかりでボコれば、こんな奴一瞬だ!」とマイクが豪語する。
「ああ、いい作戦だぜ!」とイツロウも同調した。
その瞬間、屋敷の領主がバンッと扉を大きく開け放った。
彼の顔はもはや無表情などではなく……滝のような汗を流し、完全にパニックに陥っていた!
「少年たち! 早く来なさい! 時間がない、今すぐエリザベスから離れるんだ!!」
ぜひページ一番下の【☆☆☆☆☆】から星評価やブックマークでの応援をお願いいたします!
皆様の応援が執筆の原動力になります!




