第23話 美女とポンコツ(第2部)
(短い夜だった……。目覚めた瞬間から、俺はこれから始まるであろう凄惨な扱いに覚悟を決めていた。)
メイドたちに身支度と着替えを済ませてもらった後、俺は自分がこれほどまでに命を懸けて守り抜いている、あの親友たちの元へと向かった。
「よお、サンズ。一応言っとくがな、別に文句じゃねぇんだけどよ……次はもうちょっと静かにしろ。おかげで全然眠れなかったじゃねぇか」
(ああ、エドワード……。お前がもし、俺の潜り抜けた死線を少しでも知っていたら、そんな小言は口が裂けても言えないはずだ。むしろ、このパーティのために捧げた俺の気高くヒロイックな自己犠牲を、涙ながらに讃え、歌い上げることだろう。)
「ああ、悪かったな、エドワード。でもな、まだ遅くはないんだ。今からでもアンネステリアさんの所に戻るって手も……」
「……実はよ、この一週間、アンネステリアの奴が俺の部屋の窓にずっと小石を投げてきてたんだわ。正直、あいつの顔を見た時はちょっと嬉しかったぜ……」
(おっ!? ってことは、結局この泥沼から脱出するルートがまだ残ってたってことか!? よっしゃ、俺の尊い犠牲は無駄じゃなかったんだ!!)
「お、おお! それって最高じゃねぇか! だったらもう、こんなクエストなんて興味ねぇよな!」
「いや、遠慮しとくわ。まだクエストやってる方がマシだ」
「はあ!? お前おかしいだろ! さっき『顔見れて嬉しかった』って言ったばっかじゃねぇか!!」
「いや、嬉しかったのは確かだぞ。……あいつが『おいで、弟くん。お姉ちゃんが道を開いてあげるわよ』とか抜かすまではな。また俺をガキ扱いして見下してきやがったからよ。即行で衛兵を呼んで追い払ってやったわ」
(マジでエドワード、調子乗りすぎだろ……! 元の世界じゃ、実の妹以外からこんなに愛情を向けられる機会なんて、一度たりともなかったくせに。それなのに、長い栗色の髪とエメラルドの瞳を持つ美人な本屋のお姉さんが『甘やかしてあげる』って言ってくれてるのに、それを断るなんてどんな傲慢だよ……!)
「あら? 皆様、あんな所にいらっしゃったんですのね?」
不意に背後から声が響いた。(ビクゥッ!?)
……誰かが来た。エリザベスだ……! この、とんでもないドS女が!!
「おはようございます、エリザベス様。今日もまたチェスをなされるんですか?」
「ええ、もちろんですわ、エドワード。あら、サンズもいるのね……」
「はい。こいつのことは気にしないでください。またアンネステリアのことで妄想に浸ってるだけなんで」
ピクッ、と。
エリザベスの心臓が、一つ大きく跳ねたのがわかった。
(……待て待て待て、今、俺のこと殺気立ったジト目で睨みつけてない!?)
エドワードの野郎、ここでアンネステリアの名前を出したせいで、俺をとんでもない地雷原に放り込みやがった!!
「あら、そうなのですか?……それは、とても嘆かわしいことですわね」
「ん? なにかマズかったですか?」
「いえ、なんでもありませんわ、エドワード。……ええ、なんでも」
(『なんでもない』って言いながら、顔面にサイコパスみたいな笑みと青筋が張り付いてるんですけど!? なんでエドワードはあの顔を見て何も気づかねぇんだよ!?)
結局、二人はそのままチェスを始めることになった。エドワードの奴の性格からして、どうせ全戦全勝で叩き潰すに決まってる。
「私が勝ちましたわ! 私、このゲームはそこまで得意ではなかったはずなのですが!」
「へえ、すごいっすね。マジ最高っす。エリザベス様、強すぎ」
わずか10手での敗北。しかも死んだ魚のような目で、微塵も悔しそうじゃない無関心な声で、エドワードはそう言い放った。
(エドワードの奴、エリザベスの機嫌を損ねないために、わざとチェスで負けるくらい落ちぶれちまったのか……? いや違う、あいつのことだ。これも全部クエストのためだけにやってるんだ。マジでプライドとか尊厳ってもんが一切ねぇのかよ!)
「さて、どうもありがとう、エドワード。あなたの時間は自由になさい」
「ありがとうございます、エリザベス様」
(スタスタスタ……)
エドワードの足音が遠ざかっていくのに合わせて、エリザベスが、ギギギ……と、ゆっくりこちらへ首を向けた。
「さて……私の可愛いサンズ。どうやらあなたは、まだお勉強が足りていないようですわね。……ふふっ、たっぷりとお仕置きの時間ですわ」
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