第24話 一体どういう作戦だ?(第1部)
ここ最近、サンズの噂を全く聞かなくなっていた。
少なくとも、それにようやく気づいたのはマイクだった。メイドたちを盗み見するという天才的な作戦を持ちかけようと彼を探していたのだが、サンズは自室にも、サロンにもいなかった。完全に姿を消していたのだ。
まるで神隠しにでも遭ったかのように。
「なぁイツロウ、誰か一人足りなくないか?」と、マイクが口を開く。
「ああ、お前がそう言うと……俺も少しアンネステリアが恋しくなってきたな」と、イツロウがため息をつく。
「そっちの話じゃねえよ! サンズの奴がこの1ヶ月間、全く姿を見せてないだろ!」
1ヶ月。そう、自称「固い絆で結ばれた幼馴染たち」が、愛すべき悲劇の友・サンズの不在に気づくまでに、なんと丸1ヶ月もかかっていたのだ。
正論めいたことを言うマイクの図太さに、イツロウは思わず片眉をひそめた。
「1ヶ月って……確かに最近見ないな。あいつ、いつ戻ってくるんだ?」
「そんなこと俺が知るか、馬鹿野郎! いいか、ぶっちゃけ俺はこのクエストにウンザリしてきてるんだよ。エリザベスの奴、俺をからかったり踏んづけたりする特権を全然使おうとしないんだぜ!?」
「それは悲しいことだな……」と、イツロウがジト目で返す。
「お前は言うな! 最初からずっと隠れてて、エリザベスに会ったのなんて自己紹介の時だけじゃねえか! あれ以来、お前が彼女と一緒にいるところなんて一度も見てないぞ!」
犬と猫のように言い争う二人の前に、突然、バンッ!と扉を蹴破ってエドワードが飛び込んできた。その顔には、悲劇のヒロインのような表情が浮かんでいる。
「もう限界だ! あのクソブルジョワ令嬢、いい加減にしやがれ!!」
その姿は、なんとも奇妙なものだった。エドワードは、まるで上流階級の『坊ちゃん』のような可愛らしい服を着せられていたのだ。
「なんだよ、気品あるお坊ちゃんみたいな格好しやがって」
「おや? 髪型もずいぶんとお上品にセットされてるじゃないか」
マイクとイツロウからすれば、彼の怒りは全くの筋違いに思えた。実のところ、何も悪いことなど起きていないように見える。
しかし、エドワードはギリギリと拳を強く握りしめており、ボキボキと骨が鳴る音が聞こえるほどだった。額には青筋が何本も浮かんでいる。
おまけに、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「お前らには分からねえんだ! 自分の意思に反してこんな服を着せられる屈辱が! しかもまたしても『完璧な弟シンドローム』の被害者になるなんて!」
マイクとイツロウは目を丸くした。
(また弟扱いされたのか!?)
二人は心の中で見事にハモった。アンネステリアの時はそこまで悔しそうではなかったのに、今のエドワードは本気で傷ついているように見える。
「吐けよ、エドワード。一体彼女に何をされたんだ?」
「あいつ……俺に選択肢すら与えなかった! 『俺をガキ扱いするのはやめろ!』って抗議したのに、あいつはこう言いやがったんだ! 『馬鹿なことを言わないで、私の可愛いエドワード。15歳だなんて言ってるけど、あなたはどう見ても8歳か、せいぜい10歳にしか見えないわよ』ってな! あのアマ!」
涙声でどもりながらキレるエドワードの説明は、ひどく聞き取りづらかった。
しかし、マイクとイツロウにとって、これは完全に一線を越えた出来事だった!
サンズが行方不明なのも問題だが、エドワードが残された最後の尊厳までへし折られたとなれば話は別だ!
「分かったぜエドワード、こんなクエスト、今すぐ辞退してやる!」マイクが熱く叫んだ。
「そのついでにサンズも見つけ出そう! あいつがどんな拷問を受けてきたか想像もつかねえ。きっとあの女の仕業に違いない。ついに化けの皮が剥がれたな! 奴の本性を暴いてやる!」
サロンに一瞬の静寂が降りた。エドワードの「ヒック……グスッ……」という小さなしゃくり上げる声だけが響く。
「そういえば……確かに最近、サンズの姿を見てないな」とエドワードが鼻をすする。
(お前も気づいてなかったのかよ!!?)
彼らは重い足取りで、ナハトヴァルト卿の執務室へと向かった。
エドワードは、せめて最後くらいは派手な入場を決めてやろうと考えていた!
ドンッ!!
「ん?」と、執務室の中から領主が眉をひそめる。
誰も入ってこない。しかし、明らかに誰かが扉を強行突破しようとして、分厚い木の板に頭を強打した音が響いた。
扉の向こうから、小さな声が聞こえてくる。
「いててて……俺のオーラが全部消し飛んだ。な、なぁ、鼻血出てないよな? な!?」
「出てない、出てないから安心しろ……。でも俺たちの説得力は完全に消え去ったぞ、このバカ。お前の作戦、たまにマジでポンコツだからな」
「だから普通にノックしろって言っただろ。お前も同罪だからな、イツロウ」
コン、コン、コン。
ようやく扉の鍵が開く音がした。
「入れ」
エドワード、イツロウ、マイクの三人が、足を引きずりながら静かに入室してきた。エドワードの額には、見事なたんこぶがポッコリと出来上がっていた。
「どうしたのかね、少年たちよ?」と卿が尋ねる。
「俺たち、このクエストを辞退します! もしくは、このイカれた状況について納得のいく説明を要求します!」
マイクが間髪入れずに不満をぶちまけ、その後ろでエドワードとイツロウが深く頷く。
しかしその時、廊下から足音が響いた。ゆっくりと、だが確かな自信に満ちた足音。そして、とてつもない威圧感!
「おやまあ……それは困りますわ。あなたたち、私のお相手としてはまだ全然物足りないというのに。弟くん、ずいぶんと行儀が悪いわね? こんなに早く家族の巣から巣立とうとするなんて、お姉ちゃん本当に悲しいわ」
エリザベスが扉の枠に寄りかかって立っていた。廊下の逆光のせいで彼女は恐ろしいオーラを放っており、真っ暗なシルエットの中で、その鋭い青い瞳だけが不気味に光っていた。
(こえーよ!)とイツロウは心の中で震え上がった。
「ちょうどいい、お前も来たか! いいか、まず第一に、俺はお前の弟じゃねえ!」エドワードが吠える。
「馬鹿なことを言わないで、弟くん。ほら、私たち、目の色も同じじゃないの」
「笑わせんな、また俺を見下そうって魂胆か!」
するとマイクがドスドスと前に歩き出た。エリザベスのわずか4歩手前でピタリと止まる。
「お前のその育ちの良さと、謙虚すぎる悪癖にはもう騙されねぇぞ! サンズをどこへやった、言え!」
(……は? 悪癖? 育ちの良さ? あいつ、使う言葉のチョイス間違ってないか?)
エドワードは片眉を吊り上げ、マイクの語彙力に本気で疑問を抱いた。
(ただの変態が)
イツロウはただ一言、心の中でそう吐き捨てた。
ぜひページ一番下の【☆☆☆☆☆】から星評価やブックマークでの応援をお願いいたします!
皆様の応援が執筆の原動力になります!




